最下位相手に完勝。主役は…
ヨーロッパリーグ(EL)準々決勝1stレグ、スラヴィア・プラハ戦は86分に先制しながらアディショナルタイムに被弾し1-1ドロー。これで公式戦4試合未勝利となるなど、ミケル・アルテタ監督率いるアーセナルはなかなかギアを上げられずにいた。
【今シーズンのアーセナルはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】
しかし、ここから流れを引き寄せるのかもしれない。アーセナルは現地時間11日、最下位に沈み今季プレミアリーグ残留が絶望的な状況となっているシェフィールド・ユナイテッド相手に敵地で3-0と快勝。「全体的にとても満足しているよ」とアルテタ監督もチームを大きく評価している。
この日の主役はアレクサンドル・ラカゼットだった。4-2-3-1の最前線で先発した同選手は立ち上がりからチャンスに絡むと、33分に見事なコンビネーションプレーからゴールネットを揺らす。非常に美しい得点であった。
さらに85分にはトーマス・パーティからのスルーパスを引き出し、冷静にシュートを流し込んで3点目をもたらしている。トーマスのターンから繰り出した繊細なパスは見事だったが、背番号18が前を向いた瞬間にアクションを起こしたラカゼットもやはり素晴らしかった。
2得点をマークしたラカゼットはこれで今季プレミアリーグ得点数を「13」に伸ばしている。なお、同選手はこれでプレミアリーグ通算50得点に到達したのだが、1クラブのみでそれを達成したフランス人選手はラカゼット含め6人のみとなっているようだ。
ラカゼットに最も求められているのはもちろん得点という部分だが、その他の質も極めて高い点が同選手の存在価値を上昇させている要因だ。ザ・ポストプレーヤーのような上背はないが、プレーをテンポよく継続させられる足元の技術と視野の広さが備わっており、自らを犠牲にして味方を生かすことも構わずやってのける。アーセナル加入後は、いわゆる主役にも脇役にもなれる、実に器用なFWへと進化しているのだ。
多くのタスクを果たす中で結果という二文字も着実に手に入れる。チームとして、これほど頼りになるFWはいないだろう。アルテタ監督も「彼(ラカゼット)は今、とても良いプレーをしているし、ゴールを決めて自信を持っているから、このまま続けていけばいいと思う」と背番号9を賞賛していた。
ラカゼットには移籍の噂も出ているが、プレースタイル的に今後もアーセナルに残しておきたい人物であることは間違いない。未来のことは誰にもわからないが、少なくとも今回のシェフィールド戦でそれが再び証明されたと言えるのではないか。
苦戦するエースの立場はどうなる?
そしてもう一人、シェフィールド戦で結果を残した男がいた。19歳ガブリエル・マルティネッリだ。
同選手は昨年6月のトレーニング中に膝を負傷し長期離脱。驚異的な回復力を見せ昨年内中に復帰したが、その後再び怪我を負った影響もあり、アルテタ監督の下なかなか出番を得られないなど苦しい立場に置かれていた。
しかし、シェフィールド戦で久々に先発のチャンスをもらうと躍動。まるで野生の肉食動物が獲物を襲うかのように果敢にゴール前へ飛び出し、結果を残そうという意欲を存分に示した。そして71分に待望の瞬間。ニコラ・ペペが放ったシュートのこぼれ球を冷静に流し込み、今季初得点をゲットした。
マルティネッリはモハメド・エルネニーと代わる83分まで出場。味方との連係プレーには若干物足りなさを残したものの、スピードを活かした背後への抜け出し、そして守備も献身的に行うなどサイドで上下動を繰り返している。何より野獣の如くゴールに向かう姿勢は、他の選手にはない怖さだった。
アルテタ監督は試合後「ガビは正しい道を歩み、正しい成長を遂げている」と19歳のFWを評価。さらに「彼が成長を続けられるよう、適切な出場時間と試合数を与えるようにしなければならない」とも話している。
マルティネッリが活躍し、ある意味フォーカスされるのはピエール=エメリク・オーバメヤンだ。アーセナル不動のエースだった同選手は、ここまで今季プレミアリーグ9得点。これまでの成績を考えても、期待外れと言わざるを得ない。実際、あらゆる方面から批判の声は聞こえている。
FWとしてだけでなく、キャプテンとしても存在感を示せていないので、スタメンから外せという意見も何度か目にした。確かに今季のオーバメヤンにはこれまでのような怖さがなく、主将としてチームを鼓舞する姿も見られない。それどころか、規律違反で欠場することもあった。これまでアーセナルにもたらしてきたものは計り知れないが、今季に関しては使い続けていいのかと問われれば、やはり答えはNOとなるだろう。
シェフィールド戦におけるマルティネッリには今季のオーバメヤンには感じられない背後への意識、そして何より結果を残さなければ、という強いゴールへの意欲があった。若さ故なのかもしれないが、停滞に陥ることの多いアーセナルにこういったタイプが必要ということは間違いない。野獣の如くエネルギッシュにプレーする同選手は、それだけで相手に怖さを与えられるのだから。
アーセナルの2列目はブカヨ・サカ、マルティン・ウーデゴール、エミル・スミス・ロウの3人が最も結果を残せるとされているが、ここにその3人とはまた違うスタイルのマルティネッリが入ってもかなり面白いチームとなりそうだ。ただそうなると、オーバメヤンの立場はますます怪しくなるだろう。最前線も今やラカゼットは外せない。
オーバメヤンは素晴らしい選手で、今アーセナルがELに出場できているのも同選手の働きがあったからと言っていい。しかし、時代には必ず終わりは来るし、始まりも来る。アルテタ監督には今後、“判断”が求められる。
(文:小澤祐作)
【了】