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藤本寛也、ポルトガルで初ゴール
待ち望み続けた瞬間がようやく訪れた。
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現地9日に行われたポルトガル1部リーグ第18節のスポルティングCP戦の36分、ジル・ヴィセンテに所属する日本人MF藤本寛也が加入後初ゴールを挙げた。
自陣からの早い展開で左サイドを攻略したジル・ヴィセンテは、やや強引な突破でペナルティエリア内に侵入したFWイヴィス・ブライエがシュートを放つ。しかし、これは相手DFにブロックされてしまい、ボールは一度ペナルティエリアの外へ。
それでもこぼれ球をジル・ヴィセンテのMFクロード・ゴンサウヴェスが抑え、顔を上げる。すると逆サイドでボールを呼び込んだ藤本を見つけ、素早く正確なロングパスを供給。相手ディフェンスの背後をとってゴール前に抜け出した21歳の日本人MFは、滑り込みながら左足でシュートを押し込んだ。
リーグ戦11試合目の出場で、待ちに待った初ゴール。しかも、首位のスポルティングCP相手に流れの中から先制点を奪って見せた。チームは1-2で逆転負けすることになるとはいえ、最近になって徐々に出場機会を増やしつつある藤本にとって、これ以上ない最高のアピールとなったに違いない。
まず、今季のスポルティングCPからゴールを挙げられたこと自体に重要な価値がある。前節終了時点でリーグ戦14勝3分、無敗で2位に6ポイント差をつけて首位に立ち、17試合でわずか9失点という堅守を誇るチームからの先制点である。藤本のゴールが今季10失点目だった。
公式戦全体で見ても今季は2敗しかせず、5連勝中だったスポルティングCPも藤本のゴールで冷や汗をかいたことだろう。80分過ぎまでリードされたままの状態が続き、83分と後半アディショナルタイムの91分にセバスティアン・コアテスがゴールネットを揺らせていなかったら今季のリーグ戦で初めて敗れた試合になっていてもおかしくなかった。
忍者のようなシュートまでの動き出し
藤本のシュートに至るまでの動きも秀逸だった。
5-2-3の右ウィングに入っていた藤本は、ブライエらが左サイドの攻略を試みる間に右から中央へ絞り、ペナルティエリア手前にポジションを取っていた。マイナス方向への折り返しや、相手ディフェンスに当たってこぼれてくるボールを狙っていたのだろう。
ところがブライエのシュートは至近距離で相手DFに強く当たり、左サイドの方向へ跳ね返っていった。その瞬間、スポルティングCPの選手たちがディフェンスラインを上げたが、微妙なズレがあったのを見逃さなかった。藤本はすぐに動きを切り替え、一度後ろにステップを踏んでから、DFたちの意識がボールに向いたのを逆手にとってディフェンスの裏へ走り出す。
右サイドの方へふくらむような動きを入れ、藤本は相手のディフェンスラインで最も外側にいた選手の背後を取った。一瞬で視野の外へ消える、忍者のような日本人MFの動きを見失った選手(左ウィングバックのアントゥネス)は全くついていけず。クロード・ゴンサウヴェスがディフェンスラインの裏に放り込んだロングボールに反応できるスポルティングCPの選手はGKの他に誰もいなかった。
味方以外全員の裏をかいた藤本は、滑り込みながらのシュートでGKとの1対1も制してのゴールを決めた。相手の動きをよく見極めた上で、堅守を誇るスポルティングCPの守備陣を全員手玉にとり、1人で崩した完璧なゴールだった。
得点場面以外でもチーム内における藤本の存在感は徐々に大きくなってきている。序盤戦は極端に守備的な戦い方のなかで出番を得ても持ち味が消えてしまっていたが、強度の高い試合を経験することで守備における貢献度は飛躍的に高まった。
守備の強度も飛躍的に向上
昨年11月中旬にリカルド・ソアレス監督が就任してからは、1ヶ月ほど全く出番をもらえなくなった。ベンチ入りしながら途中出場のチャンスすら与えられない約1ヶ月半を乗り越えると、年明けから徐々に出場時間が増加。1月下旬から13日間で5試合という過密日程のなか、ボアヴィスタ戦と中3日出迎えたスポルティングCP戦で今季初めて2試合連続の先発というチャンスをもらい、ゴールという結果につなげた。
ボアヴィスタ戦の藤本は交代する75分までほとんどの時間を守備に費やしたが、連続した長短のスプリントやプレッシング、フィジカルコンタクトが求められる状況にも折れることなく戦えることを証明した。
そして普段の4-3-3ではなく5-2-3を採用し、より守備的に戦わねばならなかったスポルティングCP戦でも連続してスタメン起用されたことからは、守備面における信頼度の向上と攻撃面における技術への高い評価がうかがえる。ボールに触れば技術レベルの高さは一目瞭然で、ワンタッチのヒールパスでコースを変えて相手のプレスを無効化したり、またある時は通ればビッグチャンスになるようなスルーパスも積極的に狙ったり。
スポルティングCP戦の25分には敵陣内で相手からボールを奪った味方の動きに反応して猛然と中央を駆け上がり、パスをもらって、GKに横っ飛びでのセービングを強いるミドルシュートも放った。テクニックと強度を融合させたプレーに磨きがかかり、セットプレーのキッカーも任されるなど活躍の幅は確実に広がっている。
ジル・ヴィセンテは戦力的な限界もあって、厳しい戦いを強いられている。直近のリーグ戦6試合でわずか1勝しか挙げられず、その間は1勝5敗。現在18チーム中14位につけていて、1部残留が今季の現実的な目標になりそうだ。
スポルティングCP戦もリカルド・ソアレス監督が「前半は良かったが、後半はフレッシュさがなくなってしまった。13日間で5試合をこなしており、(それによる疲労が)試合の勝敗を決定づける要因だったと思う」と振り返った通り、選手層の薄さを露呈した。
シーズン終盤にかけて1週間に2試合をこなし続けるような過密日程はもうなさそうだが、選手層の薄さは残留争いで致命傷になりかねない。ただ、これまでなかなか戦力になりきれていなかった藤本が攻守両面で戦えることを証明しつつあるのは非常にポジティブな材料だと言える。
今季の優勝候補筆頭から奪った殊勲の1点が、チャンスを欲する藤本にとってさらなる飛躍のきっかけとなることを願いたい。
(文:舩木渉)
【了】