まさに完敗
ミランにとって、アタランタはなかなか乗り越えられない壁の一つとなっている。
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セリエAで最後に勝利したのは2019年2月のゲームであるが、それも実に2015年5月以来のことだった。そしてサン・シーロでのゲームに絞れば、ミランはアタランタに2014年以来一度も勝てていない。2019年12月にはアウェイであったものの、0-5という歴史的大敗を喫している。
ご存じの通り、ここ最近のミランは絶好調だ。第18節終了時点で黒星を喫したのはユベントス戦(1-3)の一度だけ。第4節終了後に初めて首位に立って以降、2位以下へ順位を落とすことなくここまで駆け抜けてきた。
しかし、そのようなチーム状況にあってもなお、アタランタという高い壁を乗り越えることができなかった。現地23日、ミランはホームにベルガモの雄を迎えたが、成す術なく0-3の大敗を喫している。
ミランは立ち上がりこそまずまずといった内容だったが、徐々にアタランタペースに引きずり込まれ苦戦。そして26分にクリスティアン・ロメロにゴールを献上するなど、流れを引き戻せぬままリードを奪われてしまった。
後半に入ってもアタランタの勢いは落ちず、ミランは53分にPKを献上し2失点目。選出交代などによりペースを奪いつつあった77分にも失点を喫し、一矢報いることもできず試合終了のホイッスルを迎えたのだ。
データサイト『Who Scored』によるスタッツでは、ミランは支配率でこそ相手を上回ったものの、シュート数で14本対18本と劣った。とくに差が出たのは枠内シュートの数で、アタランタの7本に対しミランはわずか2本に留まっている。まさに完敗だった。
では、ここまでざっくりと試合を振り返ってきたが、ピッチ内では主にどのようなことが起こっていたのか。ここからは各ポイントに触れていく。
失敗に終わった新たな試み
ミランがセリエAで無得点に終わったのは昨年1月のサンプドリア戦以来で、リーグ戦連続得点は「38」でストップすることになった。今季のセリエAにおいてユベントス戦以外すべてのゲームで複数得点を記録してきた同チームがここまで沈黙するのは、少々意外だったと言える。
では、なぜアタランタ戦でミランの攻撃力が影を潜めたのか。その大きな理由はトップ下の人選にあったとみる。
新型コロナウイルスの陽性判定が出たことでハカン・チャルハノールを欠いたステファノ・ピオーリ監督は、トップ下にブラヒム・ディアスではなく、今冬新加入のスアリオ・メイテを起用してきた。同選手はインサイドハーフやボランチでのプレーを基本としており、これまでのキャリアでトップ下を担ったのはたった2回。それにまだ加入したばかりなので、大きな賭けだった。
メイテを起用した理由は、マンツーマンディフェンスをベースとするアタランタに対人戦で上回ろうという狙いがあったからこそ。フィジカル面に関してはB・ディアスより同選手の方が明らかに優れているので、トップ下の位置で潰される回数を減らし、着実にボールを握ろうとしたのである。
しかし、結果論になってしまうが、この試みは失敗に終わっている。
メイテは慣れないポジションで何とかしようという姿勢こそ見せつけたが、下がって組み立てに参加するチャルハノールと違いそもそものポジションが高すぎた。それによりダブルボランチなどとの距離は大きく広がり、パスが収まる回数は限られてしまった。そうなると当然、非凡なフィジカル等、メイテのストロングポイントはなかなか発揮されない。言葉は悪いが、ほぼ無意味だった。
後半からピオーリ監督がメイテを下げてB・ディアスを投入したことからも、うまくいっていないことは確かだった。
そして途中出場のB・ディアスは対人戦でこそ後手を踏んだが、何度か良い位置でボールを受け持ち味のテクニックを生かし前進した。アタランタはマンツーマンなので、一枚剥がせれば必然的にスペースは生まれてくる。前半から流れが劇的に変化したわけではなかったが、メイテよりB・ディアス起用時の方がやはり可能性はあった。“たられば”は禁物だが、前半からB・ディアスをチョイスしていれば、結果は変わっていたかもしれない。
イブラヒモビッチ不発。他の選手はサポートできず
そしてアタランタ戦ではズラタン・イブラヒモビッチも沈黙してしまった。
前節のカリアリ戦で2ゴールをマークした男はこの日も最前線でオーラを放ち続けていたが、メイテが存在感を消し、両サイドハーフもなかなか前進できないなど、チーム全体として攻撃がストップする時間が多かったため、いつもより孤立する場面が増えていた。
何度かロングボールが自身の下へ来て強さをみせつけたが、対峙したロメロが実によく戦い、粘っていた。そこで負けじとイブラヒモビッチも身体を当てていたが、運悪くファウルを取られることも多かったのである。
そんなイブラヒモビッチにとって最も厄介だったのは、アタランタ3バックの強度だ。
長身のイブラヒモビッチは試合の中でサイドバックの方へ流れボールを呼び込むことが多い。基本的にSBの選手はそこまで大きくないので、そのギャップを突いて優位に立とうという狙いは、これまでにも何度もみられている。
しかしアタランタは3バックで、身長185cmのラファエル・トロイとロメロ、身長190cmのベラト・ジムシティがいる。左、右、中央、どこにいても3バックの一角がついてきて、強く当たりにくる。アタランタ3バックは集中力が高くマークの受け渡しも非常にスムーズと、イブラヒモビッチは“いつものように”うまく最終ラインをかき乱すことができなかった。
イブラヒモビッチのパワーはその中でもトップレベルにあることは間違いなく、厳しいマークの中でも空中戦で何度も勝利したのは流石だった。が、そこで問題だったのはそのセカンドボールをほとんどアタランタが回収していたこと。最もタイトなマークに遭うイブラヒモビッチ以外の選手は、もう少し背番号11をカバーしたかったところである。
無双するイリチッチに苦戦
攻撃陣が不発に終わったミランは、守備も崩壊してしまった。3失点はユベントス戦と並んで今季最多タイの数字である。
アタランタの攻撃力はやはり目を見張るものがあったが、中でも飛び抜けて輝いていたのはヨシップ・イリチッチだ。ミランはこの日、背番号72にやられてしまったと言っても過言ではない。
イリチッチは3-4-1-2の2トップに入ったが、流れの中ではある程度自由に動く。アレハンドロ・ゴメスがいない中、組み立て、崩し、フィニッシュと、攻撃のグレードを高める役割はこのレフティーが担っているのだ。
イリチッチはダイレクトで散らしたりとシンプルなプレーも冴えるが、最大の強みはキープ力だ。体の動きは決して速くないが、左右両足をうまく使ってボールを操る。そして味方選手にスペースを突かせてパスを送ったり、あるいはボールキープ中に味方が作ったスペースを見つけ飛び込んだりと、自分で選択肢を作り出し柔軟にプレーできるのである。
そんなイリチッチを、ミランはなかなか捕まえられなかった。スロベニア代表戦士は主にテオ・エルナンデスの近くに立ってプレーし、ハンス・ハテブールとサイドで数的優位を作る。かと思えば味方が深さを作ってミランの最終ラインが下がり、そこで生まれた中盤とのギャップを突いたりと、マークを定めさせてくれなかったのだ。
と、とにかく柔軟な動きを見せるイリチッチを他の選手が効果的に使った点も、ミランが苦しむ要因となった。事実、同選手はこの日、シュート数7本で得点1、ドリブル成功数3回にキーパス3本、タッチ数はチーム最多の79回を記録している。ホームチームは最も仕事を与えてはいけない選手に、大きな仕事を与えてしまう結果となった。
アタランタ戦には敗れたが、ミランは前半戦王者に輝いている。ただ、イブラヒモビッチは冬の王者を「意味がない」と話した。とにかく悪い流れを断ち切るためにも、26日のコッパ・イタリア準々決勝インテル戦は重要となりそうだ。
(文:小澤祐作)
【了】