「結果を悲観すべきでない」
今季からリカルド・ロドリゲス監督を迎えて新たなスタートを切った浦和レッズだが、まだ期待されたほどの結果を出せていない。
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J1リーグ開幕戦でFC東京と引き分けたものの、第2節ではサガン鳥栖に完敗。第3節の横浜FC戦でようやく今季初勝利を手にしたが、第4節で横浜F・マリノスに0-3と粉砕された。最新の第5節では北海道コンサドーレ札幌とスコアレスドローに終わり、5試合で1勝2分2敗と苦しんでいる。
マリノス戦を中心に分析したアレックス・ラレア氏は、「リカルドのサッカーが浸透するのには、間違いなく時間が必要だと思います」と話す。
「シーズンは始まったばかりですし、苦しむことも多々あると思います。今季は多くの選手が退団しましたし、『新しい浦和レッズ』を立ち上げている状況なので、すぐに結果を出すのはなかなか難しいかもしれません。ただ、長期間のプロジェクトだと考えれば、レッズにとって最初の苦しみは将来的に非常に有効なものになると思いますし、いいところもたくさん見られています。
若い選手たちが躍動していますし、彼らが経験を手にしたら、さらにステップアップしていけるチームになっていけると思います。マリノスもアンジェ・ポステコグルー監督が就任してから(結果が出るまでに)時間がかかりましたよね。チーム全体が戦術を理解したうえでプレーできるようになるまでのプロセスの1つだと認識すれば、現時点までの結果をそこまで悲観する必要はないと思います」
では、リカルド・ロドリゲス監督が「新しい浦和レッズ」に植えつけようとしているサッカーはどんなものなのだろうか。その輪郭がアレックス氏の目には徐々に見えてきているという。
「リカルドは昨年まで系譜は引き継ぎつつも、よりボールを支配して、チーム全体でのコンビネーションプレーを重視するようなサッカーを仕込もうとしていると感じます。GKからビルドアップを行うことを、もちろんリスクもあるなかでボールを前進させるための方法としてトレーニングしていて、選手たちもそれに適応しようとしている時期だと思います」
ピッチ上の選手たちも最適な距離感や判断基準を模索しながら、探り探り完成度を高めていこうとしているところなのだろう。マリノス戦では自陣からのビルドアップにこだわった結果、相手のハイプレスに後手を踏んだ。とはいえ前半の30分過ぎからハーフタイムまでの15分強は完全にレッズのペースで、いくつかチャンスも作れていたのは進歩の証と言えそうだ。
レッズが抱えるビルドアップの課題
一方、アレックス氏はビルドアップにおけるレッズの課題を指摘する。それは「相手のプレッシングを越える際に、次の選択肢が近くばかりになっていること」だ。せっかく相手のプレスをかいくぐっても、その先の前線で深さを作ったり、相手のディフェンスラインの背後を狙って直線的にゴールを目指したりする動きが乏しいと感じているという。
「マリノスが前からかなり強くプレスに来ているなら、相手のディフェンスラインとGKの間にスペースがかなり大きく広がっていることになります。そのスペースにボールを送り、FWもそこを狙えば、マリノスにも『このディフェンスラインの高さでサッカーをするのは危険なのかもしれない』という迷いが生じてきます。
そして、相手のディフェンスラインが下がってくると、中盤にスペースが空いてくるので、よりうまくボールをつなぐことができる状況を生み出せると思います。レッズは短いパスにこだわりすぎることによって、結果的に相手の策にハマってしまったようでした。相手の状況を見ながら下すべき判断を変えられるようになってくると、より怖いチームになると思います」
もちろん立ち止まった状態でパスを回し続けるだけで、相手のプレッシングをかわしてボールを前進させるのは難しい。ロングパスに頼らないビルドアップを続けるにしても、プレーの選択肢をもっと増やし、足も動かして、相手の陣形にできるスペースを勇敢に狙っていく姿勢が必要だ。アレックス氏はこう続ける。
「もう1つ、浦和レッズのビルドアップに現時点で足りていない点で言うと、ディフェンスのプレッシャーの第1ラインを越えた後、サイドバックや中盤の選手がボールを前進させられる時に、躊躇してしまう場面が多く見られました。前にスペースがあればドリブルで運べばよく、前線の選手にボールを届けられるなら届けるべきですが、そこで躊躇して(バックパスで)やり直してしまったり、せっかくプレッシャーを外して前進できる状態なのに、その状態をうまく生かすことができない場面が多かったと思います」
象徴的だった、ある選手の行動
象徴的なシーンとしてアレックス氏が挙げたのは、マリノス戦の前半32分30秒頃からのビルドアップだった。
「特にこの場面では、32分33秒のところでパスを受けた伊藤(敦樹)が前を向いてボールを運ばないといけません。今です! そこで前にドリブルをするのです。マリノスの3トップが形成するプレスの第1ラインは突破できていて、彼らのプレッシャーは生きていない状況です。なぜ前を向いてドリブルをしないのか。なぜそこで横にパスをしてしまうのか。
次にパスを受けた選手もよく見てください。伊藤からボールをもらって代わりに前へ運んだのは、センターバックの岩波(拓也)です。32分47秒のところで彼は後ろの選手に『もっと前に行けよ!』と大きな身振りで促していますね。そして、この瞬間からレッズのチーム全体が相手陣地内に入ってプレーするようになり、ボールを奪えばチャンスという状況が前半終了まで続きます。
マリノスは相手が前に出てきたことでウィングの選手も自陣に下がって守らなければいけなくなり、彼らにとって難しい時間帯が生まれました。彼らの得意な前線からのプレスがあまり生きなくなりました。岩波が発した自分でボールを運んで『前へ!』『みんな攻めるぞ!』というチームへのメッセージはすごく良かったと思います。
とはいえレッズのセンターバックにはスピードがあるわけではないので、ボールをゆっくりつないでいると、また相手のプレスが戻ってきて苦しいビルドアップを続けなければいけません。相手のプレッシングの第1ラインを越えた後の、プレーアクションの選択はレッズにとってこれからも重要なポイントになると思います」
アレックス氏が再三指摘している「相手のプレッシングの第1ラインを越えた後」について、マリノス戦後の記者会見でリカルド・ロドリゲス監督に質問すると、次のような答えが返ってきた。
「まず全体としていくつかいい形の突破もあり、そういうところは今後も続けていかなければいけないと思います。ただおっしゃる通り、(相手のプレッシングを)突破した後、なかなかうまくゴール前に迫れないシーンがあって、その理由はたくさんあると思いますが、例えば相手の全体を下げさせるような背後への動きを作ることであったり、そういったところが今後の我々の改善点になってくると思っています」
「1つひとつの試合における成長を見ることが大事」
レッズはハーフタイム明けに4-2-3-1のセントラルMFとしてコンビを組んでいた伊藤と阿部勇樹を2人ともベンチに下げた。ボールを前進させるにあたって、彼らを交代させたのは指揮官なりのメッセージだったのかもしれない。アレックス氏も「意図はリカルドに聞かなければわかりませんが、その可能性はあります」と語る。
リカルド・ロドリゲス監督の記者会見を音声で確認したアレックス氏は、「すごく謙虚に相手を認めている姿勢も含めて、自分たちが向上することが何よりも重要だというメッセージに嘘偽りはないと思います」とも述べた。
「レッズは今年から新しい体制が始まったチームで、主力が退団し、若手中心でいかなければならない状況だからこそ、1つひとつの試合における成長を見ることが大事だと思います。マリノスは2年前のチャンピオンで、同じ監督で4年目を迎えています。すでに完成されたチームと戦っているので、こういう結果(0-3敗戦)になることを悲観する必要はないと思います」
リカルド・ロドリゲス監督も「0-3で負けてこういう話をするのもおかしな感じではありますが、チームの成長は間違いなくあると思います」とマリノス戦後に手応えを語っていた。すでに相手陣地内に入ってからの崩しにはスムーズさがあり、結果がなかなか出ずとも向上の兆しは見えてきているのだろう。
レッズは強さを取り戻せるのか?
新監督が掲げるスタイルが徐々に浸透しつつあるなか、次にレッズが意識すべきなのは「相手がどうくるかで自分たちがどうしていくか」という判断基準の確率だ。
アレックス氏は「1つひとつの場面をチーム全体として正しく認識することで、選手1人ひとりがいるべき場所が決まってきます。試合をこなしながら、全員が相手の状況を共通の文脈で認識することで向上していくのではないかと思います。リカルドは素晴らしい監督ですし、彼が思い描くプレーを選手たちが実現できれば、非常に怖いチームになることは間違いありません」と述べる。
「もちろんもっと完成された選手がいたら、リカルドがやろうとしているサッカーは現時点でもより正確に展開されていたと思いますが、かといって今在籍している選手だからダメだというわけではありません。すごく期待できるチームだと思いますし、何より浦和レッズのプロジェクトは、来年の今頃、あるいは再来年の今頃には、それはそれは怖いチームになっていると確信させてくれます。現段階で結果には結びついていませんが、試合のなかではいいプレーや改善していくであろうポイントがたくさん見えています」
「試合を見ればそこに答えがあります。マリノス戦でも前半の終盤に得点できていたら、試合の結果は違うものになっていたでしょう。すでに彼らが実現したいサッカーを表現できる時間帯があります。
マリノス戦は30分から45分にかけての15分間しかなかったかもしれませんが、その時間帯に嘘はありません。確実に浦和レッズのサッカーを見せてくれていましたし、それを実現できる選手がチームの中にいるということなので、あのような時間帯が今後増えていくと考えられるでしょう。
もし90分間ずっと(彼らが実現したいサッカーを)継続できるチームになると、本当に止められないチームになっていくと思います。かといって、それがすぐにできることはありえませんし、どんなことでも、多くを成し遂げるには時間が必要だということを理解するのが非常に大事だと思います。それを理解し、我慢できるからこそリカルドを監督に招いたのだと、私は信じています」
徳島ヴォルティスをJ1に昇格させたことでリカルド・ロドリゲス監督の確かな手腕は証明されている。ただ、J2優勝とJ1昇格までに4年を要したことからも、チームの成熟にある程度まとまった時間が必要なことは確かだ。
レッズで長期間にわたって結果が出ないことが許されるのかはわからないが、戦術の完成度が高まっていくのを辛抱強く待つ必要があるのは間違いない。今はまさにチームや選手たちが試合ごとに成長していく過程を、厳しくも温かく見守るべき時なのかもしれない。
(取材・文:舩木渉、分析:アレックス・ラレア)
【了】