ロナウドの存在が負の要因に…
そしてもう1つは、クリスティアーノ・ロナウドの存在である。より正確に言えば、“守備をしない”ロナウドの存在だ。試合前日の会見でレーブ監督が「ただコーラのボトルを動かすだけの選手ではない」と評したように、1ゴール1アシストの結果を残した。ただ、何か“特権”が与えられているかのように、ドイツ代表がボールを保持している場面において守備に参加してこなかった。まるで1人だけ別世界にいるかのように、歩いているとまではいかなくともジョギングを繰り返し、仲間が押し込まれている様子を傍観していた。
もちろん守備を免除されているからこそ、攻撃時に爆発して結果を残せるところもあるだろう。しかし、ロナウドがファーストDFとしての役目を放棄していることで、ドイツ代表の3CBとダブルボランチは、落ち着いてビルドアップをすることができた。大袈裟かもしれないが、カリム・ベンゼマ、アントワーヌ・グリーズマン、キリアン・ムバッペの3トップが守備に加わったフランス代表戦に比べれば、後方でビルドアップするマッツ・フンメルスやイルカイ・ギュンドアンたちは、ポルトガル代表戦を無風のように感じたかもしれない。
ロナウドが守備に加わらなかったことで、他の選手たちに負担がかかり、ドイツ代表の攻撃に耐えきれなくなった。この“守備をしない”ロナウドの存在も、ドイツ代表の逆転劇を生んだと言えるだろう。
こうしてポルトガル代表に潜んでいた2つの負の要因が重なって、ドイツ代表は“背水の逆転劇”を演じた。フランス代表に敗れて初戦を落とし、さらにロナウドに先制弾を叩き込まれる絶体絶命の窮地から生還するどころか、決勝ラウンド進出に望みを繋いだのである。
しかし、この貴重な勝利も、そもそも“ゲルマン魂”があってこそ生まれたとも言える。戦意を喪失してしまっては、敵の弱みを突こうにも突けない。際どい勝負で発揮されるドイツ特有のメンタリティは、グループF最終戦のハンガリー代表戦でも、強力な“武器”になるはずだ。
(文:本田千尋)
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