小社主催の「サッカー本大賞」では、4名の選考委員がその年に発売されたサッカー関連書(実用書、漫画をのぞく)を対象に受賞作品を決定。このコーナー『サッカー本新刊レビュー』では2021年に発売されたサッカー本を随時紹介し、必読の新刊評を掲載して行きます。
『フットボール新世代名将図鑑』
(カンゼン:刊)
著者:結城康平
定価:2,090円(本体1,900円+税)
頁数:288頁
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サッカー界を眺めていると、戦術面での爆発的な変化が起こっているのがわかるときがある。この20年の変化の担い手は間違いなく、ペップ・グアルディオラと、ジョゼ・モウリーニョだった。ユルゲン・クロップも加えて現在、50歳代の監督たちが、指導者として名だたるクラブを率いている。では、彼らを脅かすような「青年監督」はいないか? 本書はその「青年監督」をめぐる一冊。ミケル・アルテタ? フランク・ランパード? いやいや、そうじゃない。二人、挙げよう。RBライプツィヒを率いるユリアン・ナーゲルスマン(33歳)と、ペパイン・ラインダース(38歳)。ナーゲルスマンは、ペップのアイデアを受け継ぎ、「ベビー・モウリーニョ」なる異名もある。ラインダースのほうは、クロップの「頭脳」としてリヴァプールを支える男だ。これだけでも彼ら新世代の指導者への興味関心が掻き立てられるのだが、戦術面での詳細は本書を読まれたし。
評者がこの本で特段に面白いと思ったのは、人物に特化しているところ。戦術を様々に分析する本は多くある。必要ならば動画を参照することもある。だが、戦術的な考察は、どこかでテレビゲームに参加している感覚に陥ることがある。それでも一向に構わないのだが、実は関心はもっと人間臭い部分にある。その戦術を考えだした人間って、どんなやつなのか。何を食べて、誰に薫陶を受けて、指導者になっていったのか。来歴と人間の厚みが語られるとき、戦術の向こう側にある豊かな地平が見えてくるのだ。
個人的には、選手として一時代を築いた者たちが、自分の受けた指導を言語化しようとして苦闘している箇所にもっとも肝銘を受けた。アンドレア・ピルロ、ティエリ・アンリ、エルナン・クレスポなど、時代を画する最高のプレーヤーだった者たちが、自分たちの輝かしい個人史と、目の前の、自分のチームの現実の乖離に苦しむとき、サッカーは人間の劇となる。
(文:陣野俊史)
陣野俊史(じんの・としふみ)
1961年生まれ。文芸批評家、作家、フランス語圏文学研究者。現在、立教大学大学院特任教授。サッカーに関わる著書は、『フットボール・エクスプロージョン!』(白水社)、『フットボール都市論』(青土社)、『サッカーと人種差別』(文春新書)、共訳書に『ジダン』(白水社)、『フーリガンの社会学』(文庫クセジュ)。V・ファーレン長崎を遠くから応援する日々。