代表ウィーク明け後でペースが上がらず
厳しい表情を見せることが多かったロナルド・クーマン監督にも、試合終了後には笑みが生まれていた。リーグタイトル奪還を狙うバルセロナは、ここにきて急失速している首位アトレティコ・マドリードとの勝ち点差をついに「1」まで縮めることに成功している。
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バジャドリー戦がかなり難しいゲームだったことは否めない。バルセロナのスタメンはリオネル・メッシを除く10人が代表帰りであり、立ち上がりからギア全開で挑むことができず。なかなかゴールへの道を作り出せずにいた。
アウェイチームの集中した守備もバルセロナの停滞感を生んだ要因である。ディフェンス時は5-3-2のコンパクトな陣形を組み、スペースを与えない。ただ自陣深くに引くだけでなく、アタックすべき場面では恐れず前に出ていくなど、バジャドリーは準備してきたことをしっかりと相手にぶつけていた。
バルセロナは3-4-2-1でスタートし、メッシを中心に攻撃を展開。そこへ最終ラインでスタメン入りしたフレンキー・デ・ヨングも果敢に飛び出すことで、敵陣において厚みも加えていた。しかし、相手のコンパクトな守備を前に簡単なボールロストを繰り返す。後ろはデ・ヨングが前に出ているため2枚しかおらず、カウンターを受けると必然的に深くまで持ち込まれてしまった。
事実、バルセロナは40分時点で支配率62.5%を記録しながらも、シュート数では4対4と互角だった。前半終了間際にメッシとペドリがそれぞれ決定機を迎えたものの、どちらかというとバジャドリー側がうまく戦っている印象が強かった。
クーマン監督の2度のシステム変更
3-4-2-1でスタートするもうまく流れを引き寄せられなかったバルセロナは、後半に入り4-3-3へとフォーメーションを変更。それまで3バックの一角だったデ・ヨングをインサイドハーフに上げ、前線3枚は右からウスマンヌ・デンベレ、メッシ、アントワーヌ・グリーズマンという並びに変化している。
形を変えたことで攻撃のリズムにもやはり変化が生まれた。とくに、右サイドに出たデンベレは中央でプレーした前半よりもボールに触れる機会が増え、左右両足を巧みに使ったドリブルなどで攻撃を活性化させようとしている。
ただ、バジャドリーの守備は相変わらず強固で、この日が古巣対戦となったGKジョルディ・マシプも当たっていた。バルセロナは敵陣深くまで進むものの、ゴールを奪えないというモヤモヤした時間を過ごしている。
それを見たクーマン監督は65分を迎える前に一気に3人を変更。ロナルド・アラウホ、マルティン・ブライスワイト、フランシスコ・トリンコンをピッチへ送り出し、メッシをトップ下、デ・ヨングとペドリを中盤底に並べた4-2-3-1へと再び布陣を変更している。
前に張るブライスワイトという存在ができたことで、その一つ後ろにいるメッシがそれまでよりもライン間でプレーしやすくなった。また、ブライスワイトが下がればその背後をメッシが狙うという、中央における二つのアクションも生みやすくなっている。この選手交代による変更は悪くなかったようにも思う。
しかし、それでもバジャドリーの守備は崩れなかった。アウェイチームは体力的にも精神的にも相当疲弊していたはずだが、最後の最後で身体を投げ出し、1点を与えない。その姿は大きな賞賛に値すべきものだった。
進化するワールドクラスのアタッカー
ただ、バルセロナにはこうした苦しい状況を打開できる「個」があった。この日輝いたのはエースのメッシではなく、デンベレだ。
79分、バルセロナにカウンターが発動。デンベレがスピードに乗りながらドリブルすると、背後からオスカル・プラーノがタックル。これを見た主審はファウルを犯した選手にレッドカードを提示している。
数的優位を得たバルセロナは、残り10分で当然ながら果敢に攻めに出ている。すると90分、被カウンターのリスクが少ないため前に飛び出たアラウホが右サイドからのクロスを頭で反らすと、このボールをデンベレが左足でシュートし、見事ニアサイドを射抜いた。
決勝点を挙げたフランス代表FWは、データサイト『Who Scored』によるMOMに選出されている。得点以外にもシュート数6本(全体2位)、ドリブル成功数4回(全体トップタイ)、キーパス2本(全体3位タイ)と良い成績を残していた。
上記のデータからも分かる通り、デンベレのボールを持った際のアクションはやはり怖い。まだ単純なパスミスやボールロストもある点は否めないが、チームメイトからも「何かやってくれる存在」として見られているのは、明らかである。
ボールを受けるまでの動きも着実に向上しており、この日も立ち上がりから相手の死角に入り、そこからパスを引き出す動きを繰り返している。58分には巧みなランニング修正からスルーパスを呼び、GKマシプとの1対1を迎えている。この決定機を活かすことはできなかったが、そこに至るまでは完璧だった。
と、多くの面で成長を見せるデンベレだが、最もそれを感じたのはやはり79分の場面か。同選手は背後からプラーノのタックルを受けたが、その後プレーを継続。今までであればそのまま負傷交代していても不思議ではないが、今回はそうならなかったのだ。
怪我に泣かされ続けてきたデンベレが食事やトレーニングへの意識を改善し、フィジカル強化に取り組んでいることはすでに知られている事実。その成果が、この場面に現れたと言っても過言ではないのかもしれない。未完の大器だったデンベレは、ここにきて進化の時を迎えている。
次節、バルセロナはレアル・マドリードとのエル・クラシコを迎える。もちろん、ラ・リーガ制覇のためには絶対に落とせない一戦だ。その中で、デンベレはチームに何をもたらすのか。今こそ、その力を示す時である。
(文:小澤祐作)
【了】