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Jリーグ 4年前

見えているものが違う? 浦和レッズで凄みを増す西大伍。好調を支える巧みなプレーとは…【コラム】

シリーズ:コラム text by 元川悦子 photo by Getty Images

明治安田生命J1リーグ第15節、浦和レッズ対ヴィッセル神戸が21日に行われ、2-0で浦和が勝利した。古巣対戦となった浦和の西大伍は、右サイドバックとして先発。8月には34歳となるが、そのクレバーなプレーは凄みを増している。リーグ戦3連勝と好調な浦和を支える西大伍のプレーに焦点を当てる。(文:元川悦子)

西大伍、圧巻の働き

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【写真:Getty Images】

 右足大腿部の負傷から復帰したアンドレス・イニエスタが今季初めてスタメンに名を連ねた5月22日の浦和レッズ対ヴィッセル神戸戦。この一戦に特別な思いを持って挑んだのが、初の古巣対戦を迎えた浦和の右サイドバック・西大伍だ。

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「浦和から声をかけてもらった時は迷わず決めましたね。楽しそうだなと思ったので」

 1月の新加入会見で飄々と語られた移籍理由は西らしいものだった。2年間在籍した神戸では2019年天皇杯制覇や2020年AFCチャンピオンズリーグ(ACL)4強などを経験。精鋭たちとの共演で自身のサッカーセンスにひと際磨きをかけたという自負はあっただろう。その筆頭であるイニエスタを敵に回して戦うのに、高揚感を抱かないはずがない。浦和としても神戸に勝って上位浮上の布石を打たなければならなかった。

 しかしながら、序盤は相手ペース。神戸にボールを支配され、浦和は引いて守る展開を余儀なくされた。西の陣取る右サイドは、今季9ゴールの古橋亨梧と国際経験豊富な酒井高徳がタテ関係を形成している。彼らに自由を与えないという重要命題を遂行すべく、背番号8は周囲と連携を図りながら絶妙なポジショニングを披露。無失点というタスクをしっかりと果たしてみせたのだ。

 一方の攻撃時には、左SBの明本考浩が高い位置を取るケースが多かったため、西は中央に絞って岩波拓也、槙野智章と3バック気味になり、リスク管理を第一にしていた。

 しかし、もともとアタッカーだった男が攻撃の姿勢を忘れることはない。右サイドハーフの田中達也が大外に開いた時はインサイドの高い位置にスルスルと上がって得点機を伺い、田中が内に絞った時には外でチャンスメークを試みる。その位置取りの巧みさはまさに圧巻だった。

攻撃のスイッチを入れる2人の投入

 彼は4月25日の大分トリニータ戦で豪快な先制弾を決めているが、「なぜその位置に西が?」という神出鬼没な動きをこの男はといとも簡単にやってのける。この卓越した戦術眼とクレバーさがなければ、浦和は前半のうちにゴールを割られてもおかしくなかっただろう。移籍直後は長いケガに苦しみ、4月3日の鹿島アントラーズ戦からJ1のピッチに戻ってきたが、そこから浦和は一気に調子を上げてきた。その事実を踏まえても、西大伍の存在価値は非常に大きいのだ。

 こうして前半をスコアレスでやり過ごし、迎えた後半。リカルド・ロドリゲス監督はベンチに置いていた小泉佳穂と柴戸海をダブル投入し、攻撃スイッチを入れた。とりわけキープ力が高く、攻撃リズムを自在に変化させられる小泉効果は絶大だった。神戸に傾いていた流れを一瞬で引き戻し、開始2分に汰木康也の左クロスを田中達也が頭で押し込んで待望の先制点をゲットした。

「後半2分の失点はチームとしてありえない失点。明らかに気持ちが緩く、アラートさのない失点だった。ここは絶対に失点してはいけない時間帯。そこから少しプランとバランスが崩れた」と神戸の三浦淳寛監督もおかんむりだった。

嫌な時間を乗り切った浦和レッズ

 相手のスキを鋭く突いた浦和は一気に主導権を奪い返す。その後、18歳の若き守護神・鈴木彩艶が好セーブを見せ、途中出場の関根貴大、山中亮輔らが持ち味を発揮。追加点が取れそうな予感が漂った。

 それが現実になったのが、後半40分。始まりは左CKだった。名手・山中が蹴り、ゴール前の槙野が競ったが、いったんは古橋にカットされる。これをフォローしたのが西だった。背番号8が右足で上げた浮き球のクロスは岩波の頭を超え、ファーで待ち構えていたキャスパー・ユンカーへ。J1デビュー後、2戦3発という華々しいスタートを切ったデンマーク人FWの一撃が飛び出し、終わってみれば2-0の快勝。リーグ3連勝で順位も暫定6位まで上がってきた。

「今回の相手は強敵。これだけのプレーを強いられるのは想像通りだった。難しい試合になりましたけど、選手たちはよくやってくれた」とリカルド監督は安堵感をのぞかせた。小泉や柴戸、山中といったカードを次々と送り込んだ自身の采配が的中したことにも手ごたえをつかんだことだろう。確かに後半の巻き返しからの白星奪取は大いに評価できるが、苦しかった前半を確実にしのいでいなければ、これだけの成果は得られなかった。そこは強調しておくべき点だ。

「ボールを保持したいっていうのはあるので、前半は嫌な時間が続きましたけど、そういう中でも選手間で我慢して乗り切ろうとしっかり声をかけあって、いい守備ができたのはよかった」と先制弾の田中達也も神妙な面持ちでコメントしていた。

常人を超えた感性を持つ男に限界はない

 その前半に頭脳的なプレーでチームを牽引した西の一挙手一投足はやはり見逃せない。常勝軍団・鹿島でアジアタイトルを獲得し、FIFAクラブワールドカップでクリスティアーノ・ロナウド擁するレアル・マドリードを追いつめ、神戸でもイニエスタらと互角に渡り合ってきた男はやはり見えているものが違うのかもしれない。

 2019年3月のボリビア戦(神戸)で8年ぶりに日本代表復帰を果たした時も「(当時)31歳?まだまだ全然ですよ」と年齢的な衰えを全く感じていない様子だったが、あれから2年が経過した今、彼のパフォーマンスはより凄みを増している印象だ。

 今夏には酒井宏樹の加入が噂される浦和だが、西ならば右SBのみならず、右サイドハーフでもボランチでもどこでも一定水準以上のプレーができる。こういう計算できる選手の存在はリカルド監督にとっても心強いはずだ。

 ただ、本人は「酒井宏樹から代表右SBのポジションを奪ってやる」というくらい野心は抱くのではないか。それでこそ、西大伍だ。ある意味、“宇宙人”ともいうべき常人を超えた感性を持つ男に限界はないのだから。

(取材・文:元川悦子)


●西大伍のパスが貴重な追加点に!そのプレーがこれだ!

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【了】

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