目次
⚫︎珍しい2試合連続スタメン固定
⚫︎意表を突いた同点ゴール
⚫︎指揮官も絶賛「私が就任して以来最高の状態」
⚫︎小見出し
珍しい2試合連続スタメン固定
ミケル・アルテタ監督率いるアーセナルが公式戦2試合連続で全く同じスターティングメンバー11人を起用するのは、極めて珍しい。
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現地18日に行われたUEFAヨーロッパリーグ(EL)ラウンド32・1stレグのベンフィカ戦では、先週末14日のプレミアリーグ第24節リーズ・ユナイテッド戦と全く同じ11人がメンバーシートに名を連ねた。
6戦全勝で駆け抜けたとはいえ、アーセナルはグループステージは国内リーグで出場機会の少ないメンバー中心で戦っていた。決勝トーナメントに入って主力を惜しみなく使うようになったのは、彼らが欧州のタイトルを本気で狙いにいくという意思表示でもあるだろう。
アルテタ監督が先発メンバーの人選を毎試合変えているのは、負傷やコンディション、対戦相手との相性なども考えてのこと。試合開始からピッチに立つ11人を固定するのには、チーム全体のことを考えると当然リスクもある。
だが、一部をユニット化して固定するのはチームの軸を作るという点で重要な意味を持つ。今のアーセナルにおいては、右サイドが約1ヶ月にわたって固定され、右サイドバックのエクトル・ベジェリンと、右ウィングのブカヨ・サカが好連係を披露している。
特に19歳のユーティリティプレーヤー、サカの充実ぶりには目を見張る。
ベンフィカ戦でもベジェリンとサカは右サイドでコンビを組み、アーセナルが主導権を握るのに一役買った。相手は5-1-2-2の布陣でアーセナルのセンターバックとセントラルMFを使ったビルドアップを阻止しようとしていたが、サカやベジェリンのいるサイドを効果的に使うことでボールを前に運べていた。
19分には攻め上がってきたベジェリンが敵陣ペナルティエリア内深くまで進出し、ゴール前へラストパスを供給する。最高のお膳立てを受けたピエール=エメリク・オーバメヤンは絶好機でシュートをゴールの枠の外に外してしまったが、サイドアタックが有効であることは明白だった。
意表を突いた同点ゴール
劣勢に立たされていたベンフィカは後半開始から、FWルカ・ヴァルトシュミットに代えてMFラファ・シウバを投入。システムも5-1-2-2から5-4-1に変更し、流れを変えようとした。そして55分にピッツィのPKで先制に成功する。
コーナーキックの流れからDFジオゴ・ゴンサウヴェスがクロスを上げると、アーセナルのMFエミル・スミス=ロウがブロックに入った際にハンドを犯してしまい、ベンフィカにPKが与えられた。
先行を許したアーセナルだったが、気落ちすることなく攻めに転じ、すぐ同点に追いつく。失点直後の57分、MFダニ・セバージョスのロングフィードから始まった速攻の最後にサカがゴールネットを揺らした。
セバージョスからのパスを右サイドで受けたサカは、ペナルティエリア内で切り返し、遅れて走り込んできたスミス=ロウにボールを渡す。ここでは一度全力疾走で戻ってきたピッツィにパスカットされてしまうが、クリアボールがベンフィカの選手にあたってこぼれ、オーバメヤンが拾ってポスト役となり、後ろのMFマルティン・ウーデゴーへつなぐ。
2試合連続で先発起用されたノルウェー代表MFは、ワンタッチで左サイドに抜け出した味方へ展開すると、受けたDFセドリックもワンタッチで折り返し、ゴール前にサカが詰めていた。
貴重な同点ゴールを奪った19歳のイングランド代表MFは、誰にも邪魔されることなくシュートを放った。オーバメヤンがウーデゴーに後ろ向きのパスを出し、相手のディフェンスラインが上がった瞬間、マークから外れてフリーになってゴール前に抜け出すアクションを起こしていたのである。ベンフィカの選手たちは全員ボールに意識を向けていて、サカの動き出しを見失っていた。
指揮官も絶賛「私が就任して以来最高の状態」
最終スコアは1-1のドローに終わり、決着は来週25日にギリシャで行われる2ndレグへ持ち越しとなった。サカは試合後、「最悪の結果は避けられたと思う。アウェイゴールも手に入れることができたからね」と『BTスポーツ』によるフラッシュインタビューで悔しさを噛み締めていた。
「僕たちは多くのチャンスを作っていたから、フラストレーションは溜まっている。試合全体を通して僕たちが支配していたと思うし、相手にはラッキーなPKもあった。あれはPKではないと思っている。とにかく失点後に反撃せねばならず、それはうまくいった。同点に追いつくことができたし、勝てるチャンスもあったと思う」
PKの判定には納得がいかず、試合結果そのものにも満足していないが、サカは自身の成長に手応えを感じているようだ。
「毎試合、改善できている感覚がある。僕は進歩し、学ぼうとしているし、多くの素晴らしい助言をくれる監督の言葉にも耳を傾けている。僕の周りには経験豊富な選手がたくさんいて、彼らも多くの場面で助けてくれている。素晴らしいチームや家族のみんなに感謝したいし、このまま進歩し続けたい」
19歳にしてアーセナルの中心を担い、試合を決定づける存在となったサカの才能を、アルテタ監督も手放しで称賛する。ベンフィカ戦後の記者会見で次のように語った。
「ブカヨは素晴らしい瞬間を過ごしていると思う。彼は自身に満ち溢れているし、最近の試合では非常に重要な役割を果たしてきた。彼の状態は私が監督になって以来、最高に達しており、一切ブレがない。現時点でも彼はチームにとって重要な存在なので、これまでやってきたことを今後も続けていく必要がある」
今季のサカはすでに公式戦29試合に出場し、2317分間ピッチに立った。19歳の若者をプレミアリーグやELの過酷な環境に晒し続けることのリスクも指摘されているところだ。毎週2試合のペースで世界屈指の強度でのプレーを要求され、いつか身体が悲鳴を上げるのではないかという懸念もある。
昨季の失敗から学ぶべし
アルテタ監督も「我々はブカヨを守る必要がある」と認めている。そして「私は彼の成長を止めるつもりはない。我々は彼をサポートし、常に最善の助言を与え、高いレベルを維持できるように出場時間を管理していく必要がある」とも述べた。
「彼は相手にとって本物の脅威であり、常に多くのゴールに関与している。パフォーマンスの一貫性によって先発メンバーに選ばれているのは間違いなく、現時点では出場時間の管理が難しくなっている。今はいいバランスかもしれないが、同時に19歳の彼を守らなくてはいけないのも確かだ」
右サイドで良好な関係を築くベジェリンも、先月26日のサウサンプトン戦後に「ブカヨは素晴らしい。まだ若く、学びたいという意欲がある。にもかかわらず、すでにいいパフォーマンスを見せていて、それを維持したいとも考えている」とサカの向上心を絶賛していた。
「僕たちは右サイドで一緒にプレーするとき、ずっとコミュニケーションを取り続けている。彼はしっかりと耳を傾け、100%の全力でチームを助けたがっている。これは最も重要なことだ」
いまやベジェリンとサカで形成する右サイドはアーセナルの生命線になりつつある。週末にはイングランドに戻ってマンチェスター・シティとの大一番が控え、それが終わればギリシャに飛んで再びベンフィカと雌雄を決することになる。重要な試合が続くため、サカを「19歳だから」という理由で休ませているわけにはいかない。
アカデミー出身のサカは、19歳にしてトップチームのキープレーヤーになった。すでに中心選手としての自覚も芽生えている。昨季はELのラウンド32で、1stレグを1-0で制したにも関わらず、延長戦までもつれた2ndレグを1-2で落として敗退。同じことを繰り返してはならないと、サカはベンフィカとの1stレグを終えて肝に銘じていた。
「(昨季の失敗から学ばねばならないのは)試合の主導権を握るということだ。昨季はオリンピアコスにお粗末なゴールを許し、愚かな形でコーナーキックを与え、そのコーナーキックからもゴールを決められてしまった。試合の主導権を握り、間違いを犯してはならない。もし相手にアウェイゴールを与えてしまったら、僕たちにとって状況は極めて難しくなってしまうからね」
ここから先は真の意味でトップレベルを戦い抜けるかが試される、アーセナルにとってもサカにとっても重要な1週間になるだろう。乗り越えた先には、これまで以上に大きな成長をつかめるはずだ。
(文:舩木渉)
【了】