日本代表に初選出された坂元達裕
「今までと変わらずチャレンジし続けることが一番だなと。日本代表に入ったからといって満足してるようでは絶対に定着できないし、ここから上に行ってどうやって活躍するのかを考えてかなきゃいけないんで。今まで通り、壁を乗り越えるためにガムシャラに行くことを大事にしたいです」
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24歳の小柄なドリブラー・坂元達裕(C大阪)は代表初選出を受け、改めて定着への強い思いを口にした。
彼の主戦場である右MFには、今季ベルギーで10得点をマークした伊東純也(ヘンク)を筆頭に、U-24日本代表に回った久保建英(ヘタフェ)、ケガで離脱した堂安律(ビーレフェルト)など実績ある面々が並ぶ。今季セルビアで16ゴールをマークする浅野拓磨(パルチザン)、Jリーグで実績を積み上げる古橋享梧(神戸)も右をこなせる。
こうした中、新参者の坂元は頭抜けたインパクトを残さなければ、大激戦区で生き残れない。その厳しさを本人もよく分かっているからこそ、「チャレンジし続けることの重要性」を肝に銘じたのだろう。
悪条件で行われた前哨戦の結果は…
代表ウイーク直前の21日の湘南ベルマーレ戦は前哨戦として注目された。しかしながら、この試合が行われたレモンガススタジアム平塚は、キックオフが2時間遅れた1週間前を上回るほどの豪雨と強風。レヴィー・クルピ監督が「この雨でもサッカーができるピッチ状態を維持している管理スタッフの仕事に感動した」とため息交じりで語るほどの悪条件下だった。
しかも、AFCチャンピオンズリーグに参戦するセレッソにとっては、開幕戦となった2月27日の柏レイソル戦から数えて7連戦のラスト。うち4試合が関東遠征という過酷な日程を強いられている。3月17日の大分トリニータ戦で劇的決勝弾を叩き出した坂元も疲労困憊の様子だった。
対面に位置した湘南の高橋諒は「セレッソの攻撃は坂元選手がほとんど絡んでいるので、そこを抑えれば自然と僕らのゴールの可能性が高まる。利き足の左を切って中に行かせないように意識した」と話す。湘南に徹底した対策を講じられ、思うように仕掛けられず、チーム全体も停滞。前半は不完全燃焼の展開を余儀なくされた。
それでも後半はギアを上げ、開始4分には左CKの流れから坂元が遠目から放ったシュート性のボールがクロスバーを直撃。これが彼の最初の得点チャンスとなった。その後、チームも前がかりになり、途中出場の加藤陸次樹らが積極果敢にゴールを狙うが、1点が遠い。
ここまで毎試合のように複数得点を奪ってきたセレッソ攻撃陣も不発。原川力のケガというアクシデントも起き、敵地でスコアレスドローに持ち込むのが精一杯だった。ここまで6戦2得点3アシストと気を吐いていた坂元も勢いがストップした格好だ。
坂元達裕が放つギラギラ感
FC東京U-15むさしからにユースに上がれず、前橋育英高校時代に2015年正月の高校サッカー選手権で優勝を逃した。東洋大学時代はユニバーシアード代表に手が届かず、J2からのプロのスタートとなった男は多少の挫折など問題ない。どんな時もへこたれず、自分に足りないものを客観視し、課題克服のために貪欲になれるのが強みだ。
そういうメンタリティを持てた最大のきっかけが高校サッカー選手権の決勝だったという。
「星稜に負けたんですけど、決勝の舞台に立って4~5万くらいの観客の前で戦う喜びを感じたのは大きかった。あの光景を見て『絶対にプロになってまたこういう大観衆の前で戦うんだ』と心に決めました」と本人は語気を強める。当時のチームでは、渡邊凌磨(FC東京)、鈴木徳真(徳島)といったU-17日本代表経験者の陰に隠れる立場だったが、雑草魂を持ち続けて這い上がってきた。
武器であるドリブル突破に磨きをかけ、マークの裏をかいて中央からシュートを打ちに行ったり、外からクロスを上げるなど、多様なプレーを体得したのも、紆余曲折の結果だろう。生粋のエリートにはないギラギラ感も非常に頼もしい。
想起される清武弘嗣のデビュー戦
その坂元にとって最初の関門となるのが、25日の日韓戦だ。コロナ禍での因縁対決強行に両国から反対論が渦巻いている。ピッチに立つ選手たちにも重圧がかかる試合になるだろうが、「相手はどこであってもやるべきことは変わらない」と本人は至って冷静だ。つねにひょうひょうとしている点は今回の好敵手・伊東純也に通じるところがある。どちらが大仕事をするか楽しみだ。
加えて言うと、日韓戦というのは、セレッソの先輩・清武弘嗣が10年前にA代表デビューした試合でもある。2011年8月の札幌ドームでの一戦は香川真司(PAOK)と本田圭佑(ネフチ・バクー)の両エースそろい踏みで3-0の圧勝だったが、清武は岡崎慎司(ウエスカ)の負傷によって前半36分から出場。新戦力とは思えないほどの適応力を示し、本田から「いい選手が出てきた」と絶賛されている。
坂元にもその再現を期待したいところ。清武とは日頃から筋トレを一緒に行うなど信頼し合っている仲。代表定着への援護射撃も受けているだろう。
今回は30代の国内組が招集回避になっているが、2022年カタールワールドカップ最終予選になれば、2人の共闘もあるかもしれない。そういう理想的なシナリオを現実にするためにも、まずはJリーグで積み上げてきたスキルと戦術眼、大胆な仕掛けを前面に押し出すこと。それを小柄なアタッカーには強く求めたい。
(取材・文:元川悦子)
【了】