現世界王者の実力を大きく証明
バイエルン・ミュンヘンは現世界王者としてのプライドを示した。ラツィオにスタディオ・オリンピコでサプライズを起こさせず、力の差を見せつけている。
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この試合の勝敗は前半で決まってしまったと言えるだろう。
先制点は9分に生まれた。今冬ミランから加入したマテオ・ムサッキオのバックパスが雑になったところをロベルト・レバンドフスキが拾い、飛び出してきたGKホセ・マヌエル・レイナをかわして冷静にゴールをあげている。
「あの早い時間帯で先制したことは間違いなく僕らの後押しになった」。
試合後のレロイ・ザネのコメントだ。その言葉通り、早い時間にリードを奪ったことで、バイエルンのギアはそこからさらに上がった。ラツィオにペースを渡すことなく、敵陣でのプレー時間を増やしている。そして、24分に追加点。先発に抜擢されたジャマル・ムシアラがグラウンダーのシュートを流し込んだ。なお、ムシアラはこれでチャンピオンズリーグ(CL)におけるクラブ史上最年少得点記録を更新することになった(17歳363日)。
バイエルンはその後も攻撃の手を緩めず、42分にはカウンターから最後はザネが得点。前半だけで0-3と、ラツィオの戦意を大きく削ぎ落していた。
後半開始早々にはフランチェスコ・アチェルビのオウンゴールを誘発して0-4。その2分後にホアキン・コレアに1点を返され、以降はラツィオに押し込まれる時間帯があったものの、選手交代をうまく行いながらしっかりと時間を進め、追加点を許さず。アウェイで1-4と、ベスト8進出をほぼ手中に収める完璧な結果を得た。「全員が期待に応えてくれた。我々は非常に良いチームパフォーマンスを示したよ」とハンジ・フリック監督も満足感あるコメントを残している。
フランクフルト戦の反省を生かした
ラツィオ戦に向け、バイエルンにまったく不安がなかったわけではない。セルジュ・ニャブリやトーマス・ミュラー、バンジャマン・パバールなど離脱者が多く、直近のリーグ戦では格下ビーレフェルトに引き分けたり、日本代表MF鎌田大地が躍動したフランクフルトに1-2で敗れていたりもした。
フランクフルト戦後、守護神マヌエル・ノイアーは「僕らは最初から問題に直面していた。立ち上がりからピッチ上でのアグレッシブさが必要なんだ」と反省を述べている。また、レオン・ゴレツカも「前半は完全に寝過ごしたよ。(アグレッシブさを取り戻した)後半のパフォーマンスを最初から見せていれば、試合には間違いなく勝てていただろうね」と言葉を残していた。
そのフランクフルト戦の反省を、このラツィオ戦ではしっかりと生かしてきた。バイエルンは立ち上がりから持ち味であるアグレッシブな姿勢を前面に押し出し、低い位置から丁寧にボールを回してくるラツィオを機能不全として流れを渡すことがなかった。
この日奪った4得点のうち、2得点はラツィオ側のミスから生まれたものである。1点目はムサッキオのバックパスミス、3点目はハーフウェーライン付近でルーカス・レイバとパトリックが重なりボールロスト、そこからカウンターに繋がったことが得点へのきっかけとなった。
ラツィオのミスが起きたのは、もちろん技術や判断力の問題も一因である。ただ、そのミスを誘発し、そこから得点に繋がったのは、間違いなくバイエルン側の積極的なプレッシャーがあったからこそ。1点目の場面はボールロストした後、すぐにヨシュア・キミッヒがムサッキオに圧力をかけてバックパスへ誘導、ボールが乱れたところをレバンドフスキが見逃さなかった。
3点目が生まれる直前のシーンでは、上記した通りルーズボールを拾おうとしたレイバとパトリックの連係ミスが起きたが、そこへキングスレー・コマンが素早くプレッシャーに行っていたことを忘れてはならない。だからこそ、カウンターを発動することができ、ゴールへ結び付けることもできたのである。
その他の場面でも、ラツィオが王者バイエルンのプレッシャーに委縮してしまい、ビルドアップ時のミスが起きることが多々あった。結果的に4失点で済んだが、さらに2、3点を追加されていても不思議ではなかったように思う。バイエルンの圧力は、それほどのものがあった。
フリック監督が「試合開始から相手チームにプレッシャーを与えたかった。そして上手く成功した。高い位置でボール奪取したかったんだ」と話せば、ゴレツカも「僕らは試合開始から積極的で主導権を握った。非常に高い位置でボールを奪ったから、ゴールへの道のりは短かったね。それが昨季の僕らを強くした。僕らはもう一度そこへ戻ると決断していたんだ」と話す。
ピッチ上の全員がワールドクラスの技術を持ちながら、ハードワークも怠らない。最も怖いバイエルンが、イタリアの地で目覚めてしまったと言えるだろう。
突破力のある4人がラツィオ守備陣を困難に
ただ、ラツィオの守備を崩壊させた要因は、ハードワークだけに留まらない。サイドで先発した4人の力が、相手に大きな影響を与えていた。
ラツィオは守備時、敵サイドバックに対しルイス・アルベルト、そしてセルゲイ・ミリンコビッチ=サビッチのインサイドハーフを当てている。ダブルボランチの一角には最前線のコレアが下がって対応し、もう一枚はボールサイドと反対側のインサイドハーフがつく。そして、サイドハーフにはウイングバックをつける形でビルドアップを阻止していた。
ラツィオのこうした守備対応は決して悪くなく、集中力も高かった。とくに中央は堅く、レバンドフスキとムシアラはそれぞれタッチ数が46回と45回。これは、90分間で支配率43%となったラツィオの最前線チーロ・インモービレ(44回)、コレア(45回)の二人と大差ない数字である。
しかし、ラツィオが手を焼いたのはザネ、コマン、アルフォンソ・デイビス、ニクラス・ジューレだ。サイドに陣取ったこの4人は、イタリア首都クラブの守備を個の力で幾度となくかいくぐっている。
両サイドハーフのザネとコマンはキレキレだった。スピードを生かした縦突破もできれば、非凡な技術力を駆使してタメを作ることもお構いなしにやってのける。3点目はコマンの仕掛け→シュートから最後はザネにゴールが生まれており、アチェルビのオウンゴールを誘発するきっかけになったカウンターはコマンからザネに出たものだった。
左サイドバックのA・デイビスは世界トップクラスの快速を余すことなく発揮し、攻撃に厚みを加えている。もともとウイングだった同選手は1対1の仕掛けも申し分なく、2点目の場面はミリンコビッチ=サビッチを抜いたことでアンカーのレイバを引き付け、そのスペースに飛び込んだゴレツカへパス。同選手がそこで二人を寄せたことで中央のムシアラが空き、得点が生まれている。
そして右サイドバックのジューレは本職センターバックの選手だが、山のような巨体と足の速さを武器に、この日は積極的に攻撃参加。一列前のザネとサイドを蹂躙し、左WBアダム・マルシッチ、そして左CBのムサッキオを無力化し、後者に関しては前半31分だけでベンチへと追いやっている。
データサイト『Who Scored』によるドリブル成功数はザネが5回、ジューレが4回、A・デイビス3回、コマン2回となっている。これだけサイドの選手に突破力があれば、いくら相手の中央が堅くともあまり関係ない。ムシアラの得点が象徴する通り、サイドから剥がして守備全体のズレを生むことができるからだ。ラツィオにとってはたまったものではなかった。
これでミュラーとニャブリの両者が不在というのは、ただただ恐ろしい。
(文:小澤祐作)
【了】