リーグ初先発も45分間のみで交代
エーゲ海に入ってはエーゲ海に従うことも必要か。現地7日に行われたギリシャ・スーパーリーグ第25節。3位のPAOKテッサロニキは、ホームで2位のアリス・テッサロニキと対戦した。本拠地を同じくするチーム同士によるダービー・マッチである。
【今シーズンの欧州サッカーはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】
前節対戦したアステラス・トリポリスに続き、守備の強度が高いアリスに対して、PAOKは攻めあぐねた。ライバル心を剥き出しにしてくる敵のインテンシティーに苦しみ、26分に失点。ミドルシュートをGKジブコ・ジブコビッチが弾いたボールを、左からダニエル・マンチーニに強いボールを折り折り返され、ファクンド・ベルトグリオに押し込まれてしまう。PAOKは主導権を握れないまま、0-1で前半を折り返した。
先発した香川真司は、45分間のプレーのみで交代となった。PAOKに移籍加入して以来、リーグ戦で先発を飾るのはこの試合が初めて。ポジションは[4-2-3-1]のトップ下。背番号23の周囲に並ぶのは、ワントップにミハエル・クレメンチーク、左にアムル・ワルダ、右にアンドリア・ジブコビッチである。なお、119歳の新鋭クリストス・ツォリスは体調不良でメンバー外となっている。
前半だけでの交代という記録だけを見れば、香川のプレーはそんなに酷かったのかといった印象を与えるかもしれないが、決してボールロストを連発したとか、チームの足を引っ張るプレーが続いたわけではない。もちろんゴールやアシストといった決定的な仕事をすることはできなかったが、時折サイドチェンジといったピッチを広く使うパスを繰り出し、他の選手にはない持ち味を見せている。
周囲との連係に不安
ただ、まだ周囲の選手との連係は不十分なところがあり、頭の中で描いているサッカーのイメージについてもズレがあるようだ。
例えば25分の場面では、香川は右サイドのジブコビッチに大きく展開した後で、そのセルビア代表アタッカーに対し、逆サイドのワルダがフリーになっている、もしくはフリーのワルダにパスを出せ、といったジェスチャーを見せている。
しかしジブコビッチは、強引にカットインからロングシュートを放ち、そのまま敵のGKにガッチリとキャッチされてしまう。その様子を見た香川は、なんでだよ! と言わんばかりに両手を大きく広げている。もちろん想像に過ぎないが、おそらく背番号23としては、もう一度ワルダに大きく振って、左サイドから丁寧に崩していくイメージを頭の中に浮かべていたのだろう。この辺りに、香川と周囲の選手との間でイメージの共有が不十分であることが垣間見える。
もっとも、言うまでもないかもしれないが、これまで香川がボルシア・ドルトムントやマンチェスター・ユナイテッドなどで経験してきたようなサッカーをPAOKで実現することは難しいだろう。
この試合でPAOKの選手たちは、0-2で迎えた終盤、アリスに対してロングボールを使用して強引に同点に追い付いたが、そうした原始的な部分が残るのがギリシャのサッカーだとしたら、歴戦の背番号23にとって、ある程度の妥協は必要になってくるだろう。郷に入っては郷に従う、というか、どうしてもエーゲ海に入ってはエーゲ海の風土に従わざるを得ない部分も出てくる。PAOKのサッカーは基本的には繋ぐスタイルなので、その中で自身の良さを発揮しつつ、原始的な部分にも適応していくことが、香川に求められるのかもしれない。
コンディションはまだまだだが…
そして日本人MFのコンディションは引き続き、まだ十分には整っていないようだ。27分には、右サイドの高い位置でスライディングで奪い返して攻撃に繋げるなど、香川自身のプレー強度が弱かったわけではないが、一方で部分的に対人で少し弱いところもあった。4日前のカップ戦でフル出場したばかりということもあってか、連戦を戦い抜くという意味でも、香川のコンディションはまだ整っていないようである。
そういった意味では、パブロ・ガルシア監督の中で、このアリス戦で背番号23を45分間プレーさせることは、そもそもの計画だった可能性もある。PAOKは既にプレーオフ進出を決めており、ライバル相手に勝敗にこだわる必要はない。
ガルシア監督は、この試合で[4-2-3-1]だけでなく、中盤が逆三角形の[4-3-3]と[4-4-2]のシステムも使っている。[4-3-3]の布陣で香川はインサイドハーフに入ったが、ウルグアイ人の指揮官にとって、このアリス戦はプレーオフに向けた準備の側面もあったのではないか。少なくとも、ガルシア監督がアリスとのダービーの前半だけで香川を見切った、ということはなさそうだ。
今季のギリシャ・スーパーリーグは残すところ1試合となったが、香川としては、周囲との連係、コンディションを含め、エーゲ海のサッカーに“適応”を進めていきたいところだ。
(文:本田千尋)
【了】