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日本代表 3年前

U-24日本代表の運命を分けたPK戦、完全ドキュメント。ニュージーランド戦最後の11分間に何が起こっていたのか【コラム/東京五輪男子サッカー】

シリーズ:コラム text by 舩木渉 photo by Getty Images, JMPA

ヒーローになる時が来た



 カカーチェは短い助走で左足を振り抜く。「タイミングもばっちしでしたし、読み通りに当たった」という谷は、右に跳んでPKを完全に弾き出した。ガッツポーズなどせず、表情も変えない。直感を信じて、4年前の苦い記憶を払拭することに成功した喜びを押し殺しながら次の出番に向けて集中を研ぎ澄ませていた。

 日本の2人目は板倉だ。「自分のキックに自信を持って、なるべく落ち着いてできるようにと、自分に言い聞かせてやっていました。最後まで相手をしっかり見て蹴られたことはよかったです」と語った背番号4は、早めに動くGKのタイミングを完全に外してゴール左下隅に完璧なシュートを流し込んだ。

 そして、ここで流れが日本に大きく傾くことになる。すでに1人失敗しているニュージーランドは、3人目のキッカーとしてクレイトン・ルイスを送り込んだ。すると120分間フル出場して日本の中盤の選手を追い回し続けていたMFは、ゴール右上隅を狙ったPKを大きく枠から外してしまう。重要な場面でのPK失敗に、頭を抱えた。

 日本の3人目、中山は冷静だった。「僕が蹴るタイミングでは(谷)晃生がアドバンテージを作ってくれたので、晃生のアシストがあってこそだったと思うし、僕的には楽な気持ちで蹴れました」と語る東京五輪世代のキャプテンは、長めの助走からゴール左下隅に速いボールを突き刺してガッツポーズ。笑顔がはじけ、それまで胸に秘めていた勝利への想いがあふれ出た。

 ニュージーランドは4人目のカラム・マコーワットがしっかりと決め、望みをつなぐ。だが、次で日本が成功すれば、その時点で試合終了。準決勝進出を決められる極めて重要な4人目のキッカーは吉田だ。

「緊張? しますよ(笑)。するでしょ、あの感じ! ただ、晃生が2本止めていてくれたし、(遠藤)航も『1本は外していいですよ』と言ってくれていたので。もうココ! と決めたところに蹴りこみました」(吉田)

 公式戦では一度もPKを蹴ったことがなかったというキャプテンだったが、鋭いシュートをゴールの左下隅に決めて見せた。決勝トーナメントを前に「僕自身はここからが自分の仕事だと思っているので」と話していた通り、準決勝進出へ重圧のかかる役割をしっかりと果たした。5人目以降に控えていた遠藤、久保、三好康児、三笘薫、橋岡大樹、冨安健洋、そして谷にキッカーの順番が回ってくることはなかった。

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