ユベントスの狙い
サッカーの試合で最もボルテージが上がるのは、やはりゴールが生まれた瞬間だ。だからこそ、0-0で90分間が終わるとどこか物足りなさを感じてしまうことも正直ある。しかし、現地9日に行われたコッパ・イタリア準決勝2ndレグ、ユベントス対インテルは、スコアレスドローに終わってもなお、どこか満足感のようなものを得られたような気がしている。
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現地2日に行われた1stレグは、インテルがラウタロ・マルティネスの得点で先制。しかし、その後ディフェンス陣のミスなどもありユベントスに1-2と逆転を許している。そのため、インテルは2ndレグで最低2点は取らなければならない状況。なかなか難易度の高いミッションだった。
反対に、ユベントスは引き分け以上で決勝行きが確定。0-1で敗れたとしても合計スコアで上回るという、かなり優位な立場にあった。
そのユベントスは当然、2ndレグで強引に点を奪いに行く必要はない。そうしたアンドレア・ピルロ監督の考えは、立ち上がりからよく表れていた。
4-4-2で挑んだユベントスだが、ビルドアップ時の形はかなり面白かった。
まず、ロメル・ルカクとL・マルティネスの2トップに対し数的優位を保つため、中盤底のアドリアン・ラビオかロドリゴ・ベンタンクールのどちらかを最終ラインに落としている。そして、ダニーロとアレックス・サンドロの両サイドバックは共に内側に絞る。つまり、両者が偽SBのような動きを取り入れ、3バックの前に3センターが並ぶ形を作り出したのである。
そして、SBが内側に絞ったことで生まれたスペースにフェデリコ・ベルナルデスキとファン・クアドラードの両サイドハーフが下がってボールの逃げ所を作る。こうすることで両SBが相手のインサイドハーフを、両サイドハーフが相手ウイングバックを引き連れるため、最終ラインにプレスをかけられることも少なくなり、瞬間的にインサイドハーフとセンターバックの間、あるいはWBとCBの間も空く。そこへ前線のデヤン・クルゼフスキやクリスティアーノ・ロナウドが入り、ボールを前進させる。37分の場面はその形がしっかりと表れていた。
攻撃の迫力という意味では物足りなかった。結局、ユベントスは数的優位を保てる最終ラインを中心にボールを動かすので、支配率は高いが相手陣内深くに侵入できないという時間帯が続いていた。ただ、ユベントスは1stレグでリードしている。ボールを保持するだけでもとくに問題なかったのだ。
つまりピルロ監督はただ引いてブロックを組むのではなく、ボールを握りながらインテルに反撃のチャンスを与えない選択をしたのである。だからこそ、ビルドアップ時に今までにない形を取り入れたと考えることができる。
コンテの修正力とエリクセンを使ったわけ
ただ、そのユベントスに対してのアントニオ・コンテ監督のアクションも見事だった。前半のうちに解決策を見つけ、相手を押し込むことに成功している。
まず、ユベントスのビルドアップに対し、基本的には人に行くのではなくエリアで守ることを選択している。ビハインドを背負っている状況だが焦ってボールを奪うことはなく、まずはポジショニングを重視して守備時のバランスを整えた。
そして、ユベントスのボールがサイドに流れた瞬間にややプレスの勢いを強める。サイドは中央と比べプレーの選択肢が狭まるので、エラーが起きやすくなるからだ。とくにこの日は左サイドに左利きのベルナルデスキ、右サイドに右利きのクアドラードだったので、縦を切ってしまえば全く問題なかった。
ユベントスのSBが中へ絞り、サイドハーフがそこへ降りる。そうして生まれたスペースへクルゼフスキやC・ロナウドが入るという動きがあると先ほど紹介したが、そのエリアはミラン・シュクリニアルやアレッサンドロ・バストーニが高い位置を取って埋めている。実はユベントスの2トップは中央に留まることが少なかったため(先述した動きが多い)、インテルの3CBが余る場面が増えていた。そのため、コンテ監督は多少のリスクがありながらもシュクリニアルらを高い場所へ置くことを選択したのだ。
ボールを奪ってからは基本的にルカクのポストプレーとアシュラフ・ハキミの走力で深さを作り、ニコロ・バレッラらを押し上げてチャンスを作っている。とくにA・サンドロが内側に絞っている状態でカウンターが発動したとき、ハキミのスピードは大きな脅威となっていた。
また、この日コンテ監督はクリスティアン・エリクセンを先発で起用。1stレグでアンカーのマルセロ・ブロゾビッチをかなり警戒されていたため、技術のあるエリクセンをブロゾビッチの傍に置くことで相手に的を絞らせなかったのである。つまりインテルは、ブロゾビッチ+エリクセンのダブルボランチのような形でビルドアップを図ったということになる。
ユベントスらしさを発揮
しかし、やはり1stレグの結果は大きかった。
とくに後半はインテルがユベントスに対しボールを握り続け、エリクセンやブロゾビッチを中心に組み立てて攻めたが、なかなかGKジャンルイジ・ブッフォンを襲うことができなかった。
ユベントスは先述した通り1stレグでリードしているので、攻めることができなくても問題ない。後半は攻勢を強めるインテルに対し、我慢強く戦うことに重点を置いていた。
マタイス・デ・リフトとメリフ・デミラルの両者はルカクやL・マルティネスに粘り強く対応。シュートに対する反応が素早く、中央に完璧に蓋をしている。そして82分にはクアドラードがベンチへ下がり、ジョルジョ・キエッリーニが登場。4バックから5バックにしたことで、守備の強度はさらに増した。
インテルは後半だけで12本のシュートを放ったが、枠内に飛んだのはわずか2本だけ。4本は枠外、6本はユベントス守備陣のブロックに遭っている。なお、そのうちの5本をブロックしたのはデミラル。これだけでも、いかにユベントスの守備が堅かったかがわかるだろう。
1stレグの結果を受け新たな形でポゼッションを重視し、インテルに対策され攻め込まれたものの粘り強く対応。そして終盤はキエッリーニを投入し試合をしっかりとクローズ。カップ戦だからできたことであるが、思い返せばピルロ監督の試合運びは見事だったと言えるのではないか。実にユベントスらしかった。
ピルロは監督としての経験が浅いが、色々なことを試しているので非常に面白い。今後の采配にも注目だ。
(文:小澤祐作)
【了】