ラ・リーガ第32節、ビジャレアル対バルセロナが現地時間25日に行われ、1-2でバルセロナが勝利した。アントワーヌ・グリーズマンが2得点を挙げて、逆転に成功。リーガ制覇へ一歩前進となった貴重な勝利は、バルセロナのリスキーな戦略によってもたらされたものだった。(文:加藤健一)
グリーズマンは「本来のポジションではないけど…」
バルセロナはビジャレアルに勝利し、勝ち点を71に伸ばした。順位は3位のままだが、レアル・マドリードとは勝ち点で並び、アトレティコ・マドリードとは3ポイント差に。現地時間29日に控える未消化の第33節に勝利すれば、単独首位に浮上する。今節ではレアルが引き分け、アトレティコが敗れていただけに、ビジャレアル戦の勝利は大きかった。
【今シーズンのバルセロナはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】
逆転勝利の立役者はアントワーヌ・グリーズマンだ。バルセロナは26分に一瞬の隙を突かれて最終ラインからパスを通され、サムエル・チュクウェゼに先制ゴールを許した。しかし、直後にグリーズマンが同点ゴールを決める。DFラインの背後を取ってパスを引き出すと、GKの頭上を越えるシュートでサイドネットを揺らした。
逆転ゴールはその7分後。ボールを失ったバルセロナは素早い攻守の切り替えで圧力をかけると、ビジャレアルのファン・フォイスのバックパスが短くなってしまう。これに反応したグリーズマンが左足を振り抜き、ゴールネットを揺らした。
スペイン誌『マルカ』は試合後のグリーズマンのコメントを伝えている。「センターバックの間にいようとしている。そこからスペースへ走り込み、チームメイトのためにスペースを作る。本来のポジションではないけど、バルセロナでは誇りを持っているよ」と、バルセロナでの役割を述べている。
結果を残し続けるグリーズマン
ときにはサイドに出向き、より多くボールに絡む方がグリーズマンの特徴を発揮しやすいだろう。データサイト『WhoScored』によると、この試合でのボールタッチ数はハーフタイムで退いたセルジーニョ・デストに次ぐワースト2番目に少ない32回。グリーズマンは79分までプレーしたが、デストに代わって後半45分をプレーしたセルジ・ロベルトより少なかった。
一方で、リオネル・メッシはグリーズマンの2倍以上のボールタッチ数を記録している。メッシとは2トップで並んでいるが、メッシが広範囲に動いてボールを引き出す代わりに、グリーズマンは前線で中央に留まる。センターバックと駆け引きをすることで、グリーズマンが言っていたように、味方のためにスペースを生み出している。
実際、グリーズマンが先発した試合で、バルセロナの攻撃陣は結果を残している。3月以降のラ・リーガ7試合でグリーズマンが先発を外れたのは、レアル・マドリードとのエル・クラシコのみ。それ以外の6試合中5試合で複数得点を奪い、7試合で20得点を記録した。グリーズマン自身もその間5得点と結果を出している。
1億2000万ユーロ(約144億円)とも言われる移籍金の高額さゆえ、批判にさらされることも少なくなかった。しかし、持ち前のインテリジェンスとテクニックで、バルセロナに居場所を築いている。ロナルド・クーマン監督は「我々は彼のような選手を必要としている」と活躍を称えた。
リスクの高いバルセロナの守備戦術
決定打となったのはグリーズマンのゴールだが、この試合ではもう1つ見逃せないポイントがあった。
バルセロナは非常にリスクの高いディフェンスを敷いている。ビジャレアルがボールを持ったとき、バルセロナの最終ラインは数的同数でビジャレアルの前線にマッチアップした。
失点シーンはその弱点を突かれた形だ。自陣でビルドアップしていたビジャレアルは、マヌ・トリゲロスが低い位置まで降り、パコ・アルカセルがサイドに流れることで、バルセロナは中央をがら空きにしてしまった。右サイドのサムエル・チュクウェゼは中央に走りこみ、パウ・トーレスからパスを引き出してゴール前に侵入。ジョルディ・アルバの転倒は痛恨だったが、バルセロナとしては完全に弱みに付け込まれた形だった。
しかし、結果的にバルセロナはビジャレアルを最少失点に抑えた。数的同数で最終ラインを守ることができれば、ハイプレスも機能する。そうすれば、パウ・トーレスやダニエル・パレホといったフィード能力が高い選手を抑えることもできる。リスクは大きかったが、リターンも大きかった。
ジェラール・モレノとトリゲロスはボールを引き出すためにライン間に降りてくることが多い。その動きに対して、ミンゲサとラングレはDFラインを捨てて2人に寄せた。そこにボールが入れば、MFと挟んでボールを奪うのがバルセロナの狙い。ペドリ、セルヒオ・ブスケッツ、フレンキー・デ・ヨングのMF3人は計10度のタックルを成功させていた。
しかし、バルセロナの選手たちも試行錯誤だった。ジェラール・ピケは試合中に何度かクーマン監督と議論を交わしている。セルジ・ロベルトを入れた後半は、ライン間に降りてきた選手へのマークをブスケッツに受け渡す形に修正している。スコアや時間帯に応じて、柔軟に対応していた。
完璧なシステムや戦術など存在しないし、強みと弱みは表裏一体だ。リスクのない勝負など存在しないが、バルセロナはハイリスクハイリターンの戦いで勝ち点3を掴んだ。
(文:加藤健一)
【了】