明らかだった両チームの実力差
らしさ溢れる”ターン“が、ピッチの上に戻ってきた。2月21日に行われたギリシャ・スーパーリーグ第23節。PAOKテッサロニキは、ホームにPASラミアを迎えた。
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ラミアはギリシャ中央部にある人口5万程の小都市で、古代はスパルタの重要な軍事基地だったらしい。そんな14チーム中13位のスモール・クラブに対して、もちろんPAOKが完全に試合の主導権を握った。
基本布陣が[4-2-3-1]のPAOKは、前半、左SBのババ・ラーマンが高い位置を取る[3-1-4-2]の攻撃的な布陣で攻め込んだ。
ボールを持っている時は後ろが3バックになり、ダブルボランチの一角のチャリス・ツィンガラスが中盤の底に入り、その相棒のステファン・シュヴァーブが一列上がる。30歳のオーストリア人MFはトップ下のアムル・ワルダと並び、その2人がインサイドハーフのポジションを取る。
左右両サイドには、前述のババとアンドリア・ジブコビッチが構え、最前線には、マンチェスター・ユナイテッドとボルシア・ドルトムントが関心を持つと囁かれるFWフリストス・ツォリスと、長身のミハエル・クレメンチークが2トップを組んだ。
試合前にツォリスは「とても良い守備をするチームに対して難しいゲームになる」と予想していた。しかし、フタを開けてみれば、敵陣に人数を掛けるこのような布陣でPAOKはラミアを圧倒。19分、ボックスの右側でツォリスからの鋭い縦パスを受け取ったババが、ドリブルで敵のDF陣を置き去りにし、軽快にシュートを放って先制している。
ラミアは[4-4-2]でブロックを自陣に構築したが、それは意図的に立て籠もったというよりは、歴然とした差があるビッグクラブに対して引かざるを得なかった格好だ。PAOKの選手たちはポジションチェンジを繰り返しながら、ツォリス、ジブコビッチ、クレメンチーク、ワルダと次々にシュートを放ち、ラミアに息をつく間も与えないほどに攻め立てた。
その勢いのまま後半に入ると、48分にツォリス、52分にワルダと役者たちが立て続けにゴールを決めて、あっという間にスコアは3-0。両チームの実力差を考えれば、ここからラミアが逆転するのは、一度は死んだキリストが復活するくらいの奇跡を起こさない限り不可能だった。
香川真司が見せた“らしさ”
勝敗が決した62分、香川真司に出番が回ってきた。ワルダとの交代で、ポジションはトップ下。このタイミングでPAOKは布陣を[4-2-3-1]に戻している。もちろんこの[4-2-3-1]は基本的布陣で、選手たちはある程度流動的に動いた。
香川もサイドや最後尾まで広く動いた。その働きは純粋な10番と言うよりは8番と言った方が適切かもしれない。いずれにせよ、ブロックの間で味方からのボールを待つばかりではない。
背番号23が入って間もない66分、PAOKはジブコビッチが4点目を決めて、完全に試合をモノにした。その直後のことだった。試合がリスタートして間もなく、香川が“らしさ”を見せた。
シュワーブからのパスをセンターサークル付近で受けると、鮮やかに反転して敵の選手を置き去りにする。そのままドリブルで進み、シザースでフェイントを入れると、左前方のラザロス・ランプルーへパス。ここは敵のDFにカットされたが、その代名詞とも言える“ターン”が、ピッチの上に戻ってきたのだ。
もちろん試合の勝敗は決しており、ラミアの守備の強度は緩んでいたところもある。このレベルの相手にボールを失うわけにはいかない。しかし71分には、自陣で激しく寄せてくるエルマール・ビヤルナソンを、再び“ターン”でひらりとかわす。依然として後半からの出場だが、コンディションはさらに上がってきていると言えるだろう。
「さらに良い選手に」
そして香川は試合の終盤にかけて決定機を演出し、また、自身も決定機を迎えた。85分、背番号23は、左サイドの高い位置でボールを奪うと、そのままドリブルで運んでボックスの左側面の手前からグラウンダーのパスを入れる。しかし、この絶好のボールを、カロル・シフィデルスキは決め切れず。
さらに93分、自陣からゴールに向かって左前方に出たパスに、シフィデルスキが抜け出すと、香川もファーサイドに走る。この場面では2人の間にDFが入ったこともあったが、移籍市場専門サイト『transfermarkt』によると、このポーランド人FWは左利き。なのでシフィデルスキがタイミングよくパスを出していれば、香川に初得点が生まれていた可能性もある。いずれにせよ、PAOKに移籍して初めてのアシストとゴールに近づいているとも言えそうだ。
このラミア戦前に、ツォリスは現地『Novasports』に対して「僕は今よりもさらに良い選手になることを自分に期待している」と話している。今日の自分よりも明日の自分は「さらに良い選手」になっている――。想像に過ぎないが、おそらく31歳の香川も、この19歳のFWと思いは同じだろう。
(文:本田千尋)
【了】