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試合はすぐに動いた
「明日はポルトの特徴であるキャラクターや勇気を示さなければならない」
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現地16日に行われた記者会見のなかで、ポルトに所属するメキシコ代表MFヘスス・コロナは力強く自分たちのあり方について説いた。そして、翌日に迎えたUEFAチャンピオンズリーグの決勝トーナメント1回戦1stレグ、ユベントス戦で見事に言葉通りのパフォーマンスを披露した。
試合開始から1分、ポルトは最高の形で先制点を奪った。相手がGKまでボールを下げ、攻撃を組み立て直そうとしたところで生じたわずかな隙を見逃さず、イラン代表FWメフディ・タレミがゴールネットを揺らした。
ユベントスのGKヴォイチェフ・シュチェスニーがペナルティエリア内で味方とパス交換を試みると、MFロドリゴ・ベンタンクールの緩いバックパスにタレミが反応。受け手となるシュチェスニーにプレッシャーをかけ、滑り込むような形で先にボールに触ってゴールに押し込んだ。
ベンタンクールも近距離のリターンパスで気を抜いていたのか、タレミがすぐ近くで虎視眈々とボール奪取を狙っていたのを見逃していたのかもしれない。この先制点により、ポルトにとっては理想的な展開になった。
1点リードしたホームチームは極めてコンパクトな4-4-2の守備ブロックを形成し、中央をきっちりと固めた。反撃の機会をうかがうユベントスも、横30m×縦20mほどに10人が等間隔で並ぶ相手の陣形を崩せない。ほとんど危険なスペースに縦パスを入れられず、両サイドにボールを出し入れするしかない時間が続いた。
おそらくハーフタイムが明けるとともに何らかの策を打ち、流れを変えたかったのだろう。ところが後半の立ち上がりに再びポルトが牙を剥く。
後半開始直後にも…
後半開始のキックオフが鳴ると、ポルトは敵陣深くにロングボールを蹴って、クリアのこぼれ球を回収。ユベントスの陣形が整う前に仕掛け、細かい連係で右サイドを攻略。右サイドバックのDFウィルソン・マナーファがMFセルジオ・オリヴェイラやコロナとのパス交換でペナルティエリア右脇に抜け出し、マイナス方向へ折り返すと、最後は相手ディフェンスの隙間を縫って顔を出したFWムサ・マレガがゴールネットにシュートを流し込んだ。
仕切り直しの後半が始まってわずか18秒で、ポルトが追加点を奪ったのである。2得点はいずれも前半開始1分(公式記録では2分)と後半開始直後の18秒(公式記録では46分)という電光石火の早業だった。
ユベントスは当然猛反撃に出るが、82分にFWフェデリコ・キエーザが1点を返すにとどまった。1stレグはホームで戦ったポルトが2-1で制した。
会心の勝利を収めた後、セルジオ・コンセイソン監督は手放しで選手たちのパフォーマンスを称えた。
「立ち上がりがうまくいったのは偶然ではなかった。相手に強くプレッシャーをかけるのは、もともと我々の狙っていたことだ。ゴールキックなどでボールが止まったら、相手にプレッシャーをかけるのは簡単になる。選手たちは試合が始まった時点で、我々が望んでいたことを完璧に理解していた。
1-0になってからは、低い位置でも高い位置でも守備ブロックが常に整理されていた。相手がアドリアン・ラビオを使ってリズムを作ることもわかっていたので、サイドに追い込んで封じることもできていた。選手たちは素晴らしいパフォーマンスを見せ、ゲームプランを最善のやり方で表現してくれた。彼らはこの勝利において、偉大な労働者だった」
徹底的に中央からの侵攻を阻止し、ユベントスのキープレーヤーをサイドに追いやることがポルトの守備の狙いだった。ラビオやFWクリスティアーノ・ロナウドをゴールから遠ざければ、彼らが期待されたほどの仕事を果たすことはできないと踏んでいたのだろう。実際、ピッチ上では想定通りの現象が起こっていた。
徹底されたゲームプラン
ユベントスはボール支配率「68%」と極めて高い数値を叩き出しながら、90分間で放ったシュートは「12本」。枠内シュートは「5本」あったが、キエーザの得点シーンを除き、ポルトのGKアグスティン・マルチェシンの好セーブやDF陣による渾身のブロックに阻まれてしまった。
アンドレア・ピルロ監督は「立ち上がりの1分で失点するというのは奇妙なことだが、守備を徹底する方法を熟知するチームと対峙した選手たちが自信を失うのは自然なことだったと思う」「我々のボールの動きが遅すぎて、ゲームの構造を理解するのに十分なインテリジェンスを持ち合わせていなかった」と悔やんでいた。
一方、ポルトは守備に時間を割いたこともあってシュート「8本」とチャンスの数も少なかったが、プレーが緩慢になりがちな前後半の立ち上がりに攻勢をかけて少ないチャンスを2つのゴールに変換した。効率的に勝利を収めるプランが機能していたと言えよう。
選手個々の献身性や役割分担も徹底されていた。守備時は4-4-2のブロックを敷き、マレガとタレミの2トップが相手センターバックからの組み立てを牽制する。中盤ではセルジオ・オリヴェイラが中央に陣取り、相方のMFマテウス・ウリベが広範囲に動き回って凄まじい勢いのハードタックルでピンチの芽を次々に摘んでいく。両サイドの選手たちは粘り強く目の前の選手についていき、ボールを奪ったらロングボール主体で素早くカウンターに出る。
攻撃に移ると今度は中盤でウリベが中央に鎮座し、セルジオ・オリヴェイラが広範囲に顔を出して味方を積極的にサポート。2トップめがけてロングフィードを蹴り、収まりどころができたら一気にギアを上げて、両サイドバックもどんどん攻め上がっていく。最終ラインも果敢に押し上げて、決して自陣に引きこもるのではなく強気の姿勢を貫いた。
ポルトは「常に最大値を、限界まで」
「ユベントスは70分以降に初めて危険なシュートを放ったのみだ。我々はイタリアの王者であり、世界最高クラスの選手たちを何人か抱える非常に強力なチームについて話している。今日のパフォーマンスは我々の堅実さを示しており、有能で非常に強力な守備組織を持っていることを証明している」
セルジオ・コンセイソン監督はCLグループステージでわずか1失点、ユベントス戦のものも合わせて計2失点しか喫していないポルトの守備陣の堅牢さを誇った。キエーザにゴールを奪われるまで、CLで548分間連続無失点の記録を継続し、クリスティアーノ・ロナウドをも無力化した守備力は伊達ではなかった。
国内リーグでは19試合で21失点なので、CLではもはや別のチームと言っていいほどの姿を見せている。かつてポルトでもプレーしたユベントスのDFアレックス・サンドロが「ポルトはいつも、ホームで強豪相手に素晴らしいパフォーマンスを見せる」と語っていたのは、あながち間違いではないのかもしれない。グループステージではマンチェスター・シティと2度対戦し、アウェイゲームは1-3で落としたものの、ホームでは0-0と善戦していた。
選手たちもユベントスを打ち破って自信を深めている。セルジオ・オリヴェイラが「完璧な試合をした」と振り返れば、ウリベは「無失点で終えたかったが、ユベントスのような相手との試合でミスは許されない。いい経験になった。自分たちが果たした仕事に誇りを持っている。守備的によく組織され、全員がやるべきことをやった。やらなければならなかった。これは重要な一歩だが、僕たちはまだ何も成し遂げていない」と勝利を喜びつつ、次戦以降に向けて気を引き締めていた。
セルジオ・コンセイソン監督が植え付けた勝利への執着心や犠牲心、組織力を担保する規律、強豪相手にも怯まない精神性、徹底した準備など全てが実った勝利だった。ユベントスの選手たちの脳裏には、獣のような眼でボールに食らいつき、一糸乱れぬ動きでゴール前に立ちはだかるポルトの選手たちの狂気的な姿が焼きついているに違いない。
準々決勝進出をかけたユベントスとの2ndレグは、来月9日に予定されている。ポルトの指揮官は「トリノでの試合は非常に難しいものになるだろう。だからこそ、我々は今日のような態度と精神を持ち続ける必要がある。ポルトのような歴史を持つチームはいつだって、試合や対戦相手によって行動を変えることはない。常に最大値を、限界まで出し切らなければならない」と言葉に力を込めた。
ユベントスもポルトも2ndレグまでに国内で3試合をこなして、2週間後の一戦に臨む。逆転突破を目論むアンドレア・ピルロ監督がどのような打開策を準備してくるかにも注目したい。
(文:舩木渉)
【了】