フットボールチャンネル

Jリーグ 4年前

「J1は世界と真逆に進んでいる」。スプリントしなくても頂点を目指せるガラパゴスなリーグだった【データアナリストの眼力(2)】

3/8発売『フットボール批評issue31』から、最先端の戦術コンセプトを独自の分析で一枚の絵に表現してきた“異端のアナリスト”庄司悟氏の連載より、Jリーグ各クラブのコンセプトを浮き彫りにしてみせた「フットボールの主旋律」を発売に先駆けて一部抜粋して全3回で公開する。今回は第2回。(文:庄司悟)

シリーズ:データアナリストの眼力 text by 庄司悟 photo by Getty Images

世界に離されるJリーグ…わずかな光明は?

図16_fch
図16

 ここからは、いよいよ村井チェアマン同様に、Jリーグと世界とのコンセプトの違いを明らかにしていく。今回の座標軸はパス成功数(縦軸)×スプリント数(横軸)とした。ちなみにスプリント数はJ1しか公開されておらず、すなわちJ1と世界の比較となる。

【今シーズンのJリーグはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】


 まずは昨季のチャンピオンズリーグ王者バイエルンが戦うドイツ・ブンデスリーガ(2020/21シーズン第17節終了時点)の図16を目に焼き付けてもらいたい。1位バイエルン、2位RBライプツィヒ、3位レヴァークーゼン、4位ドルトムントと、見事なまでに上位クラブは右上のゾーンに集約している。

 走りながらパスも繋がるという現在の〝ブンデスカラー〞に至ったのは、前記したとおり、グアルディオラがユニット「ペンタゴン3」を編み出したからに違いない。事実、その「ペンタゴン3」によって、パス=テクニカル、スプリント=フィジカル両方のつるべが上がった。グアルディオラのおかげもあり、今やドイツにおいてパスとスプリントは「対峙する要素」ではなくなっている。

図17_fch
図17

 対してJ1(図17)はどうか。1位川崎は左上、2位G大阪、3位名古屋、4位C大阪にいたっては左下のゾーンとまるでバラバラである。昨季のCL王者が所属するブンデスリーガを世界の潮流と仮定するならば、J1は明らかに世界とは逆の方向に進んでいることがわかる。スプリントを増やさなくても頂点を目指せるガラパゴスなリーグと言い換えてもいい。

 ただ、わずかな光明が9位横浜F・マリノスの存在である。昨年は成績こそ振るわなかったものの、2019年から引き続きパスとスプリントを両立させ、世界の潮流にはしっかりと乗っている。シティ・グループの庇護下にあるクラブだけあって、世界を見据えていることはこの分布からも大いに伝わってくる。

J1に圧倒的に足りていない要素とは?

図18_fch
図18
図19_fch
図19

 では次の座標軸はどうだろう。今度はボール支配率(縦軸)×走行距離(横軸)の座標軸を用意した。ブンデスリーガ(図18)を見てもらえばわかるとおり、王者バイエルンの走行距離は何と下から数えて2番目で、実際のところそこまで走っていない。

 J1(図19)と比較しても、川崎もバイエルンと同じような位置におり、「なんだ、結局バイエルンも川崎と同じようなコンセプトじゃないか」というツッコミが聞こえてきそうだ。しかし、これは壮大なる引っ掛けである。

 先程のパス成功数(縦軸)×スプリント数(横軸)の座標軸を振り返ってほしい。バイエルンは右上のゾーンで、川崎は左上のゾーンだったはず。走行距離は下から2番目でスプリントはトップのバイエルンは、質、強度が高い密な走りに注力していたというわけだ。

 川崎がやっているフットボールを「止めて蹴っている」とするなら、バイエルンは「走りながら蹴っている」と表現することが可能だろう。もし、川崎の風間八宏前監督が「止めて蹴る」に、あとひと単語「走りながら」を付け加えていれば……。その影響力を考えれば、惜しいことをした、と思わざるを得ない。

 つまり、J1には強度の高い走り、インテンシティの高い走りが圧倒的に足りていない。例えばJリーグで5、6人が一斉にスプリントするシーンを見たことがあるだろうか? 横浜FMにしてもスプリント、走行距離ともにトップで、走りの重要性には気付いているとはいえ、まだその走りにメリハリがないのが現状といえる。

(文:庄司悟)

31号_表紙_05

『フットボール批評issue31』


≪書籍概要≫
定価:1650円(本体1500円+税)

究極の2021Jリーグアナリティクス

Jクラブにとってコンセプトの5文字はもしかしたらタブーワードなのかもしれない。クラブのコンセプトをひけらかすことは、すなわち“秘伝のレシピ”の流出を意味する。もちろん、これはコンセプトという壺にタレが脈々と継ぎ足されているクラブに限った話ではあるのだが……。
コンセプトを一般公開できないとなれば、こちら側が様々な手法を使って分析していくほかない。なぜ、コンセプトの解剖にこれほどまでに執着するのかと言えば、抽象的にJリーグを眺める時代は終わりにしたい、という願望からである。そう、本質の話をしよう、ということだ。
今回は2021年のJリーグをより具体的に俯瞰できるように、J1・J2・J3のコンセプトマップを筆頭とし、補強からGKのコンセプトまで本質を抉る企画を揃えた。この「究極のアナリティクス誌」を携えれば、コンセプトなき“あのクラブ”が手に取ってわかるはず、だ。

詳細はこちらから

【了】

KANZENからのお知らせ

scroll top
error: Content is protected !!