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ハーランドはなぜ完全沈黙したのか? まさに“鶏群の一鶴”…完敗のトルコ戦で全く輝けなかった理由とは【分析コラム】

カタールワールドカップ・ヨーロッパ予選グループリーグG組の第2節、ノルウェー代表対トルコ代表が現地時間27日に行われ、0-3でトルコが勝利している。この試合で先発出場を飾った怪物アーリング・ハーランドだが、全くと言っていいほど輝くことができなかった。その理由とは?(文:本田千尋)

シリーズ:分析コラム text by 編集部 photo by Getty Images

もしハーランドを知らない人が見ていたら…

アーリング・ハーランド
【写真:Getty Images】

 まるで“狭い水槽に放り込まれた大魚”のようだった。現地時間27日に行われたカタール・ワールドカップ欧州予選、グループG組第2節。中立地であるマラガの本拠地ラ・ロサレーダで、ノルウェー代表はトルコ代表と戦った。

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 この試合で“怪物”アーリング・ハーランドは2トップの一角で先発。ステイル・ソルバッケン監督は[4-4-2]の布陣を選択した。ハーランドと前線でコンビを組んだのはRBライプツィヒでプレーするアレクサンダー・セルロート。アーセナルに所属する主将のマルティン・ウーデゴールは、右サイドで先発した。

 結論から先に記すと、このトルコ戦でハーランドは、全くと言っていいほど輝くことはできなかった。

 所属先のボルシア・ドルトムントでは、今季これまで公式戦31試合33得点を叩き出し、ブンデスリーガやチャンピオンズリーグ(CL)の舞台で無人の野を駆けるようにゴールを決めまくっている“怪物”も、トルコ代表相手に完全な沈黙状態。ハーランドのことを全く知らない人がこの試合だけを観たら、体は大きいが至って普通のノルウェー人FWにしか見えなかっただろう。さらに欧州の名だたるビッグクラブが獲得を狙っていると知ったら、さぞかし驚くのではないか。

 試合そのものは、開始早々の4分、最初からギアをトップに入れたトルコ代表が左から崩して先制する。3日前にオランダ代表を撃破した時のアドレナリンが止まらないような勢いだ。

 それからシェノル・ギュネシュ監督のチームは自陣に引いて、ノルウェー代表はボールを持たされる苦しい展開。ギュネシュ監督が就任して2年が経つトルコ代表の完成度は高く、チームとして守る場面と攻める場面の共通理解が出来上がっている。28分、59分と要所で得点を重ね、トルコ代表が3-0でノルウェー代表を下した。沈黙したハーランドは83分に交代でピッチを退いている。

なぜハーランドは沈黙したのか

 なぜ、今回のトルコ戦のハーランドは、ドルトムントでプレーしているように輝けなかったのだろうか。もっとも、トルコ代表の守備陣が抜群の働きをしてハーランドが抑え込まれた、というわけではなかった。どちらかと言うと、ノルウェー代表のチームとしての質に問題があった。

 前述のハーランド、ウーデゴール、セルロートを除くと、先発メンバーのほとんどは、欧州全体で見ると中堅クラブに所属している。左サイドで先発したモハメド・エルユヌシとCBクリストファー・アイエルはスコットランドのセルティック、左SBのビルガー・メリングはフランスのニーム、ボランチのフレドリク・ミトショはオランダのAZに所属と言った具合だ。ボランチのパトリック・ベルグとCBスティアン・グレゲルセンは国内リーグでプレーしている。

 つまり、このメンバーの中でハーランドは飛び抜け過ぎているのだ。まさに“鶏群の一鶴”。もちろんノルウェー代表の選手たちも、なんとかゴール前のハーランドにパスを出そうとしていたが、トルコ代表に比べてどうしてもビルドアップとパスワークの質で劣り、“怪物”に決定的なボールを出すことができない。そういった意味では、ウーデゴールも味方との連係でなかなか輝くことはできなかった。

 これが漫画の世界であれば、ハーランドとウーデゴールが“ゴールデン・コンビ“とでも称して、2人だけでワンツーを繰り返してトルコ守備陣を切り裂いていくのかもしれないが、もちろん現実のサッカーでそんなことは起こらない。 

 リオネル・メッシやロベルト・レバンドフスキ、ソン・フンミンらが代表チームで所属先のクラブチームでプレーする時と同様のパフォーマンスを発揮しきれないように、もしくはそれ以上に、ノルウェー代表のハーランドは持てる力のほとんどをトルコ戦で発揮できなかった。

W杯とは縁のない選手に終わってしまうのか

 もっとも、これは他のノルウェー代表の選手たちの技術不足の問題というよりは、このような不可思議な現象が起こるのが、サッカーというスポーツの面白さの一つなのだろう。

 野球の攻守交替のように攻撃と守備に明確な切れ目は存在せず、11人の選手が有機的に連動して攻撃と守備が機能するのがサッカーのチーム。もちろん試合中に1対1の局面が存在し、そこでは個の力がモノをいうが、個人が力を発揮するためには、やはり前提としてチームが一つの生き物のように機能する必要があるだろう。とあるチームに飛び抜けた選手がポッと入っても、上手くいくとは限らない。それは過去の特定の日本の五輪代表と、そこにオーバーエイジの選手が加わった後のチーム状態にも表れているのではないか。

 この点でクラブチームであれば、予算やリーグの外国人枠など一定の制約はあるものの、チーム全体のバランスを考慮した人選ができる。しかし代表チームでは短期間で結果を出すことが求められるため、一定のメンバーを継続して選び続けるだけでなく、その時点でクラブで好調の選手を選出せざるを得ないところがある。

 何より国籍という大きな縛りがあるので、招集できる選手に限りがある。そういった意味でソルバッケン監督は、ハーランドと言う“不世出の怪物”を呼べる幸運に恵まれつつ、ハーランドを活かせる選手を集めきれないという悩みを同時に抱えていると言えるのかもしれない。

 そしてハーランドは、今後、クラブレベルと個人としてはあらゆるタイトルを総ナメにしつつも、ワールドカップに縁がなかった選手として、サッカーの歴史に名を残すのかもしれない。

(文:本田千尋)

【了】

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