前節とは違う勝ち点1の重み
ボローニャは前節のベネベント戦に続き、またもドローで試合を終えることになった。しかし、勝ち点1の重みは、1週間前のゲームとは大きく異なる。
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ポジショナルプレーを基本とした攻撃サッカーを掲げるサッスオーロ相手に、ボローニャはいつも通り4-2-3-1で挑んでいる。守備時はトップ下ロベルト・ソリアーノを一列前に上げた4-4-2に変化し、ツートップを相手センターバックの前に立たせることでビルドアップを阻止。そのCBから縦、あるいは横にパスが出れば、一気に全体がギアを上げてボールホルダーを捕まえに行った。
そのボローニャは17分、守備が機能し先制点を奪う。フランチェスコ・マニャネッリのバックパスが弱くなったのを見逃さず、最後は敵陣深くでボールを持ったムサ・バロウの折り返しをソリアーノが押し込んでいる。
リードを奪ったボローニャはその後も支配率を高めようとするサッスオーロに対し引けを取ることなく、良い流れを掴んでいた。しかし30分、メルト・ミュルドゥルに対しタックルを行ったアーロン・ヒッキーがまさかの一発退場。ボローニャは残り約60分を10人で戦わなければならなくなった。
ちなみに試合後、シニシャ・ミハイロビッチ監督はヒッキーの退場に対しもちろん不満を抱いていたが、実は敵将ロベルト・デ・ゼルビ監督も「私の見解ではレッドカードではなかった」と話している。デ・ゼルビ監督は続けて「私たちに有利な時も不利な時も、私は常に正直だ」というコメントも残していた。
いずれにしても、この退場により試合は一方的な展開となった。4-4-1で守るボローニャに対し、サッスオーロは雪崩のように攻め込む。もはや戦術云々は関係なく、サッスオーロが崩し切れるか、ボローニャが守り切れるかという単純明快な展開となっていた。
軍配はボローニャに上がったとみていいだろう。52分に不運な形でフランチェスコ・カプートにゴールネットを揺らされたものの、その後はGKウカシュ・スコルプスキのファインセーブなどもあり粘り強さを発揮。被シュート数は30本にも上ったが、失点数を「1」に抑えることができた。
「11対11では違う試合になっていただろうし、それならばどうやって終わっていたかわからないよ」。
試合後のミハイロビッチ監督のコメントだ。確かに前半の流れを見ても、ヒッキーの退場がなければあと2ポイントを積み重ねていても不思議ではなかったように感じる。大満足の結果とは言えないだろう。ただ、シュート30本を浴びながら勝ち点1を奪えたことは、次節以降の自信に繋がっていくかもしれない。
多くのタスクを果たした冨安健洋
イタリアの地で評価を高め続けている冨安健洋は、サッスオーロ戦でもスタメン入り、そしてまたもフル出場を果たしている。セリエA開幕から第23節まで、すべてのゲームでフル出場を記録しているのは、チーム内で冨安ただ一人だ。
14番を背負う日本人DFは右サイドバックでスタート。開始わずか1分には緩急を巧みに使って対峙したロジェリオを抜き去り、精度の高いクロスを放り込むなど、さっそく攻撃面で存在感を示していた。
守備時は主にセルビア代表MFフィリップ・ジュリチッチと対峙。鋭いドリブルを武器に持つ厄介な選手だったが、冨安は後手に回ることがなかった。
左サイドバックのヒッキーが退場した後、ミハイロビッチ監督はマティアス・スバンベリを下げロレンツォ・デ・シルヴェストリをピッチに送り込んだため、冨安は左サイドへとポジションを移している。
冨安がボローニャにおいて左SBで起用されたのはこれまでわずか2回(先発)。決して慣れているポジションとは言い難かったが、それでも同選手はさすがの適応力を示している。サッスオーロのエースであるドメニコ・ベラルディ、高い位置を取る長身SBミュルドゥル、途中から出てきたスピードも技術もあるイェレミー・トリャンと曲者たちとのマッチアップを強いられたが、一列前のニコラ・サンソーネとうまくマークを交換しながら、左サイドに蓋をしていた。
冨安は後半に一度だけハメド・ジュニオール・トラオレにドリブルで突破されることがあったが、その他の場面で崩れる気配はほとんどなかった。ペナルティーエリア内での対応は問題なく、マークの緩みもなく、利き足ではない左足でのボール扱いでも不安を感じさせていない。
右サイドで先発し、途中から左サイドへ移動。サッスオーロに押し込まれる時間が続き、ベラルディ、ミュルドゥル、トリャンら簡単ではない相手とのマッチアップ…。冨安はまさに“重労働”を強いられたが、その中で崩れることがなく、最後まで安定感を維持したことは見事としか言いようがない。これで冨安はまた評価を高めるに違いないだろう。
「冨安にはどんな改善の余地があるか? 彼はもうトップクラブでプレーできる選手か?」という試合後の問いに対し、ミハイロビッチ監督は「個人の話は好きではない。10人対11人で引き分けたのはチーム全体のおかげだ」としながらも「冨安は真面目だ。今はヨーロッパのどのチームでもプレーできるだろう」と日本人DFを賞賛している。
続けて指揮官は「日本人の彼はヨーロッパ人のような「賢さ」がないので、まだまだ改善していく必要がある。彼は賢くなることに慣れなければいけないが、イタリアですぐに学ぶだろう」とも話している。
ここでいう「賢さ」とは単純なものではなく、ずる賢さだ。危険ではない場所であえてファウルし相手の警戒心を強めたり、ピンチの場面でわざと倒れてファウルを貰いマイボールへ持ち込む(余談だがミランのテオ・エルナンデスはなかなかうまい)など。確かに日本人選手はそうしたアクションを起こすことが少ないが、欧州トップレベルで生き残るならそれも必要、と言うのがミハイロビッチ監督の考えなのだろう。
とはいえ、単純なディフェンススキルはミハイロビッチ監督も話す通り欧州のどのチームでもプレーできるレベルにあることは確か。冨安には今後、怪我なくシーズンを駆け抜けてほしいところだ。
(文:小澤祐作)
【了】