フットボールチャンネル

酒井宏樹とトヴァン、“最後”の共演。「何回『ありがとう』と言っても足りない」親友と別れの時【東京五輪】

text by 編集部 photo by JMPA

酒井宏樹 フロリアン・トヴァン
【写真:JMPA代表撮影】



 U-24日本代表は28日、東京五輪のグループステージ第3節でU-24フランス代表に4-0で快勝。出場国中唯一の3戦全勝で文句なしの決勝トーナメント進出を果たした。

【今シーズンのJリーグはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】


 この試合で日本の勝利を引き寄せるゴールも挙げたDF酒井宏樹にとって、東京五輪のフランス戦は「運命的」で特別な試合だった。

「抽選会でフランスと同じグループになって、こうやってまさかオーバーエイジでフロリアン(・トヴァン)が選ばれて、すごくそれだけでも運命的なのに、まさか自分もゴールでとは思っていなかったし、本当にサッカーの神様に感謝しています」

 U-24フランス代表の右ウィングで先発出場していたFWフロリアン・トヴァンは、酒井とマルセイユで5年間ともにプレーしたチームメイトだ。幾度となく縦関係でコンビを組み、彼らが躍動する右サイドはチームの武器に1つになっていた。そして、2人はただのチームメイトにとどまらず、特別な親友の関係でもある。

 今夏、同じタイミングでマルセイユを退団。トヴァンはメキシコ1部のティグレスへ、酒井はJリーグの浦和レッズへ、それぞれ移籍が決まっている。今回の五輪は2人にとって新天地への合流前に同じピッチの上でプレーする最後のチャンスであり、別れの時でもあった。

 試合を終えた酒井とトヴァンは互いに別れを惜しむようにピッチ上で話し込み、ハグを交わした。「この勝利はしっかりと味わいたいですし…本当に親友との別れなので、最後もしゃべっていて…あまり普段泣かないですけど、すごく泣きそうで…」と取材中の酒井は溢れてくる感情を抑えるのに必死なようだった。

 それだけ親友のトヴァンという存在が酒井にとって特別だったということだろう。

「ただの5年間の同僚じゃなかったので。彼がいなければ5年間も(マルセイユで)プレーすることはできなかったですし、何回『ありがとう』と言っても足りないと思いますけど、思いは伝わったと思います」

 近年、マルセイユはオーナーの交代や財政難など多くの困難に見舞われてきた。酒井やトヴァンといった在籍歴の長い選手たちは、多くの主力が売却または放出を余儀なくされる状況でもクラブに残り、ビッグクラブを支えてきた。

 今回のフランス戦は苦楽を共にした仲間との別れの時。酒井とトヴァンの2人が同じピッチの上に立って戦う機会は、もう2度とないかもしれない。

「マルセイユの経営が厳しい時からの関係だったので、僕らでチームをよくしていったという自負はありましたし、僕とフロー(トヴァン)ともう1人のボランチ(マクシム・ロペス=昨季からイタリアのサッスオーロに所属)がいたんですけど、その3人であればどんな相手でも崩せるような、そういう関係性だった。彼ら2人を失った後は僕も不安定でしたし、やっぱりフローが移籍を決断したのは僕にとって大きなターニングポイントだったので、それも(浦和レッズへ)移籍した理由にはもちろんあります」

 トヴァンのティグレス移籍は今年5月に発表されていた。マルセイユを長く支えた功労者がメキシコ行きを決めたことが、酒井に5年間プレーした愛着あるクラブを去る時だと感じさせる一因になってもいたのだという。親友のことを「もちろん日本には誘っていました」と明かすが、最終的にトヴァンはメキシコを選び、酒井は日本へ復帰する選択をした。

「彼にも彼の決断がありますし、お互い連絡も取り合う仲ですし、ここ最近は毎日連絡を取っていたので、これが終わったとしても良い関係でいられればいいかなと思います」

 5年間で固く結ばれた親友の絆が切れることはない。互いの距離がどれだけ離れていようと、一生モノの友情は不変だ。

 酒井は試合後の取材中ずっと、絞り出すように別れを惜しむ言葉を紡ぎながら、ピッチ上で交換したトヴァンのユニフォームを右手で固く握りしめていた。

(取材・文:舩木渉)

【了】

KANZENからのお知らせ

scroll top
error: Content is protected !!