久保建英が抱えた「多少の不安」
コロナ禍の東京五輪開催への不安や懸念がこの一戦に集中する格好になり、久保も「あることないこと書かれた」と不満そうに発言。嫌でも雑音が耳に入ってくる状態に陥った。加えて、試合前日に守備の要の1人である冨安健洋が左足首を負傷し、三笘薫とともにベンチ外になった。こうしたアクシデントを乗り越えなければ、悲願の東京五輪金メダルはつかめない。日本選手たちの真価が試される形になったのだ。
ところが、十分な調整ができていなかったはずの南アフリカは5-4-1の超守備的布陣で奮闘。個々の身体能力も高く、堂安や三好康児が仕掛けても簡単に突破を許さない粘り強さを押し出してきた。「前半はシャイになりすぎた」と吉田も反省の弁を口にしたが、自陣でボールを回しているだけでアタッキングゾーンに勝負のパスを思うように入れられない。レフリーの荒れたジャッジも重なり、前半の日本は想像以上の大苦戦を強いられた。
そういう中でも、久保は虎視眈々とゴールを狙っていた。積極的な姿勢が顕著に表れたのが前半16分の決定機。遠藤から中山雄太へ展開。ダイレクトで折り返すと中央から林大地が飛び込み、ファーの久保が詰めて左足でシュートを放った。だが、ボールはサイドネットを直撃。「あのフリーで受けた場面なんかは、普段なら確実に入っているシュート。決め切れず、多少の不安があった」とつねに強気の20歳のレフティーも弱気の虫が顔を出したと明かした。
けれども、決戦の舞台・味の素スタジアムはFC東京時代に一度も負けていないゲンのいい場所。本人の中にもどこかいい感触があったのだろう。それを後半も持続したことで、後半26分の大仕事につなげられたのだ。
遠藤航が中山に出した縦パスが発端だった。それを途中出場の相馬勇紀が受け、ペナルティエリア左外にいた田中碧に預ける。次の瞬間、田中碧は浮き球のボールを逆サイドに展開。それを右エリア内ギリギリのところで久保は対面のDFマビリソを鋭いドリブルでかわし、左足を一閃。GKウィリアムズも反応しきれない強烈シュートを蹴り込んだ。
「田中碧選手からボールをもらったら、切り替えしてファーを狙おうと決めていた。『決めるとしたら今日は自分しかいない』と言い聞かせて、結果得点、チームも勝ててうれしかった」
試合後にホッとした様子を見せていたが、実は久保というのは「大舞台の初戦で結果を出せる男」なのだ。