悪条件で大勝したセレッソ大阪
大久保嘉人の開幕からのゴールラッシュに気を取られがちだが、2021年のセレッソ大阪は勝ち切れない試合が続いていた。3月10日の清水エスパルス戦は何とか勝ち切ったものの、4戦終了時点で2勝2敗。波に乗りきれていない状況だった。
【今シーズンのJリーグはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】
それだけに、13日の横浜FC戦は連勝が必須だった。開幕から早くも3度目の関東遠征で、大久保や清武弘嗣ら主力は5戦連続先発。まさに疲労困憊だったが、今季未勝利の相手に負けるわけにはいかなかった。
ところが、当日のニッパツ三ツ沢球技場は予期せぬ豪雨に見舞われた。一時は試合開催が不透明になり、アップをした選手たちはロッカーで判断を待つ状況を強いられた。「試合があるのかないのかを心配する2時間だった」とレヴィー・クルピ監督も話したが、心身ともに落ち着かなかったに違いない。
結局、試合は2時間遅れてスタート。ピッチの至るところに水たまりができ、ボールが止まる悪条件での戦いとなった。それでもセレッソは集中力を切らすことなく、前半のうちに豊川雄太が今季初ゴールで先制。後半に入ってジャーメイン良にゴールを奪われ、一度は追いつかれたものの、38歳のエース・大久保が勝ち越し弾を叩き出す。
そして終盤には途中出場の加藤陸次樹と高木俊幸が3・4点目をゲット。終わってみれば4-1の快勝。暫定順位を4位まで上げた。
圧倒的な存在感を放った清武弘嗣
稀に見る悪条件での戦いで、まばゆい光を放ったのが、キャプテンの清武だった。卓越した足技と戦術眼を武器とする背番号10は悪環境をもろともせず、巧みにボールを操り、ゲームをコントロールする。長短のパス出しは的確で、自ら積極的にミドルシュートも打ちに行く。その存在感は圧倒的だった。
この日はゴールもアシストもつかなかったが、加藤の3点目につながるお膳立てなどは圧巻。前に走る高木と加藤の位置をしっかりと見極め、ハーフウェーラインあたりから高木に絶妙のスルーパスを送ったのだ。これでDF袴田裕太郎は彼に引き寄せられ、加藤は完全にフリー。背番号29をつける新加入FWは押し込むだけでよかった。
「J1とJ2は全然違いますし、清武選手のようなすごい経歴の選手と一緒にやれる中で、自分のいいところを出そうと強気でプレーしています」。加藤はキャプテンから力強い後押しを受けていることを明かしたが、実際にリーダーは宮崎キャンプなどを通して新戦力を輪の中に入れる努力を欠かさなかった。
こうした黒子の仕事ぶりを知っているからこそ、クルピ監督も絶対の信頼を寄せている。「キヨは以前、私がいた時からよく知っている選手。技術レベルの高さはみなさんにお話をする必要は全くない」と改めて太鼓判を押したのだ。
直面する難題に悩むキャプテン
そんな清武だが、「ここ3試合は自分自身、いろいろ考えることもあって、少し迷いながらプレーしていた」と清水戦後に本音を吐露していた。いかにしてクルピ流に適応していくかを考えあぐねていたようだった。
過去4年間のセレッソはご存じの通り、ユン・ジョンファン(現千葉)、ロティーナ(現清水)の下、緻密な守備戦術を武器に上位にのし上がった。この歩みを熟知している彼は「これまで積み上げてきた守備のベースはなくしちゃいけない」と繰り返し強調。それを実践しつつ、攻撃面で迫力を出そうと考えていた。
その思惑通り、今季のチームは大久保、豊川、加藤、高木とFW陣が次々と得点を重ねられるようになったが、5試合8失点と守備が脆くなっているのも事実だ。攻守のバランスをいかにして取るのか、自分の立ち位置をどうしていくべきか…。清武はそういった難題に直面し、1人、悩み続けてきたのだ。
「ロティーナ監督の下で学んだ立ち位置や規律は、自分の中でこの3試合も意識しながらやっていた部分もあります。でも、監督が代わればサッカーも変わる。それはこの3試合ですごく感じたこと。そこで、ボールを引き出したり、ボールを触ったりを意識した。なるべくボールに関わろうと思って、自由に動いて、今日はサッカーを楽しみました」
清水戦でいい意味で割り切った彼はイキイキとした躍動感を取り戻し、値千金の決勝弾を叩き出した。
横浜FCをかく乱した清武弘嗣
横浜FC戦でもその方向性を継続。柔軟かつ流動的にポジションを移動しながらリズムの変化をつけていた。基本は左サイドに陣取ってはいるものの、時には中央に絞って敵を引き付け、スペースを作ったり、パスを供給したり、前線へ飛び出したりと神出鬼没な動きで相手をかく乱していた。
背番号10がボールに触る回数が多ければ多いほど、セレッソの攻撃は迫力を増す。それがこの2試合で実証されたのだ。
もちろん清武が悩んでいた攻守のバランスや立ち位置の問題が完全に解決されたわけではない。昨季通算37失点だったチームが序盤5試合だけで8失点しているのだから、修正しなければいけないことはある。それを指揮官やコーチ陣とどう擦り合わせ、ベストな方向に持って行くのか…。
主将に託された役割は少なくない。だが、責任を背負いすぎることなく、自身のパフォーマンスを研ぎ澄ませるところから、解決策を探ってもらいたい。
(文:元川悦子)
【了】