リバプールが狙ったトッテナムの緩さ
プレミアリーグ4試合連続無得点と勝ち点を落とし続け、気づけば4位に後退していたリバプールに、ようやく3ポイントが舞い込んできた。しかも勝利を奪った相手はリーグ戦4試合無敗中だったトッテナムなのだから、これを機に大きく自信を取り戻すことができそうだ。
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このトッテナム戦は立ち上がりから非常に動きのある激しい展開となった。2分にサディオ・マネが決定機を作ると、その1分後にはソン・フンミンにビッグチャンスが訪れている。両者の意気込みを感じるのに、そう多くの時間は必要なかった。
試合の構図がよりハッキリとしてきたのは15分過ぎあたりだろうか。トッテナムは守備時に5バックを敷き、自陣深くに構えリバプールの攻撃に応じる。マイボールへ移行すれば、武器であるカウンターで一気にゴールを狙った。
相手が5バックで守備を固めているので、リバプールは当然ボールを持つ時間が長くなる。とくに中盤の選手は比較的ノープレッシャーでプレーすることができていた。ただ、チアゴ・アルカンタラなどはよくボールに絡んでいたが、大外も中央もしっかりケアするトッテナムを前になかなか効果的なパスを打ち込めず。GKウーゴ・ロリスを働かせるに至らなかった。
しかし、時間が進むにつれリバプールは徹底した狙いを持って攻撃を仕掛けた。
その狙いは、5バックを敷くトッテナムにショートパスではなくロングパスを多く使うこと。つまり、相手最終ラインの背後を徹底的に突いたのである。
そしてこれが思いのほかうまくハマった。トッテナムは後ろに人数こそ集められていたが、集団より個で勝負している印象が強く、ラインの整備は緩かった。事実、リバプールはファイナルサードを狙ったロングパスを前半だけで12本(後半は7本に減)出しているのだが、トッテナムはオフサイドを一つも取ることができていないというデータが出ている。これはかなり問題だった。
リバプールは前半アディショナルタイムに先制するのだが、ここでもトッテナムの脆さが浮き彫りに。パスを引き出そうと動き出したマネをセルジュ・オーリエは全く見ることができておらず、エリック・ダイアーが低めの位置に残ってしまったことでオフサイドも取れなかった。そして最後は、抜け出したマネの折り返しをロベルト・フィルミーノが押し込んでいる。裏を狙い続けたリバプールに軍配が上がった瞬間だった。
ソン・フンミンの怖さが消えた
ただ、1点を奪ったとはいえ、やはりトッテナムは侮れない相手だった。実際、前半の戦いは互角。ハリー・ケインとソン・フンミンのコンビは相変わらず脅威で、タンギ・エンドンベレの推進力やピエール=エミル・ホイビュルクのボール奪取後の展開力にリバプールが手を焼いていたことは確かだった。
後半早々、リバプールはトレント・アレクサンダー=アーノルドが得点を決めリードを広げたのだが、その2分後にホイビュルクに芸術的なミドルシュートを叩き込まれている。スコアは1-2。ここまでは全くわからなかった。
しかしその後、互角だった内容は一気に崩れた。優勢だったのはアウェイのリバプールだ。
トッテナムが勢いを失った原因は二つある。まず一つは大エースであるケインの負傷離脱。そして二つ目はジョゼ・モウリーニョ監督の交代策だ。
前半途中に足を痛めたケインは45分間プレーしきったのだが、後半に姿を現すことはなかった。そしてモウリーニョ監督は代わりにエリック・ラメラを投入。システムを3-4-3から4-2-3-1へと変更し、ラメラを右に、そしてソン・フンミンを1トップに置いたのである。
これにより、ソン・フンミンの良さは消えてしまった。同選手の武器は走力を生かした裏への抜け出しで、ご存じの通りとくにケインからボールを引き出すことが多いのだが、リバプール戦の後半はその動きを生かせる存在がいなくなってしまったのだ。それに1トップに入ったことで、逆にソン・フンミンがそれまでのケインの役割を担うような形も増えてしまった。韓国代表FWの力を引き出すならばカルロス・ヴィニシウス投入で最前線に張らせても良かった気はしなくもないが、いずれにしてもこれでトッテナムの攻撃力は半減した。
そして中盤でも軽率なエラーが頻発。外のスペースをケアしながらプレスするリバプールに対し中央が窮屈となり、それでも強引に繋ごうとしたことでボールを失う回数が増えてしまった。とくに途中出場のハリー・ウィンクスはパスミスが目立ち、リバプールにカウンターを与えることもあった。
一方、ケイン離脱で機能不全となったトッテナムをリバプールは見逃さず、65分に3点目を奪取。アレクサンダー=アーノルドの見事なクロスが相手のミスを招き、最後はマネが大仕事をやってのけた。
結局トッテナムは後半シュートわずか1本(ホイビュルクの得点)のみという散々な結果に。ケインの存在感の大きさを改めて感じることになった。
それに対しリバプールは後半だけで7本のフィニッシュを浴びせ2点を奪取。互角だった前半から一転、後半は相手の減速を見逃さず力の差を見せつけた。
リバプールの問題は終わらない
第14節クリスタル・パレス戦以来、実にリーグ戦6試合ぶりの勝利を手にしたリバプール。試合後のユルゲン・クロップ監督は「素晴らしい試合だった」とチームを称賛している。冒頭でも記した通り、ここから自信を取り戻し、再びギアを上げていく可能性は高いと言えるだろう。
ただ、トッテナム戦勝利に払った代償は決して小さくなかった。
この試合で先発したジョエル・マティプは前半のみで交代。試合後のクロップ監督によると元カメルーン代表DFは靭帯を損傷したようで、離脱期間こそ明らかとなっていないが、間違いなくすぐに戦列復帰することは難しいだろう。
第5節のエバートン戦で負傷したフィルジル・ファン・ダイクは順調に回復しているようだが、それでも復帰は春頃になる予定。イングランド代表のトレーニング中に怪我したジョー・ゴメスも3月~4月頃の復帰が濃厚とされている。
また、ファン・ダイクやゴメスの代役をハイレベルに務めていたファビーニョも筋肉系のトラブルによりトッテナム戦を欠場。そのため、現状リバプールでセンターバックを担うことができるのは本職MFのジョーダン・ヘンダーソン、そして経験値が決して多くないナサニエル・フィリップスやリース・ウィリアムズ、ゼップ・ファン・デン・ベルフやビリー・クメティオらになる。今後、よりハイレベルなチャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメントも始まる中、このスカッドではいくらなんでも厳しいものがある。
トッテナム戦後、クロップ監督は緊急にCBを補強する可能性を示唆している。ただ難しいのは冬の移籍市場は2月1日までということ。これから選手をチョイス、そして交渉という流れを考えても時間は明らかに足りない。それに、フリーで獲得できる優秀なCBも決して多くはない(現時点で最も市場価値の高いCBは34歳のエセキエル・ガライ)。
故障者が多いのはリバプールにとって恒例のようなもの。ただ、今季に関しては日程面を考えてもいつも以上に厳しい状況に追い込まれている。今後の動向に注目したいところだ。
(文:小澤祐作)
【了】