ラ・リーガで10年ぶりにGKが得点したものの…
もし自分がプロサッカー選手としてラ・リーガの舞台に立っていたとしたら、最も相手にしたくないFWは間違いなくルイス・スアレスだ。これは断言できる。
【今シーズンの欧州サッカーはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】
現地21日に行われたラ・リーガ第19節で、アトレティコ・マドリードはエイバルに2-1で勝利を収めた。だが、決して楽な試合ではなかった。
先制ゴールを奪ったのはホームのエイバルだった。序盤の9分、左センターバックのアナイツ・アルビージャが対角線方向に蹴ったロングボールに武藤嘉紀が抜け出すと、ペナルティエリア内でヤニック・カラスコに倒されてPKを獲得する。
そして、この値千金のPKを蹴ったのはGKマルコ・ドミトロヴィッチ。自身たっぷりにボールをセットしたセルビア代表守護神は、名手ヤン・オブラクの逆を突く見事なシュートで先制弾を突き刺した。もちろんラ・リーガ初ゴールだ。
GKの得点はラ・リーガでは約10年ぶり、史上7人目だという。さらにGKがPKによって得点したのはラ・リーガで約19年ぶりの珍事。ところがドミトロヴィッチの快挙はすぐに霞んでしまった。
1点先行した後もエイバルにとって悪い流れではなかった。しかし、ゴール前での判断の遅れがミスにつながり、前半のうちに追いつかれてしまう。
40分、相手に当たってこぼれてきたボールをMFセルヒオ・アルバレスが前線へ蹴り出そうとしたところを狙われていた。
余裕があると思ったのか一瞬蹴るのをためらったところに、マルコス・ジョレンテが猛プレスをかける。するとセルヒオ・アルバレスの蹴ったボールは至近距離でジョレンテにブロックされてしまう。そのこぼれ球にスアレスが突っ込んできた。
慌てたセルヒオ・アルバレスはクリアを試みるも時すでに遅し。ボールをかっさらったアトレティコの背番号9は、素早く体勢を変えて角度のないところからドミトロヴィッチの脇の下を正確に撃ち抜くシュートでゴールネットを揺らした。
エイバルとしては1点リードのまま前半を終えたかったところで痛恨の失点。アトレティコはエースストライカーの今季10得点目で試合を振り出しに戻し、後半で逆転を目指すことになる。
狡猾極まりない決勝PK弾
ディエゴ・シメオネ監督はさらにチームを勢いづけるべく、後半開始から2枚替えを敢行。アンヘル・コレアとトマ・ルマルを下げ、ジョアン・フェリックスとルーカス・トレイラを投入した。
しかし、流れはあまり良くならない。ゴール前でしぶとく守り、前線のキケ・ガルシアや武藤、乾貴士にシンプルなロングボールを送って攻めるエイバルに苦戦を強いられた。前半のシュート数はお互いに4本ずつだったが、90分間ではエイバルの12本に対しアトレティコは9本。ラ・リーガ首位クラブは15位に沈む下位クラブ攻略に手間取った。
エイバルはドミトロヴィッチの好セーブなどもあって最少失点に抑え、もうすぐ後半アディショナルタイムに突入、貴重な勝ち点1の獲得が見えるところまで耐えた。内容面を見れば最近で最も充実した試合ができていたと言えるだろう。
しかし、またも牙をむいたゴールに飢える獣の餌食となった。87分、味方が自陣から蹴ったクリアボールに反応してスアレスがディフェンスラインの背後に飛び出す。ゴール前に2人しか残していなかったエイバルはアルビージャが並走して追いかけるが、ペナルティエリアに入ったところで軽率な対応で右足をスアレスの足にかけてしまった。
このプレーを見たマリオ・メレーロ・ロペス主審は迷わず笛を吹き、PKを宣告。最終盤に巡ってきた千載一遇のチャンス。スアレスはこの重要な場面で“パネンカ”を繰り出し、ゴールを守るGKドミトロヴィッチをあざ笑うかのようなPKを決めて見せた。
きっかけはいたって普通のクリアだったが、何も起こらなそうな時にも虎視眈々と好機を待っていたスアレスは本能的にゴールの匂いを追いかけ続け、結果的にPKを獲得した。そして試合の行方を決定づける重要な場面でリスクの高いチップキックを選択するメンタルの強さも恐ろしい。DAZNで実況を務めていた桑原学アナウンサーが「もう狡猾極まりないと言いましょうか…」と感嘆の声を漏らすのも理解できる。
昨夏バルセロナを追われるようにアトレティコへ移籍したウルグアイ代表FWは、エイバル戦の2発で今季の得点数を「11」に伸ばした。得点ランキングでは元同僚のリオネル・メッシと並んで首位タイにつける。完全に絶好調時のパフォーマンスを取り戻した。
プロ入り以来17年連続の二桁得点
さらに驚いたのは、プロになってから17年間で一度も二桁得点を逃したシーズンがないということだ。ウルグアイのナシオナルでトップチーム昇格初年度の2005/06シーズンですら公式戦12得点を挙げている。それから毎年コンスタントにゴールを積み重ね続け、今季も公式戦二桁得点を無事に達成した。
年間30得点以上も珍しくないスアレスにとって18試合出場11得点という成績は不本意かもしれないが、どんな環境、チーム、戦術、コンディションでも関係なくゴールを奪い続けられる彼ほどのストライカーは他にいない。
アトレティコが現在ラ・リーガ首位で優勝争いを引っ張れているのも、スアレスがゴールを決め続けているからこそだ。今季公式戦で敗れたのはわずかに3回。CLのバイエルン・ミュンヘン戦、レアル・マドリードとのダービーマッチ、そしてコパ・デル・レイ2回戦のUEコルネジャ戦だけである。
リーグ戦に限れば17試合で立ったの7失点しか喫しておらず、敗れたのはマドリー戦だけ。7連勝からのダービー敗戦を挟み、現在は6連勝中だ。14試合で13勝と凄まじい勢いで勝ち点を積み重ね続けている。
特に3バックを導入した昨年11月以降は勢いがさらに加速した。もはや止められるチームがいるのかどうか。エイバルは攻守にシンプルな戦いを徹底して勝ち点をもぎ取る寸前まで迫ったが、アトレティコの勢いに押し切られる形で散った。
シメオネ監督は試合後、内容が悪かったことを認めつつ「PKを獲得し、それを決め、状況を解決したスアレスの個人技によって勝敗が決まった」とエースストライカーの働きを勝因に挙げた。さらに「彼は傑出した選手で、我々は彼と共に戦うことができて幸せだ」と活躍ぶりを称賛していた。
スアレス本人も「俺は重要な目標に向かって戦うためにアトレティコへ来た。ゴールでもアシストでも、チームに貢献したい」とモチベーションにあふれている。「全員がチームにコミットし、貢献すれば、重要な目標を達成できると確信している」とも語った。苦しみながらエイバルに勝利したことでタイトル争い向けても自信を深めているようだ。
近年マドリーとバルセロナの陰に隠れがちだった、シメオネの“戦う集団”が真価を発揮しつつある。大きなアクシデントが続かない限り、おそらく簡単には止まらない。今季のラ・リーガを制する確率は、エイバル戦の勝利によってグッと高まったのではないだろうか。
(文:舩木渉)
【了】