【写真:Getty Images】
東京五輪で金メダル獲得に挑むU-24日本代表では、3人のGKが本大会での出場に向けて切磋琢磨している。
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谷晃生、大迫敬介、鈴木彩艶の3人を指導しているのは、日本代表で長きにわたって活躍した川口能活だ。1996年のアトランタ五輪にも出場し、「マイアミの奇跡」でブラジル代表を破る快挙に貢献したレジェンドは後輩GKたちにトレーニングの中でどんな教えを施し、何を伝えているのだろうか。
大迫は以前の取材の中で「小学生のときに最初にあこがれたときはピッチ内(現役)で、すごく熱くて自分に厳しい、というイメージでした」と、川口コーチに対して抱いていた思いを語っていた。
だが、いざコーチと選手という立場になると「すごく優しくて、おおらかな雰囲気だったので、最初に会ったときはギャップを感じました」と明かす。そのうえで「自分の経験を生かし、自分の感覚も含めたピッチ内での細かい指導は、僕たちにとってすごく良い参考になります」とも述べる。大迫は川口コーチの指導にすでに心酔しているようだ。
U-24日本代表のGK練習を見ていると、細部の技術にこだわり、実戦で起こりうるシチュエーションを想定したメニューが多いと感じる。基礎練習の中にも連続して正しいポジションを取らなければ捕球できないようなシチュエーションを作り、頭を使いながら同時に複数の動きを正確にこなす必要のあるメニューも多い。
鈴木は「能活さんのトレーニングは連続系が多いので、息が上がりながらも、そこで技術や丁寧さを発揮することが大事になってきています」と、要点をしっかり理解している。そして「僕はまだまだスピードが上がった時に技術がなかなかともなっていなかったりする」と自身の課題ともマッチした練習内容に充実感を覚えているところだ。
「(川口コーチからの教えで特に意識する点の)1つはシュートに対してキャッチするのか弾くのか、その弾くのもどこに弾くのかということの大事さの部分。もう1つはシュート前のポジショニング。高すぎず、下がりすぎずというポジショニングは細かく言われています」(鈴木)
全体練習が終わっても最後までグラウンドに残ってトレーニングに励むのは、いつもGKたち。現役時代に練習の虫として知られた川口コーチらしく練習量は多く、選手たちを容赦なく追い込む。代表活動は短期間だが、新米GKコーチは限られた時間の中でも成長のきっかけを与えようと意欲的だ。
東京五輪の正守護神候補筆頭となっている谷は、「細部までこだわることが必要だと感じています。そこをどこまで突き詰められるか。練習でやれないと試合でできない。キャッチするのか、弾くのか、弾くならどこに弾くか、ポジショニングもそう。練習の中で落とし込みながら、試合を意識しながら今はやれているのかなと思います」と、川口コーチから受ける指導の効果を実感しているようだ。
昨年12月には森保一監督も「川口コーチの練習は、GKが(シュートを)止めるところへの働きかけと、攻撃にも関わっていくところの働きかけを非常にバランスよくやってくれていたと思います」と語り、絶大な信頼を寄せていることがうかがえた。
練習中も川口コーチとGK陣の会話量はとても多く、練習後にグラウンド上で長時間ディスカッションしていることも多い。さらに試合後のフィードバックも徹底している。
12日に行われたU-24ホンジュラス代表戦に先発起用された谷は、「試合後に能活さんとも話して、やっぱり『失点した後の行動が一番大切だ』と。そこでどれだけ(気持ちを)切り替えて、顔を上げてチームのプラスになるように、次の失点を防ぐためにやっていけるかがGKとして一番問われるところだという話もしてもらいました」と明かした。「切り替えてチームにいい流れを持っていけるようにプレーしたい」と、数々の修羅場をくぐり抜けてきた川口コーチからのメンタル面の助言は、効果てきめんだ。
川口コーチ自身は東京五輪に向けた合宿前のオンライン取材の中で、指導で重視する点に「ドリル形式のトレーニングより実践的な、試合の中で起こりうる状況を想定したトレーニング」を挙げた。
「ドリル練習も重要なんですけど、どれもまんべんなくやる必要がある。あとは試合をやって、その中で見つかった課題を評価する。試合の中での問題点を再現して、同じような形でやられない(ように修正する)。あるいは相手を分析して、相手がどう攻撃してくるか、どういう守り方をするかを(練習メニューに落とし込んで)やる必要があります。ただトレーニングをするだけではなくて、試合に結びつくようなトレーニングを構築する必要があると考えています」(川口コーチ)
ロールモデルは「GKがグループで戦うことを常に話されていて、1球1球ボールを蹴っていただいた時も非常に魂を感じ、選手に不安要素を全く与えていなかった」アトランタ五輪代表のマリオGKコーチだ。
大迫や谷、鈴木を指導する際も、自身にかつてのマリオGKコーチの姿を重ね合わせながら、成長の後押しと組織づくりに取り組んでいる。
「(東京五輪代表のGKたちは)お互いをリスペクトして、トレーニングで100%の力を出す。その中でお互いのいいところを盗み、また称えあっている。もちろんGKは試合に1人しか出らないので、そのポジションを争うメンタルも含めて熾烈な戦いはあるけれども、試合だけでなくトレーニングの重要性は彼らがわかっている。心には出られない悔しさがあると思いますけど、それをピッチでは出さない。最近の選手たちはそういうタイプなのかなと感じています。
僕が選手時代、特に若い時は多少のギスギス感はあったかもしれませんけど、それは僕も(楢崎)正剛も歳を重ねていいグループになっていった。彼らは今の時点でそれができているのかなと。ただ、もう少し(競争心が)前面に出していいかなという時はありますけど、素晴らしいグループであることには変わりないです」(川口コーチ)
2019年から東京五輪世代を指導してきた川口コーチは、実践的な指導で若いGKたちの心をつかみ、「GKチーム」としてまとめ上げている。谷、大迫、鈴木の3人が醸し出す競争と一体感のバランスは絶妙だ。U-24日本代表にとって「最後の砦」である守護神が日々の成長をピッチ上で体現できれば、金メダル獲得に近づけるだろう。
(取材・文:舩木渉)
【了】