待望のリーグ戦初勝利
横浜F・マリノスがリーグ戦3試合目にして、ようやく今季初の勝ち点3を手にした。
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10日に行われた明治安田生命J1リーグ第3節、アウェイでのアビスパ福岡戦に3-1で勝利。相手の積極果敢なプレッシングに苦しむ時間帯もあったが、地力の差を示して勝ち切った。
前節から中2日の強行日程ということもあり、アンジェ・ポステコグルー監督はリーグ戦今季初先発の選手を4人起用した。右サイドバックの小池龍太、左サイドバックの高野遼、セントラルMFの渡辺皓太、そして左ウィングのエウベルが、その4人である。
試合後の記者会見では「3日前に試合をしていたし、フィジカル的な部分でもきついなかでしっかりやってくれたと思う。小池にしても高野もいい形でやってくれた」と、初先発の選手たちを称えた。
そのうえで「タフなスケジュールのなか、少しのローテーションでまずはレベルを落とさないような選手の起用を考えている」とも述べた。3月はしばらく週2試合ペースで日程を消化していかなければならないため、マリノスのみならず他クラブにとっても厳しい戦いが続く。
Jリーグ連覇を目指した昨季はリーグ戦9位に終わったが、そのなかで数少ない収穫と言えたのは「自分たちのサッカー」を発揮できる陣容を2チーム分作れたことだった。クオリティに多少の差があるとはいえ、全選手がポステコグルー監督の考え方を理解・共有し、どんな組み合わせでもピッチ上で同じ戦術を体現できるようになった。
主力の大半が残留した今季もアタッキング・フットボールを表現するためのベースはしっかり残っており、初先発の選手が4人いても違和感なく戦えたことがチーム全体の戦術理解度の高さを示していると言えるだろう。
透けて見えていたチーム内序列
ただ、どうしても選手間の序列は見えてきてしまう。アビスパ戦で今季リーグ戦初先発だった4選手のうち、小池は特にプレシーズンから厳しい立場に置かれていた。彼のポジションは日本で最も激しい競争があると言ってもいいくらいだ。小池も含めてJリーグ屈指の実力者ばかりが揃っている。
3バックにトライしていたプレシーズンキャンプ中は、右ウィングバックで和田拓也に次ぐ2番手。4バックに戻したシーズン開幕とともに、和田はセントラルMFで起用されることが多くなった。一方で右サイドバックには岩田智輝や松原健がいて、小池は彼らに次ぐ3番手かと思われていた。
最近は岩田がアンカー的に起用されることが増え、小池は松原と右サイドバックを争っている。そして昨季終盤に起用が増えた左サイドバックではティーラトンと高野に次ぐ3番手という立ち位置に見えていた。
シーズンが開幕すると、初戦の川崎フロンターレ戦で小池はベンチ外に。先発の右サイドバックには岩田が選ばれていた。そして松原が先発したYBCルヴァンカップ初戦のベガルタ仙台戦では、終盤に左サイドバックとして途中出場。続くJ1第2節のサンフレッチェ広島戦はベンチに入るも出番なし。
アビスパ戦でついに先発出場のチャンスがめぐってきたことで、自らの価値を証明しようとモチベーションは非常に高かっただろう。すると、後半の62分に豪快なミドルシュートでマリノスに貴重な追加点をもたらした。最終的には小池のゴールが決勝点に。「結果」という形でリーグ戦初勝利に大きく貢献した。
「マリノスでは、今までやっていたサイドバックよりはもう少し得点を奪えるポジションに侵入できることが多いですし、そのなかで必然的に結果を残していかなきゃいけないという立場にもなってくると思っていました。
その意識が日々の練習から高まってきたなかで、ああいう場面でシュートを打つ判断ができたのはすごく自分自身にとっても大きいことですし、チームがやろうとしていることを体現できたかなと思います」
今季初ゴールは「ご褒美」
速攻の場面で右サイドではなく中央のスペースを駆け上がっていた小池は、相手からボールを奪った渡辺からのパスを受けて反転すると、迷わず右足を振り抜いてゴール左隅を射抜いた。しかし、この得点を背番号25の右サイドバックは「ご褒美」と表現する。
「僕自身、今日の試合は納得いくものではありませんでしたし、ミスが多かった試合という反省点がゴールよりも多い。そのなかでゴールという『ご褒美』がついてきた感覚です。基本的に自分の評価としては、今まで練習で積み上げてきた信頼だったりは、この試合ではあまり出せなったと感じていますし、僕の理想のプレーという意味では、今日は及第点を上回ることはできなかったと思います。
そのなかでもチームを勝利させるとか、結果を持って帰ることができたのはすごく大きなことですし、そこは今まで地力をつけてきたなかで、いつでも、試合に出られない時でも自分にフォーカスして取り組んできた結果だと思います。いい準備をしてきたからこそ、いい『ご褒美』がついてきたのかなと思っています」
ゴールに浮かれることなく、地に足をつけて常に現実を見据えている。いかにも小池らしい考え方だが、ゴールした瞬間は喜びを体全体で表現した。飛び上がってガッツポーズすると、真っ先に向かったのはベンチメンバーのところ。チームメイトたちも出番が少なく苦しみながら結果を残した小池を盛大に祝福した(その最中、控えGKの高丘陽平はチアゴ・マルチンスの左フックに一発KOされていたが…)。
常に自分自身よりもチームを優先して戦うのが、小池という選手だ。非常にインテリジェンスに溢れ、戦術理解も早く、プレーの幅も広い。日本では右サイドバックというイメージだが、ベルギー時代は監督からの要請に応じて右ウィングやトップ下でもプレーし、帰国後はポステコグルー監督から左サイドバックも任された。
どんな状況でも貪欲に成長を追い求めるのは、マリノスに加入してからも変わらない。左サイドバックに関しても「景色は全然違って、慣れるのに少し苦労した」ものの、周りのサポートも受けながら「右でも左でもアシストやゴールという結果を残せているのは成長できているポイントだと思う」と前向きに取り組んできた。
ベルギー時代に語っていたこと
ベルギー2部のロケレン時代もチームメイトだった天野純は、小池について「こんなに助かるし、一緒にやりやすいサイドバックはなかなかいない」と話していたのをよく覚えている。現地で2人を取材したときのことだ。
「一緒にやってみて、どの監督でも使われるタイプなんだろうなとすごく感じます。そこは俺にないところで、俺の場合は結構好き嫌いが出ると思うし、単純に羨ましい(笑)。後ろにいてくれて、自分を自由にさせてくれるサイドバックって、今まであまり一緒にやってきたことがなかった。あとはサッカーをよく理解していて、かつアップダウンもできて、上手くて足もともしっかりしているから、本当にいい感じです」
常にポジティブかつフォア・ザ・チームの姿勢をピッチ内外で見せ続ける小池ほど心強い選手はなかなかいない。彼のサッカーに対する考え方は、周りをも勇気づけるパワーを持っているのではないかと感じる。
ベルギー時代に語っていたことと、今まさに考えていることが一切ブレていないのもアビスパ戦でよくわかった。
「まず自分がチームメイトを信頼する。そこから信頼は得られると思うし、必要とされると思うので、やらなきゃいけないことを100%こなすのに加えて、近くにいる選手が僕がいることによって少しでも、1%でも助かればいいなと思っています。
そういう小さな積み重ねで、気づかないところかもしれないけど、チームを助けつつ結果も見せられれば、絶対に必要な選手にもなれる。見えないところでもやり続けられるというのは、変わらず僕の長所だと思うので、これからも続けていきたいと思います」
これがベルギー時代の取材で聞いた言葉。そして、アビスパ戦後に「小池選手は今、マリノスで何をすべきだと思っていますか?」と投げかけて返ってきた言葉が次の通りだ。
「見えないところで何ができるかを大事に」
「やはり試合に出続けることというのは、評価を一番得やすいというか、(チームメイト)みんなの信頼や監督の信頼を受けやすい状況になりますし、自分を表現できるタイミングを作れる場なので、マリノスでも試合に出続けるところにフォーカスしなければいけないと思っています。そのなかで出られない時期が来るかもしれないですけど、そこでもいい準備を続けることは変わりません。
チームの勝利のために、たとえベンチであっても、いい雰囲気を作って、たとえベンチ外であっても、その試合に勝てるように練習で相手役を一生懸命やることだって大事だと思います。そういった見えないところで何ができるかを大事にして、見えるところでしっかり結果を残すことを、今日みたいにやり続けていきたいと思います」
たとえ出番に恵まれない時期が続いても、いつか巡ってくるチャンスを信じて最善の準備を怠らない。アビスパ戦は全体を通してみれば納得のいかないパフォーマンスだったかもしれないが、ここぞで「ゴール」という勝利に直結する結果を残せたのは、自らの流儀に忠実であり続け、チームのために果たすべき役割を徹底的にこなしてきたからこそだろう。
ポステコグルー監督は、練習中にほとんど指示を出さない。アシスタントコーチが練習を指揮し、選手たちが動く姿を遠くから腕を組んで静かに見守っている。一見すると距離感が遠いようだが、実は選手個々の行動の細部までよく見ていて、チャンスは与えるにふさわしい振る舞いをした者にしか与えない。チームのために戦えない選手には非常に厳しい監督だ。
小池がここぞの場面で頼られるのは、日々の練習での取り組みが評価されているからに他ならない。指揮官にとっても頼もしい存在なのだろう。徹底したターンオーバーを敷いた昨季は出場と欠場が交互に続き、今季も全ての試合で起用されるわけではないだろう。だが、コンディションさえ良好であれば、ここぞという時に勝敗のカギを握る役割を任されることになるだろう。
JFLからJ3、J2、J1、海外、そしてJ1優勝クラブへと地道にキャリアを積み上げてきた25歳はベルギーで、「子どもたちやアマチュア選手たちに、僕みたいなキャリアを歩みたいと思ってもらえるような手本になりたい。他の人が成し遂げなかったことを僕はしてきているし、頑張れば彼みたいになれる、彼みたいになりたいから頑張るという、手本になるべき選手に、僕は最終的に引退するときになりたいと思っています」とも話していた。
これが小池が選手として到達したい理想の姿だという。もう十分「手本」となる存在になれていると思うが、いままで通り毎日に100%を尽くすことは絶対にやめないだろう。彼こそチームに必ず1人はいてほしい、希少価値の高いキープレーヤーだ。
(取材・文:舩木渉)
【了】