大差がついた重要なスタッツ
現代サッカーにおいてはポゼッション率やパス本数よりも重要なものがある。それは、90分間でどれだけ走れたか。つまり「走行距離」である。
この日のチェコ代表は総走行距離「109.5km」を記録している。その相手に対し、オランダ代表は「97.4km」。実に約12kmもの差をつけられていたのだ。
先述した通り、オランダ代表はチェコ代表の豊富なアクションにほとんどついていけなかった。プレスバックが間に合わない場面はしばしば見受けられ、何よりボールと人に対するアプローチの速さは段違い。デ・ヨングやワイナルドゥム、メンフィス・デパイらが完全に封じ込まれる中、自分たちは相手を抑えられないという悪循環に陥っていた。
結局、後半に与えた2つの得点もキッカケは似たような形だった。
1失点目は自陣でカウンターを発動しようとした瞬間に奪われ、深い位置でファウル。そして、FKからトマシュ・ホレシュに頭で押し込まれた。2失点目はクリアボールを再び自陣で先に拾われて一気に深い位置まで持ち込まれ、最後は走り込んできたシックに歓喜の瞬間を許した。つまり、この2つの失点はどちらも自陣でボールを奪われたことが原因となっている。インテンシティーという面で、オランダ代表は大きく劣っていたのだ。
グループリーグはすべて自国開催。そこからハンガリーへ移動し、気温30度を超える中試合を行った。環境の変化に馴染めず、身体が重くなったという可能性は十分にあるだろう。しかし、チェコ代表も条件はそれほど大きく変わらない。その中で走行距離13kmもの差がつくのは、あまりにも不甲斐ない話である。
2019/20シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)で、バイエルン・ミュンヘンがバルセロナを8-2で粉砕した。この時、誰もがポゼッションの終わりを感じ、同時にハードワークのもつ意味を理解した。トーマス・ミュラーはこの試合の後、「ネームバリューなんて関係ない」とし、よりハードに戦い続けることの重要さを説いている。
改めてになるが、オランダ代表はそれほど大事なものを、大事な試合で欠いてしまった。チェコ代表の方が、間違いなく勝利に相応しかったのだ。
(文:小澤祐作)
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