J1で5年ぶりの勝利。金森健志が決勝弾
アビスパ福岡がJ1では5年ぶりとなる勝利を挙げた。
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13日に行われた明治安田生命J1リーグ第4節の徳島ヴォルティス戦は、2-1での逆転勝利。チーム一丸となった戦いの末、開幕から4試合目で今季初の勝ち点3を掴み取った。
苦しい展開だった。試合前にはFWとして先発予定だったブルーノ・メンデスがウォーミングアップ中に体の張りを訴え、急きょスタメンを城後寿に変更するアクシデント。試合が始まると、わずか2分で徳島に先制ゴールを許してしまう。
アビスパは強風が吹くなかで風下に立たされ、思うように前へボールを運べない。徳島が主導権を握ったまま0-1で前半終了の笛が吹かれた。しかし、後半に入ると一転して風上から攻めるアビスパが勢いに乗り始める。長谷部茂利監督は城後に代えて重廣卓也を投入し、システムも4-4-2から4-2-3-1に移行。この交代策と戦術変更がさらなる追い風となった。
53分、ついに同点ゴールが生まれる。敵陣内左サイドで相手に激しくプレッシャーをかけてボールを奪ったアビスパはカウンターを繰り出し、山岸祐也、金森健志とテンポよくつないで、石津大介がぽっかり空いていた右サイドに展開。最後は猛烈な勢いで飛び出してきた右サイドバックのエミル・サロモンソンがGKの股を抜く華麗なフィニッシュでゴールネットを揺らした。
同点弾の後は完全に流れはアビスパに傾いた。そして68分には待望の逆転ゴールが生まれる。相手陣内で激しくプレスをかけ続けて波状攻撃を展開すると、前寛之のクロスをゴール前から掻き出そうとした際にミスが発生。徳島のDFジエゴが味方のクリアの落下点を見誤り、バウンドしたボールに手で触れてしまった。
相手のハンドで得たPKを、「福岡で応援してくれているみんなの思いと、遠くまで駆けつけてくれたファン・サポーターの思いと、チームメイトの思い全てを乗せて蹴った」金森が冷静にゴール右隅に沈めてアビスパが逆転。5年ぶりに復帰した背番号37は、真っ先にアウェイ側スタンドで喜びに沸くアビスパサポーターのもとへ駆け寄り、左胸に光るクラブエンブレムを何度も叩いた。
「やっぱり僕は福岡で生まれて、福岡で育って、このクラブでプロ生活をスタートして、なんとか早くチームの勝利に貢献したくて、そしてファン・サポーターの皆さんに勝利を届けたいという気持ちでずっと戦ってきました。やっとゴールを決めて勝利に貢献することができて嬉しかったので、そういう思いも含め、エンブレムを叩きました」
シーズン開幕直前に電撃復帰
金森は福岡県福岡市出身で、筑陽学園高校から2013年にアビスパへ加入してプロデビューを果たした。1年目から主力として活躍し、3年目の2015年にはJ2で32試合出場6得点という成績を残してクラブのJ1昇格に貢献。
自身初のJ1の舞台でも33試合出場4得点と一定の成果は残したが、アビスパはリーグ戦でわずか4勝しか挙げられず1年でJ1に降格してしまう。そして、金森はJ2降格となったクラブに残らず、2017年から鹿島アントラーズへと移籍していった。
2019年途中からは古巣アビスパと因縁浅からぬ隣県のクラブ、サガン鳥栖の一員に。在籍3年目の今季も鳥栖でプレーすると思われていたが、Jリーグ開幕の約1週間前にアビスパへ電撃移籍することが発表された。届いたオファーには即決。感謝と覚悟の込もった古巣復帰だった。
「本当に勝利に貢献する、勝ち点3を取るためにアビスパに帰ってきましたし、早く力になりたいと思っていました。今日こうやって全員でハードワークして勝ち点3を取れたことは本当に大きな一歩だと思うので、これからも継続していきたいと思います」
J1開幕戦の名古屋グランパス戦こそ途中出場だったものの、その後の清水エスパルス戦、横浜F・マリノス戦と、2試合連続で先発起用されていた。しかし、アビスパはJ1の壁に阻まれ1分2敗と振るわず。金森自身も3試合で1本もシュートを放てず、チームに結果という形で貢献できていなかった。
「残留争いをするつもりは全くない」
とはいえ右サイドから崩しの局面で重要なアクセントになっていて、攻撃から守備への切り替えもサボらず献身的にこなすなど、加入したばかりながら存在感は際立っていた。結果が出るのも時間の問題かと思われていた徳島戦では、チャンスが少なかった前半にクロスバー直撃のループシュートを放ち、最終的にはPKで加入後初得点。交代するまで81分間のプレーで多くのチャンスに関与し、今季初勝利の立役者となった。
「ここで絶対に勝たなければいけなかったので、選手1人ひとりにそういう気持ちがありましたし、今日も遠くまで駆けつけてくれたファン・サポーターの思いとか、福岡で応援してくれているファン・サポーターの思いをすごく感じました。それが本当に力になって勝てたと思っています」
個人の力ではなく、あくまでファン・サポーターから力をもらったチーム全員のハードワークによってつかんだ勝利である。金森は試合後のインタビューのなかで、そういった主旨の言葉を何度も強調した。そして「今日を第一歩として、これに満足せず、個人的にももっともっと成長して、向上心を持って、もっとサッカーが上手くなって、チームの勝利に貢献できるように、1試合1試合頑張りたい」と謙虚な姿勢を貫く。
アビスパが今季獲得した新戦力のなかに、昨季のJ1でコンスタントに出場を重ねていた選手は少ない。中国から移籍加入が決まったカメルーン人FWジョン・マリやベルギー世代別代表歴を持つジョルディ・クルークスも合流のめどが立たず、地元出身かつJ1での経験も豊富な金森にかかる期待は大きい。同時に背負うプレッシャーや責任も重くなる。本人はそれを十分に承知したうえで、覚悟を決めてアビスパ復帰を決断したはずだ。
「1試合1試合、本当に厳しい戦いが続くと思うんですけど、残留争いをするつもりは全くないですし、必ず10位以内を狙っていきたいですし、そういうメンバーが揃っていると思います」
金森はチームの目標達成を強く信じている。前回アビスパがJ1を戦った2016シーズンは、リーグ戦初勝利を挙げたのがJ1第9節のFC東京戦で、年間通して4勝しかできず辛酸を嘗めた。
同じ過ちは繰り返さない。そしてファン・サポーターに「気持ちよく、ただいまと言いたい」。生まれ故郷でアビスパへ恩返しをするという誓いと覚悟が金森を突き動かしている。
(文:舩木渉)
【了】