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監督交代ブーストは本物か
昨年12月上旬に監督交代を行なったシント=トロイデンVVは、ピーター・マース監督就任以降の7試合で5勝2分と復調傾向にあった。
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しかし、前節のロイヤル・エクセル・ムスクロン戦に0-2で敗れると、現地27日に行われたベルギー1部リーグ第22節のヘント戦も1-1のドロー。2試合連続で勝利から見放され、新体制は足踏みを強いられている。
とはいえネガティヴなことばかりではない。確かにヘント戦では後半ラストプレーとなったフリーキックから痛恨の失点を喫し、勝利の一歩手前で手のひらから勝ち点3がこぼれていく形となったが、23分にMFファクンド・コリディオが先制点を挙げてから終盤までリードした状態を保ち、アウェイ4連勝が目の前に迫っていた。
前任のケビン・マスカット監督時代から大きく変わったのは、守備の安定感だ。解任までの14試合で3失点以上したのが5試合もあり、そのなかには6失点して敗れたベースルホット戦も含まれている。暫定監督が指揮した試合も含め、15試合でわずか2勝しか挙げられていなかったチームは5バックで自陣にブロックを作ることによって守備力アップを図った。
冬の新戦力たちも重要な役割を果たしている。ベルギー2部のウェステルローから加入したベテランの攻撃的MFクリスティアン・ブルースはチャンスメイクの面で力を発揮。同1部のコルトライクで8得点を挙げていたFWイロンベ・ムボヨも加わり、攻撃にアクセントを加えている。
マース監督が就任してからは主に5-3-2、あるいは5-2-3の形でしっかりとブロックを作って構え、ボールを奪ったら手数をかけずに攻め切る戦い方で勝ち点を稼いできている。
GKシュミット・ダニエルは現地20日に行われたコルトレイク戦後のインタビューで「チーム全体でちゃんとブロックを組んで、前から行きすぎずに、ちゃんと陣形を整えて、フィールドをコンパクトにして、相手が(ブロックの間に)入れてきたボールを狙っていくスタイル。そういう部分が前の監督とは変わったところかなと思います」と新監督の戦術について語っていた。
「チーム内に規律が生まれて、みんなの共通理解がすごく良く深まっているのは、(好調の)1つの要因なんじゃないかと思います。あとは全員が球離れを早くして、シンプルにプレーすることを心がけていて、どこを狙うかも毎試合ハッキリしているので、そういうのをちゃんと明確にしているのが、いい試合ができている理由かなと思います」
鈴木優磨がゴールを量産できる理由
マース監督が仕込んだ「全員が球離れを早くして、シンプルにプレーする」戦術において重要な役割を果たすのが、日本人FW鈴木優磨と新戦力のベテランFWムボヨだ。
特に鈴木は新体制になってから得点のペースを爆上げしている。マスカット監督のもとでは5得点にとどまっていたが、マース監督就任後に2試合連続の2得点などもあってゴールを量産。すでにリーグ戦二桁得点を達成し、12得点まで記録を伸ばしている。
これだけゴールが増えたのは、ムボヨのおかげでもあるだろう。以前は後方からのロングボールを受けて相手と競り合い、ポストプレーで味方につなげたり、ファウルでセットプレーを獲得したりする役割を全て鈴木が担っていた。
だが、機動力に優れ、恵まれた体格も備えるムボヨもターゲットマンになることでタスクが2人に分散。相棒に競り合いや起点作りを任せ、鈴木はゴール前でフィニッシュに集中しやすい環境ができた。もちろん2人の役割が逆になることもあるが、チームとしても前線のターゲットが2つになることによって、より高い確率でボールをゴール前まで運ぶことができるようになった。
シュミットも「頼れるエースという感じで、これだけ毎試合ゴールを決められるストライカーは、あまり僕は同じチームにいたことがないので、すごく頼りになります」と鈴木への信頼を口にする。
さらに鈴木は「ムボヨさんは素晴らしい選手で、本当に(周りがよく)見えているし、スマートだし、考えが大人だし、チームのためにベストな判断を下せる選手で、キープもうまいし、僕ももっともっと見習わなければいけないところがあるなと感じるストライカーです」と新たな相棒に心酔していることを、コルトレイク戦後のインタビューで明かしていた。
鈴木がエースに君臨する一方で、立場が厳しくなったのは伊藤達哉と中村敬斗の2人だ。地道かつ確実に勝ち点を積み重ねていくための現実的な戦術を採用していることもあって、前線に割く人数が少なく、求められるプレーの質もフィジカル重視になりつつある。そうなるとテクニックやスピードが武器の伊藤や中村は活躍の場が限られてしまう。
GKではシュミットがレギュラーポジションを確保し、毎試合のようにスーパーセーブを複数回見せてチームを救っている。しかし、ディフェンスラインでは松原后も出番の確保に苦しんでいる。5バックは守備重視の傾向が強く、両サイドバックにも自陣の低い位置で粘り強く戦える選手が起用されている。
左サイドバックで主力に定着したニュージーランド代表のDFリベラート・カカーチェは運動能力が高く、ロングスプリントを繰り返すのも苦にしない。体幹が強くアジリティや加速にも優れるため、守る時間が長くなりがちで、攻撃に出る際は爆発力が求められる5バックにはうってつけの人材だ。松原よりも4歳若いという点で将来性も大きい。
橋岡大樹にチャンスはあるのか?
しかし、センターバックと右サイドバックにはポジション争いの余地があるかもしれない。浦和レッズからシント=トロイデンVVへの移籍が噂されるU-24日本代表DF橋岡大樹にとっては、欧州で飛躍する大きなチャンスだ。
2018年夏からシント=トロイデンVVのディフェンスラインを支え、今季もリーグ戦16試合に出場していたスペイン人DFポル・ガルシアが、まもなくメキシコのFCフアレスへ移籍する見込みとなっている。バルセロナ育ちのセンターバックが抜けることで、新体制になってから右サイド起用が多くなっていたDFマキシミリアーノ・カウフリーズが本職のセンターバックに戻ることも考えられる。
イブラヒマ・サンコーンやウォルケ・ヤンセンス、サミー・ムマエなどライバルは多いが、橋岡にも入り込む余地はあるはず。右サイドバックとセンターバックのポジション争いには注目していきたいところだ。
マース監督の指導によって徐々に勝てるチームへと変貌する過程で、シント=トロイデンVVはチームの骨格も固まりつつある。
12得点を挙げているエースの鈴木や、新体制発足後全試合に出場しているGKのシュミットは筆頭格。DFジョルジュ・テイシェイラやカカーチェ、MFクリス・ダーキン、MFスティーブ・デ・リダー、ブルース、ムボヨも指揮官からの信頼を勝ち取っている。
レギュラー陣の固定が進むなかで伊藤や松原、中村はどう巻き返していくか。そして仮に移籍が実現したら、橋岡にもチャンスはあるのかどうか。シント=トロイデンVVの今後の戦いぶりとともに、日本人選手たちのさらなる活躍を楽しみにしたい。
(文:舩木渉)
【了】