最も重要なダービーマッチで完敗
ミランとインテルによるミラノダービーが「首位攻防戦」という形で行われるのは実に10年ぶりのことだったという。今季のリーグ優勝を占う一戦、近年で最も重要なダービーマッチになるという認識は、クラブや選手だけでなく、両チームの一戦を見守る全ての人も同じだったはずだ。
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ただ、その“重要”なダービーマッチにおいて、今季セリエA冬の王者であるミランは最悪な試合への入り方をしてしまった。ロメル・ルカクに単独で深さを作られクロスを上げられると、そこに飛び込んだラウタロ・マルティネスが頭でプッシュ。開始わずか5分のことだった。
その後ミランはズルズルと自陣に押し込まれることなく、ズラタン・イブラヒモビッチを中心に攻撃を展開。同点に追いつくことはできなかったが、0-1と可能性を残したまま前半を終えることができた。ただ、後半に入り再びL・マルティネスに得点を許すと、ルカクにも得点が誕生。一気に0-3と引き離された。
ミランは75分、最大の得点源であるイブラヒモビッチをベンチに下げている。試合後、ステファノ・ピオーリ監督は「彼は痙攣を起こしていた」と交代の理由を説明していたが、いずれにしても、これでミランは一矢報いることも難しくなってしまった。
結局、0-3のままスタジアムに試合終了のホイッスルが鳴り響いている。ミランにとっては、あまりにショッキングなスコアだ。ヨーロッパリーグ(EL)を終えたばかりで疲労が溜まっていた事実はあるかもしれないが、それにしてもインテルとの差は大きく、ほとんど良いところを見せることができなかった。
ミランはこれで今季初のリーグ戦連敗。3位ローマと5ポイント差の2位につけているが、首位インテルには4ポイント差をつけられてしまった。スクデットは少し遠のいたかもしれない。
ルカクを恐れ過ぎたロマニョーリ
ミランにとって脅威となっていたのは、最前線でL・マルティネスとコンビを組んだルカクだ。開始早々にアシストを記録すると、後半には勝負を決定づける3点目を自らの力で奪取。1得点1アシストで勝利の立役者となっている。
『Opta』によると、ゴールを奪ったルカクはこれでセリエAでのミラノダービーの連続得点記録を「4」に伸ばすことに(カップ戦を含めると5試合連続得点)。これは、インテルの選手としては1950年のベニート・ロレンツォ以来の記録になったという。まさに、ミラン・キラーである。
そのルカクと対峙したミランの主将アレッシオ・ロマニョーリは完全に無力化されてしまった。もともとフィジカルやスピードで勝負できるタイプではない背番号13と驚異のパワーにスピードを持つルカクとの相性は悪く、1失点目も3失点目も成す術なくぶち抜かれている。
ロマニョーリはルカクを恐れ過ぎてしまったと感じている。相手を背負いながらプレーすることの多いベルギー人FWに対しては後ろからガツンと当たりに行くDFが多いが、この日のロマニョーリはあえて距離を置き、次のプレーを阻止するような対応が目立った。つまり、ルカクにパスが入って強く詰めるのではなく、ボールをある程度持たせ、次のパスコースやシュートコースを切ることを優先したのである。当たりに行くだけでは敵わないと思ったのだろうか。
インテルの2点目が生まれる直前のシーンは分かりやすいかもしれない。
ミランから見て左サイドでボールを持ったルカクに対し、ロマニョーリは身体を当てることなく、背番号9と距離をとって対応している。そのシーンを静止画として見てみると、瞬間的にルカクがフリーとなっていることが分かる。マークを担当するロマニョーリが張り付いていないから、当然のことだ。
ただ、その後ルカクのポストプレーが効き、アシュラフ・ハキミに深さを作られたミランは、左から右に展開されて最後はL・マルティネスに得点を奪われるなど崩されている。単純なパワーでは勝てないとルカクに対するアプローチを工夫したロマニョーリだが、その対応が正しかったかどうかは少々疑問である。
イブラヒモビッチのパワーだけ
ミランは3失点と守備が崩壊してしまったが、前節のスペツィア戦に引き続き無得点に終わってしまった攻撃陣もまた、多くの問題を抱えていた。
ホームチームはビルドアップ時、左サイドバックのテオ・エルナンデスを高い位置へ上げ、右サイドバックのダビデ・カラブリアをやや低めの位置で固定していた。インテルの2トップに対し、後ろを3枚気味にすることで数的優位を作り出そうという狙いもあっただろう。
そのミランに対しインテルは以下のような方法で守っている。
ミランのCBに対してはルカクとL・マルティネスが警備、ダブルボランチは両インサイドハーフで見るようにし、T・エルナンデスにはハキミが、アレクシス・サレマーカーズにはイバン・ペリシッチ、アンテ・レビッチにはミラン・シュクリニアル、ハカン・チャルハノールにはマルセロ・ブロゾビッチ…基本的にはこの形で、奪ったらシンプルに縦へ展開しカウンターへ繋げている。
後ろでバランスを取るカラブリアに対してはクリスティアン・エリクセンが中盤底サンドロ・トナーリへのパスコースを切り、ペリシッチが縦を切ることで自由を奪っている。インテルのこうした人を基本とした守備は機能していた。
ミランはその守備に苦戦していた。バランスを取るカラブリアはとくに前半、サレマーカーズを追い越す動きが少なく、右サイドは深さを作れない。左サイドはT・エルナンデスが果敢に攻撃参加したが、レビッチがシュクリニアルとのマッチアップに苦労したため、いつものような怖さはない。T・エルナンデスは中へ入ることを好むため、幅を取るという意味でもやや物足りなさを残している。データサイト『Who Scored』内の選手の平均ポジションを見ても明らかだ。
歯車がかみ合わない中、チャルハノールが下がって組み立てに参加するシーンも見られたが、インテルにとって低い位置でボールを持たれることは無問題だった。むしろブロックを組みやすくなるので、好都合である。
こうなるとミランの攻撃はどうなるか。イブラヒモビッチ目がけたアーリークロスがほとんどとなる。背番号11が驚異の高さとパワーを持っているので、そうしたシンプルな形からでもビッグチャンスは生まれているのだが、問題だったのはあまりにそこに頼り過ぎていたこと。インテルに守りの形を定めさせてしまった。事実、クロス本数はインテルの14本に対し、ミランは36本となっている。
ミランは何かを変える必要がある
完敗したアタランタ戦やスペツィア戦、そしてELのリール戦に共通しているのは、相手のハイプレスに飲み込まれカウンターをことごとく浴びたという点だ。今回のインテル戦はハイプレスに苦労したわけではないが、奪われてからのカウンターで後手を踏んだという意味では上記の3試合と共通している。
ビルドアップ時に相手の守備に苦労すると最後まで解決策を見つけ出せない。最近のミランの課題である。イブラヒモビッチへ放り込み、そこで何かが起きて得点に結びつくことはあっても、ハイプレスを脱する、あるいはブロックを壊すその他のパターンは極端に少ない。だから手詰まりになりやすく、カウンターを浴びると脆い。インテル戦でもそれは明らかとなった。
ミランは何かを変える必要がある。これまで4-2-3-1システムを崩さずやって来たが、このままではズルズルと落ちていく可能性は否めない。
過密日程の中で新しいことを試す時間がないことは重々承知しているが、たとえばT・エルナンデスの攻撃力と守備のバランスを考えると3バックシステムを採用し、彼をウイングバックに置くこともありだ。CB3枚を使わなければならない点でリスクは大きいが、毎試合でなくとも、そうしたもう一つのオプションを持っておくことは決して悪くないだろう。
ミランはレッドスター・ベオグラードとのELを終えた後、リーグ戦で3位のローマと対戦する。ここで勝つか負けるかで、今後の運命は大きく変わりそうだ。
(文:小澤祐作)
【了】