今季序盤は貴重な戦力になっていたが…
☆中島翔哉、アル・アイン移籍の背景を読み解く(前編)はこちら☆
2020年夏の新シーズン開幕とともに、中島翔哉は再びポルトの一員として歩むことを許された。コンセイソン監督は「チームメイトたちが望んだから」だと明かしたが、コンディションが上がってきてからは公式戦でも徐々に起用されるようになり、CLデビューも飾った。
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先発起用こそ少なかったものの、昨年12月中旬までにリーグ戦で4試合、CLで4試合、国内カップ戦で1試合、計9試合でピッチに立った。途中出場でも攻撃的な交代カードの1番手か2番手として使われ、比較的長い時間を与えられた試合もあった。
コンセイソン監督は個人的な人間関係よりも、チームの勝利を第一に、全ての選手を明確な基準にしたがって評価する。そんな指揮官から一定の信頼を獲得していたと見ていいだろう。少なくとも昨夏加入した元ブラジル代表のフェリペ・アンデルソンよりは高い評価を得ていた。
にも関わらず、アル・アインへ移籍することになった。具体的なクラブ名がメディアに出てきたのは移籍が濃厚になった段階からだったが、交渉は水面下で進んでいたものと思われる。それまで継続的に起用されていたにもかかわらず、昨年12月中旬から突如ベンチにも入らなくなった。不自然なくらいパッタリと試合に関わらなくなったが、退団が濃厚になっていた(あるいは決まっていた)のであれば試合で使わないという判断は十分に理解できる。
ポルトは情報管理が極めて厳しく行き届いたクラブでもある。監督に話を聞けるのは試合前後の記者会見だけ。選手は試合後に中継局のフラッシュインタビューを受けるのみで、一切ミックスゾーンに出てこない(通過が義務づけられた欧州カップ戦ですら無視する)。選手に記者が質問できるのは欧州カップ戦の試合前日に行われる公式記者会見の場しかない(しかも、出席するのはクラブ側が指定した1人だけ)。
ポルトガルのスポーツ紙には毎日必ず「ポルト面」が数ページあるが、大手3紙とも掲載されている情報はほぼ同じだ。移籍情報のように外部ソースから情報を得るものに関しては若干の差異こそあれ、ベンフィカやスポルティングCPと比べてもクラブ内部からの発信やスクープ、独占インタビューなどは少ない。
例えば昨季中盤に一部の選手が規律違反を犯し、一時的に起用されなくなった時期があった。だが、クラブ内部からは処分などの具体的な内容は一切漏れ伝わってこず、誰もわからなかった。隣国スペインだったらすぐにメディアが騒ぎ立てそうなものだが、ポルトは違ったのである。
そんな状況だから、試合で起用されなくなって久しいのに、具体的な移籍先の名前が報道に出るのもギリギリになったわけだ。日常的に情報交換している某大手紙の記者も、長年ポルトの番記者を務めていながら1月頭まで「ナカジマはいったいどうなっているんだ? 日本で何か情報はないか?」と聞いてくるほどだった。
4000万ユーロの買取OPは妥当か
そして、ついにアル・アイン移籍が発表になった。完全移籍に必要な4000万ユーロという額は、ここまでの流れを見ていると妥当なものだと感じている。
中島の保有権はポルトとアル・ドゥハイルが半分ずつ分け合っていると言われているため、次に移籍する際に発生する違約金は50%ずつ分配されると考えていいだろう。すると、投資した分をできるだけ回収して、あわよくば利益につなげたい両者の思惑が交差する。
保有権の50%買い取りに1200万ユーロを費やしたポルトは、その分を補填したい。ポルティモネンセから獲得した際に3500万ユーロを投じ、すでに1200万ユーロを回収しているアル・ドゥハイルは残りの2300万ユーロ(約28億円)もできるだけゼロに近づけたいはずだ。
となると最低でも3000万ユーロ(約36億円)以上で中島の保有権100%を売却できなければ割に合わない。だが、今の中島の欧州における市場価値はほぼ「無」に近い。1年近くまともに稼働しておらず、ポルトほどのビッグクラブで練習合流を拒否したことなどがあれだけセンセーショナルに報じられていれば、「扱いづらい選手」という評判も世界中に広まっているだろう。
ポルトとしては獲得当初こそ大ブレイクを期待し、市場価値を高めたうえで1年ないし2年で保有権を転売する構想を描いていたのではないだろうか。ところが計画は狂い、いくら本人が望んでもビジネス的な視点で十分なオファーを欧州域内から期待するのは極めて難しくなった。
ならば中東だとしても、できるだけ試合に出られる環境でプレー機会を増やし、市場価値を再度上昇させられることを考えても不思議ではない。もしアル・アインがそのまま買い取るなら4000万ユーロはポルトもアル・ドゥハイルも満足できる額で、夏に復帰することになってもある程度の金額で放出できるかもしれない。
仮に両クラブが2000万ユーロ(約24億円)ずつを分配できるとすれば、ポルトとしては利益が出るし、アル・ドゥハイルも支出のほとんどを補填できる。今回の試算では代理人に支払われる仲介料など移籍金以外にかかる諸費用を度外視しているが、クラブ間の取引だけに限れば4000万ユーロが実は突飛な金額でないことを理解していただけると思う。
次なる活躍の場を見つけるためには…
おそらくポルトに中島が輝ける場所は、もうない。ポルティモネンセ時代に中島を指導したアントニオ・フォーリャ氏はポルトガルメディア『Maisfutebol』に対し、「彼は自分の世界の中で生きていた」と語った。
セルジオ・コンセイソン監督が現地20日の記者会見で語った言葉には、フォーリャ氏の見解に通ずるものがあった。常に実力やコンディションをフェアに評価する指揮官は、中島に対し現実の厳しさを突きつけた。
「私が言えるのは、ナカジマはここに1ヶ月や2ヶ月だけいたわけではないということだ。長い期間いて、何度もチャンスがあった。すぐに適応できる選手もいれば、本人のせいや私のせい、状況のせいでなかなか適応できない選手もいる。それぞれの性格に応じて過程は異なるものだ。すぐに適応して驚かれる選手もいる。
ナカジマは常に礼儀正しく、面倒を起こすような選手ではなかった。むしろ少しくらい面倒を起こす方が良かったかもしれない。結局のところ、ポルトというクラブに適応することができなかった」
ポルティモネンセからアル・ドゥハイルに移籍した時、大きなビジネスの波に飲まれてしまったことで少しずつ歯車が狂い始めたのではないだろうか。「楽しくサッカーをする」だけで日本とは文化も言語も慣習も全く違う欧州サッカー界を生き抜いていくのは極めて難しく、周りに流されているだけで自分を見失ってしまえば、将来の可能性すら閉ざしてしまいかねない。
キャリアにおいて何を重視し、何を追い求めるかを最終的に決めるのは選手本人の意思なので、中東へ移籍することそのものが絶対的に悪いわけではない。ただ、中島に関してはガムシャラに努力して「値札」にふさわしい選手になれなければ、欧州でさらに高いレベルを切り拓いていくことは難しい状況かもしれない。中東にいるからといって可能性がないわけではないが、圧倒的な結果を残さない限り日本代表復帰も険しい道のりになってくる。
だからこそ、これまで目を向けてこなかった(あるいは意図的に目を背けてきた)ことにも気を配り、アル・アインでプレーする喜びを取り戻し、自力で欧州のトップレベルに舞い戻るチャンスをつかんでもらいたい。
日本代表の次期エースと期待された男でも、愛想笑いだけで生き残っていけるほどサッカー界は甘くない。
(文:舩木渉)
☆中島翔哉、アル・アイン移籍の背景を読み解く(前編)はこちら☆
【了】