期待感を持たせる江坂任のプレー
「チームとしてはいい守備からいい攻撃ができている。でも最後、決め切るところに尽きると思います。ここで下を向いていても仕方ないので、本当に1つになって戦い抜いていくしかない。バラバラにならずに1つになって戦っていきたいと思います」
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4月7日の鹿島アントラーズ戦。柏レイソルは互角の内容で戦いながら、最後の最後で白崎凌兵に被弾し、1-2で敗れてしまった。これでJ1・6試合未勝利。順位もJ2降格圏の暫定17位に沈んだ。3月の日韓戦で日本代表デビューを飾った男・江坂任にしてみれば、このままでいいはずがない。だからこそ、今一度、一致団結して戦っていくことの重要性を強調したのだ。
中3日で迎えた11日のガンバ大阪戦ではその言葉通り、強い気迫が表れていた。序盤こそ相手に何本かチャンスを作られたものの、この日の柏は高い意識と素早い切り替えを武器に敵陣に迫った。
3-4-2-1の右シャドーに入った江坂も、その容姿とはかけ離れた泥臭いハードワークを見せ、守備面で奮闘。攻撃でも持ち前のテクニックとアイディアと創造性を前面に押し出し、「江坂がボールを持てば何かが起きる」という期待感を三協フロンティア柏スタジアム全体に色濃く漂わせた。
最たるシーンが前半39分のスルーパスだ。
右の北爪健吾からボールを受けた背番号10は左サイドを猛然と飛び出してきた三丸拡に矢のようなキックを蹴り込んだのだ。この折り返しに反応したクリスティアーノはゴール前に飛び込んだが、微妙にタイミングがズレて得点には至らなかった。それでも、Jリーグ基準をはるかに越えた妙技には、5555人の観衆から大きな拍手が送られた。
江坂任のサッカー観を変えたのは…
0-0で折り返した後半、ガンバは巻き返しを図るべく、レアンドロ・ペレイラに代えて宇佐美貴史を投入。彼はピッチ上で江坂とグータッチを交わした。というのも、2人は同じ92年度生まれで関西出身。江坂の親友かつライバルだった小川慶治朗が宇佐美と一緒に2009年U-17ワールドカップに参戦したこともあり、10代の頃から接点があったのだろう。
当時「怪物」と言われた宇佐美とヴィッセル神戸のアカデミーに入れず中体連から神戸弘陵高校へ進んだ江坂とは天と地ほどの差があった。しかし、10数年が経過したこの試合では、柏の10番の方が大きな存在感を示したと言っていい。
それを強烈に印象付けたのが、後半開始早々のドリブルシュート。上島拓巳から受け、ペナルティエリア付近まで持ち込んで左足を振り抜く。GK東口順昭の正面に飛んだが、迫力十分のシュートだった。
さらに後半17分にもマテウス・サヴィオの得点機につながるお膳立てをしてみせる。この時の柏は人数をかけて攻め込んでいたが、江坂は巧みにボールをコントロールして時間を作り、リズムを変化させながら北爪に展開。背番号11のシュートにつなげた。
この頭脳的な駆け引きは、大宮アルディージャ時代の先輩・家長昭博を彷彿させるものがあった。「アキさんと出会ってサッカー観が変わった。全ての面で尊敬しています」とかつて彼は語ったことがあったが、6つ年上のファンタジスタから学んだ一挙手一投足はチームの大きなアクセントになっていた。
柏レイソルの背番号10に課せられた重責
ただ、「決め切れない」という課題は鹿島戦から大きく改善されたわけではなかった。後半31分にセットプレーの流れから途中出場のベテラン・大谷秀和が値千金の決勝弾を叩き出し、チームは1-0で7試合ぶりの勝利を飾った。しかし、江坂自身は不完全燃焼感を少なからず抱いたことだろう。
これは代表デビューの日韓戦とも似ていた。鎌田大地に代わって後半から出場した彼は猛然とゴールに迫り、3本のシュートを放ったが、ネットを揺らすには至らなかった。チームメートのキム・スンギュが守っていたのが、プレッシャーになったのだろか。遠藤航のゴールをアシストしたものの、初キャップ初ゴールのインパクトを残した山根視来に比べると物足りなく映った。
「シュートを打って試合の流れに乗れたところもあったけど、ゴール前でもうちょっと冷静にできればなというところはありました。個人としては連係もそうですし、得点のところに絡んでいきたい」と課題を口にしていたが、それを克服するためにも、柏で数字を残していくしかない。
流通経済大学からJ2・ザスパクサツ群馬に入り、大宮を経て柏へステップアップしてきた雑草アタッカーには、その重要性が誰よりもよく分かっているはず。毎年10点前後のゴール数を挙げてきたからこそ、28歳にして日の丸を背負うところまで辿り着いたのだ。
さらに高い領域に上り詰めようと思うなら、今季J1・2ケタゴールはノルマ。昨季28ゴールを奪ってMVP&得点王に輝いたマイケル・オルンガという傑出した得点源がなくなったのだから、ナンバー10にはより重責が課せられるのだ。
奇しくも偉大な先輩・家長は同日のFC東京との多摩川クラシコで2発を叩き出し、勝利の立役者となった。これで今季すでに5ゴール。間もなく35歳になろうとは信じられないほどだ。まだ20代の江坂も負けてはいられない。見る者を魅了する攻守両面のパフォーマンスに得点力が伴えば、まさに鬼に金棒だ。家長越えを果たすべく、彼にはここから一気にゴールを量産し、柏の復権のキーマンになってほしいものである。
(取材・文:元川悦子)
【了】