禁断の「脱J2魔境マニュアル」と題し我が国が誇る2部リーグ・J2を特集した、6月7日発売『フットボール批評issue32』から、今や「知の戦場」ともいえるJ2の戦術的対立構造の最前線を追った龍岡歩氏の記事を一部抜粋して全3回で公開する。今回は第2回。(文:龍岡歩)
より鮮明となった4分類の対立構造
ではリカルドが契機となって、はっきりと姿を現したJ2における対立構造とは何か。簡単に言ってしまえばそれは下記の4つに分類される各チームの特徴の対立といえるだろう。
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(1)ポジショナルプレータイプ
(2)ストーミングタイプ
(3)ポゼッションタイプ
(4)リスクヘッジタイプ
以上の4つだ。
そもそもこの4分類がどういうものか。そしてなぜポジショナルプレーの伝道師リカルドの出現が対立構造を生むに至ったのか。まずはそこから考えてみたい。
まず(1)のポジショナルプレータイプであるが、最大の特徴はポジショニングによって優位性を作り出すことにある。図抜けた能力を持つタレントであれば相手にマークされている状況や狭いスペースでも苦もなくプレーできるが、それはごく一部の選手の話である。他の多くの選手にとって良いプレーをするには、スペースと時間が必要だ。
ポジショナルプレーとはこの「その他多くの選手」を上手くプレーさせるための処方箋のようなものともいえる。巧みなポジショニングによって相手のマークをズラしたり、ボール周辺で数的優位を作ったりすることでスペースと時間を確保するのだ。つまり位置取りの優位性によって個の質の差を埋めたり、逆転したりできるのがポジショナルプレーの利点である。
リカルドの徳島がその顕著な事例であるが、ポジショナルプレーの導入に成功したチームでは、選手が急に上手くなったように見えるのはこのためである。そして正しい位置取りによって結果的にパスが回り、ポゼッション率が高くなるという副産物にもつながる。
(2)のストーミングタイプはストーム=嵐に由来するその名が示す通り、相手がボールを回し出して位置的な優位性が出る前に、強度でそれを打ち消そうという狙いを持つ。
試合を攻守の入れ替わりが絶えず行われる激しいテンポに持ち込むことで、ポジショナルな優位性を取らせる間を与えない。ストーミング戦術にポジショナルキラーとも言われる一面があるのはそのためである。J2にポジショナルプレーが浸透するにしたがって、対抗軸としてのストーミングに需要が高まるのはある意味必然であった。
そしてJリーグに昔から根強い型として定着しているのが(3)のポゼッションタイプである。
ここであえてポジショナルとポゼッションを区別して書いているのは両者の戦略性に明確な違いがあるからだ。(1)のポジショナルプレーはあくまで位置的優位を築いた結果として、ポゼッション率も自然と上がるという因果関係である。
これに対して(3)のポゼッションタイプはボールを動かしてポゼッション率を上げることからまず入る。チームとしてボールを握り、ボールポゼッションを通じて試合を支配しようという考え方である。そのため、ボールを回すためのポジショニングには自由が許容されている。最初からボールを動かすための即興性が戦略に組み込まれているといっても良い。川崎フロンターレがこのポゼッションサッカーの最高峰といえば、よりイメージしやすいだろうか。
最後の(4)、リスクヘッジタイプは昇降格を伴うリーグ戦というレギュレーションが生み出す裏面だ。
リスクヘッジを最優先に残留や昇格という直近の課題に対して、とにかく短期的に一定の成果を出すことだけを狙う。掲げた理想の戦略が頓挫した時などに、藁をも掴む思いで行き着いてしまう。それがこの戦略といえるかもしれない。
(文:龍岡歩)
『フットボール批評issue32』
≪書籍概要≫
定価:1760円(本体1600円+税)
禁断の「脱J2魔境マニュアル」
我が国が誇る2部リーグ・J2は、「魔境」の2文字で片付けられて久しい。この「魔境」には2つの意味が込められていると考える。一つは「抜け出したいけど、抜け出せない」、もう一つは「抜け出したいけど、抜け出したくない気持ちも、ほんのちょっぴりある」。クラブの苦痛とサポーターの得体のしれない快楽が渾然一体となっているあやふやさこそ、J2を「魔境」の2文字で濁さざるをえない根源ではないだろうか。
1999年に創設されたJ2は今年で22年目を迎える。そろそろ、メスを入れることさえ許さなかった「魔境」を脱するためのマニュアル作りに着工してもよさそうな頃合いだろう。ポジショナルプレーとストーミングのどちらがJ2で有効か、そもそもJ2の勝ち方、J2の残留におけるメソッドはできないものなのか。このように考えている時点で、すでに我々も「魔境」に入り込んでいるのかもしれないが……。
【了】