PK戦に立候補した勇士たち
上田は「自分の中で、立候補しないで6番目とかで終わっても悔しいだけというか、自分が単純に気に食わなかったです。自分が外したまま終わるのが嫌だっただけです」とも語った。ストライカーとしてのプライドが、背番号18の心を動かした。
続いて、板倉滉が2人目に立候補する。「自分も決められる自信があったので蹴りたいと言いました」と語った彼も、上田と同じく途中出場。脚力も十分に残っており、長きにわたって東京五輪世代を引っ張ってきた自覚と責任を示す時がきた。
3人目には中山雄太が名乗り出た。彼も途中出場で体力面は問題なし。オーバーエイジでチームに合流してきた吉田に代わるまで、東京五輪世代のキャプテンを務めてきた男には「自信があった」。
そして、4人目は中山からキャプテンマークを引き継いだ吉田に。「最後、麻也くんに『何番がいいですか?』と聞いていて、僕は『5番目がいいです』と。4番目か5番目が僕か麻也くんでした」と明かした遠藤航が、最終的に5人目に決定した。
吉田と同じくオーバーエイジとしてチームを引っ張ってきた遠藤には、「5番目」であることが成功と勝利につながる予感があった。
「PK戦、せっかくこういう舞台で蹴れるチャンスはないし、浦和レッズで(2016年に)ルヴァンカップを獲ったときも5番目だったんですけど、そのときみたいな感覚で自分が決めたいと思ったし、今日に関してはそういう強い気持ちを持っている人が蹴ればいい。だから『蹴りたい』と言ったメンバーが最初に5人揃いました」(遠藤)
6人目以降も「蹴りたい順」で並ぶことに。準備は整った。
円陣を組み、最後までチーム一丸となって戦うことを確認して、11人は再びピッチの中へ。選手たちはGKの谷晃生に声をかけて、ハーフウェーラインへ向かった。その多くが「お前がヒーローになるチャンスだ」というもの。ここまでわずか1失点の守護神は奮い立っていた。
フィールドプレーヤーたちがPKの順番を決めている間、谷は川口能活GKコーチからニュージーランドの選手たちのPKのデータを伝えられていた。しかし、「全然頭に入ってこなかった」と明かす。興奮状態で試合に入り込んでいた谷は、最後に川口コーチから授けられた「データだけでなくお前の直感を信じてやれば、絶対にヒーローになれる」という言葉を信じ、従うことにした。
「特別なことはないですけど、最後までゴールライン上に足を残して、自分の直感を信じて、全力で跳ぼうという、それだけですね」(谷)