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セリエA 4年前

ACミランはこの男の”降臨”で復活。イブラヒモビッチ加入で生まれた異例の方針とは?【ACミランの黄金期(終)】

ACミランが今季は好調だ。120年以上の歴史を持ち、18度のセリエA優勝と7度の欧州制覇を誇るミランには、隆盛を極めた時代が何度もあった。ミランの黄金期を時代ごとに紹介する本連載の第7回(最終回)は、ズラタン・イブラヒモビッチの加入により劇的に生まれ変わった現在のACミランを描く。(文:西部謙司)

シリーズ:ACミランの黄金期 text by 西部謙司 photo by Getty Images

長い低迷と米国のオーナー

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【写真:Getty Images】

 2010/11シーズンのセリエA優勝を最後に、ACミランにはタイトルがない。9シーズン無冠、これだけ長い低迷は2部へ降格した1979/80シーズンからの8シーズン以来である。80年代初期の八百長事件をきっかけとする低迷からクラブを救ったのは、シルビオ・ベルルスコーニ会長だった。しかし、現在のオーナーは米国ヘッジファンドのエリオット・マネジメントだ。サッカーに興味があるかどうかもよくわからない。

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 昨季、レオナルドに代わってズボニミール・ボバンがチーフ・フットボール・オフィサー(CFO)に就任したが、20年3月には解任してしまっている。経営陣とOB幹部の意見が合わなかったという。マルコ・ジャンパオロ監督は7試合で解任され、ステファノ・ピオーリ監督に交代したが、その後も12位と上昇の兆しは見られなかった。

 冬の移籍市場でズラタン・イブラヒモビッチを獲得したが、すでに38歳で米国のLAギャラクシーでプレーしていた“元スーパースター”に過剰な期待をかけるのは無理と思われた。ところが、イブラヒモビッチは状況を一変させる。

 新型コロナウイルス感染拡大のため、3~5月はリーグが中断された。この間にボバンCFOが辞任しているのだが、フロントのゴタゴタとは裏腹にチームは再開後に猛烈な追い込みをかけて6位まで浮上してシーズンを終えた。

 今季も序盤から好調、第21節時点では首位に立っている。イブラヒモビッチ効果は絶大だった。

絶大だったイブラヒモビッチ効果

 1人の選手がチームを一変させること自体は珍しくない。かつてのSSCナポリにおけるディエゴ・マラドーナが典型だが、スーパースターの技量と個性が絶大な影響を与えるのはサッカーではよく起こる。しかし、とうにピークを過ぎたと思われる年齢の選手がここまで劇的な変化をもたらした例は珍しい。

 さすがに運動量は落ちているが、ペナルティーエリアに入ればイブラヒモビッチは依然として超一流であることを証明した。空中戦は無双、ヘディングの強さだけでなく胸や肩でのコントロールも素晴らしく、とりあえずイブラヒモビッチのいる場所にボールを上げておけばチャンスにはなる。空中にあるボールの処理能力とアイデアは抜群で、いわばエア・アーティストだ。

 当然のごとくチームはイブラヒモビッチを中心に組み替えられた。スタイルとしては旧式の4-2-3-1で、イブラヒモビッチの守備負担軽減と彼をボックス内で勝負させることははっきりしている。

 トップ下にハカン・チャルハノールを置き、こちらもやや旧態依然とした10番として振る舞う。サイドにドリブル突破のできるアンテ・レビッチ、ラファエル・レオン、運動量豊富なアレクシス・サレマーカーズで側面攻撃とクロスボールまでの形を作る。

 GKジャンルイジ・ドンナルンマの好守、シモン・ケアーを中心とした堅固な守備。フランク・ケシエとイスマエル・ベナセルのボランチが攻守をつなぐ。戦術的な新しさは何もないが、イブラヒモビッチという絶対的な軸ができたことで個々の役割が明確になり、チームが1つになって戦えるようになった。

例外的な方針で自信を取り戻したミラン

 あまりにもイブラヒモビッチありきの編成には不安要素もある。絶対エース前提の戦術と構成なので、エースを欠いたときには羅針盤を失ってしまうのだ。実際、序盤にはイブラヒモビッチの戦線離脱があり、年齢だけでなくセリエAのバトルの厳しさから負傷リスクもある。

 冬の移籍市場で無所属だったマリオ・マンジュキッチを獲得したのは、イブラヒモビッチのバックアップだろう。タイプとして似ているのだ。

 一時はラルフ・ラングニックの招聘が噂されていた。もしラングニックが来ていたら、ミランの戦術は一新されていたはずだ。全員守備と運動量を要求するラングニックとイブラヒモビッチの共存も困難だっただろう。ネレオ・ロッコやアリゴ・サッキなど、戦術革新の先頭に立ってきたミランだが、イブラヒモビッチという個を押し立てていく方針はクラブの歴史では例外的なケースといえる。

 イブラヒモビッチ降臨で復活したミランではあるが、さすがにいつまでも頼ることはできない。イブラヒモビッチ後のミランがどうなるのかは見えていない。ただ、イタリアの名門が自信とプライドを取り戻したのは確かである。

(文:西部謙司)

【了】

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