ムバッペがいるだけで…
バイエルン・ミュンヘンとパリ・サンジェルマン(PSG)。昨季のチャンピオンズリーグ(CL)決勝で対戦した両者は、雪の降るアリアンツ・アレーナで再び激闘を繰り広げている。まさに「世界最高峰の戦い」であった。
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90分間のスタッツだけを見ると、バイエルンがPSGを圧倒している。シュート数は実に31本にも積み上がっており、支配率は64%、ボールタッチ数は740回:525回と大きな差だ。PSGがここまでゲームを支配されるのは、かなり珍しいことと言える。
しかし、すでにご存じの通り、スコアで上回ったのはアウェイチームの方だ。3分に先制点を奪取し、28分に追加点。その後2点を奪われたが、68分に勝ち越しそのまま逃げ切っている。合計シュート数はわずか6本であった。
この日のプレイヤー・オブ・ザ・マッチはキリアン・ムバッペに決まった。バイエルンに黒星を与える2ゴールをゲットしたので、文句はないだろう。
そのムバッペは試合後、マウリシオ・ポチェッティーノ監督から「ネイ(マール)と一緒に(ヨシュア・)キミッヒのパスコースを封じること、そしてボールを持ったら深くランニングしブロックを攻略するよう言われていた」と明かしている。その言葉通り、快速自慢の7番は相手DFの脇や背後を徹底的に突いては、深さを作っていた。
ただ走って深さをもたらすだけでは大して怖くない。しかし、ムバッペはそこから「やり切る」ことができる。そこへ良いタイミングで非凡なオフェンスセンスを持つネイマールも絡むと、自ずとチャンスの幅は広がった。戦い方は非常にシンプルだが、選手の能力と相手のレベルを考えれば、理に適っていたと言える。
恐らくバイエルン側は、長い時間ボールを保持することができている中でも、常にPSGに対し恐怖心を抱いていたはず。一発で仕事するムバッペとネイマールがいるし、とくに前者の爆発的なスピードとパワーは、単純な激しい守備では制御できないからだ。そして実際に、彼らは限られたチャンスを確実にモノにしてきた。
キリアン・ムバッペというほぼ無敵アイテムがあるだけで、これほど圧倒された試合をもポジティブな結果で終わらせることができる。この試合では改めてPSGの怖さ、そしてムバッペという男の異次元ぶりを感じることができた。
戦術よりも大事なもの
また、今回のバイエルン対PSGで明らかとなったのは、やはりサッカーにおいては戦術よりもシンプルな部分が勝敗を分けるということだ。
サッカーの戦術は時代の流れと共に進化してきた。その時のトレンドを攻略する戦術が生まれ、それがトレンドとなり、今度はそれを攻略するための新しい戦術が生まれる。ジョゼップ・グアルディオラもユルゲン・クロップもディエゴ・シメオネも、そうして名将への階段を上った。これは、今後もサッカー界で繰り返されていくのだろう。
ただ、戦術でどれだけ相手を圧倒しようとも、特別な能力を持つGKがいればそのチームを倒すことは難しくなる。たとえ戦術でどれだけ相手を封じ込もうとも、ワンチャンスをモノにできるストライカーがいれば一瞬で崩れてしまう。当たり前のことだが、結局は戦術がどれほど進化しても、点を取れる選手と点を取られない選手の重要性は変わらないのである。
この日のPSGにはGKケイラー・ナバスがいた。驚異的な反射神経を武器に持つコスタリカ代表守護神はファインセーブを連発し、計31本もの被シュートを浴びながら2失点に抑えている。もしGKがナバスでなかったら、結果は大きく変わっていたのかもしれない。
そしてPSGにはムバッペもいた。少ないチャンスを確実に生かす能力があることは、上記した通りである。
一方でバイエルンにはロベルト・レバンドフスキという絶対的エースストライカーが不在だった。代役を務めたマキシム・チュポ=モティングは奮闘し、トーマス・ミュラーも非凡なセンスを見せつけていたが、やはりポーランド人FWの有無は試合に影響を及ぼす。サッカーに「たられば」は禁物だが、実際にレバンドフスキがいれば、というシーンがあったことは否めない。また、爆発力のあるセルジュ・ニャブリ不在も痛手と言えた。
このレベルになると、組織対組織だけではなく、組織を上回る個をどれだけ発揮できるかが、結果を手に入れるための重要ポイントとなる。そういった意味で、攻守で圧倒的な個を示したPSGが勝利という二文字を手に入れたことは、妥当な結果だったと言えるのかもしれない。
(文:小澤祐作)
【了】