目次
⚫︎ズラタン復活の2得点
⚫︎「俺はズラタンを信じている」
⚫︎マンジュキッチの加入も大歓迎
⚫︎ただの“ビッグマウス”ではない
ズラタン復活の2得点
「年齢はただの数字だ」とは、誰が最初に言ったのだろうか。
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本当の意味でこの言葉が当てはまるサッカー選手はごくわずか。その1人がズラタン・イブラヒモヴィッチである。反論は受け付けない。というより、反論できる“人間”はいるのだろうか?
現地18日にセリエA第18節が行われ、ミランは終盤に退場者を出しながらもカリアリを2-0で下した。この試合で生まれた2つのゴールを決めたのは、ズラタン・イブラヒモヴィッチである。
昨年11月下旬から負傷離脱していたイブラヒモヴィッチにとって、リーグ戦の先発は約2ヶ月ぶり。すでに復帰して2試合に出場していたが、最初は終盤の5分間、そして2戦目となったコッパ・イタリアのトリノ戦では先発してハーフタイムに交代と徐々にプレータイムを伸ばしてきていた。
慎重にコンディション調整を続けてきた末に迎えたカリアリ戦は、本格復帰をアピールするのに十分な舞台となった。
開始5分で相手ディフェンスラインの裏に抜け出し、ペナルティエリア内で倒されたイブラヒモヴィッチは、獲得したPKを自ら決めて1点目。さらに後半開始直後の52分、ダビデ・カラブリアからのロングボールを引き出し、3バウンド目の浮いてくる瞬間を叩くハーフボレーで2点目を突き刺した。
今季5度目の1試合2得点。リーグ戦8試合出場で12得点。昨季終盤から先発したリーグ戦9試合連続でゴールネットを揺らしている。2ヶ月の離脱期間がありながら、驚異的なペースでゴールを量産中だ。欧州でもトップレベルの舞台で、39歳にして1試合1得点以上のペースを維持し、セリエA得点ランキングでも2位につける。
一部の例外を除いてほとんどの選手が現役を退いていてもおかしくない年齢で、キャリア最高とも言える成績を残しているのである。衰えの兆候すら見えないのは、にわかに信じがたい。だが、もうすぐ40歳のイブラヒモヴィッチは自らの身体で「年齢はただの数字だ」ということを証明している。
「俺はズラタンを信じている」
もはや“神”である。彼はパリ・サンジェルマン(PSG)を退団する際「王としてやってきて、伝説として去る」という名言を残したが、ミランのレジェンド=「伝説」は本当に「神」の領域に足を踏み入れたのかもしれない(神様も新型コロナウイルスに対しては無敵ではないらしいが)。
イブラヒモヴィッチ抜きでもしぶとく勝ち点を積み重ねてきたミランは、2位インテルに3ポイント差をつけてセリエAの首位に立っている。前半戦は残り1試合のため、首位のまま後半戦に突入することが濃厚だ。10年ぶりのスクデット獲得(リーグ優勝)も現実的な目標として捉えられるようになってきている。
カリアリ戦後のインタビューで、レポーターから「スクデット獲得を信じているか?」と問われたイブラヒモヴィッチはこう答えた。
「俺は俺を信じている。俺はズラタンを信じている」
何と彼らしい、力強い言葉だろうか。プロキャリア20年で初めて、欧州5大リーグで先発9試合連続ゴールを成し遂げたストライカーは、若返ったミランを頂点に導こうとしている。「俺を信じろ」と言わんばかりの自信と結果は、チームを大きく後押しするに違いない。
10連覇を目指すユベントスや、スクデット奪還を目論むインテルも黙ってはいない。シーズンの残り半分で猛追をかけてくるだろう。ミランとて少しでも油断したり、主力に多くの離脱者が出たりして勝ち点を取りこぼすようなことがあれば、一瞬で追い落とされてしまいかねない。
決して戦力的に充実しているとは言えない現状もあり、ミランは冬の移籍市場で積極的に補強を進めている。後半戦にさらなる激化が予想される優勝争いに向けて、すでにトリノからフランス人MFスアリオ・メイテを獲得。カリアリ戦に途中出場して新天地デビューも済んでいる。
さらにチェルシーからフィカヨ・トモリを期限付き移籍で獲得目前と伝えられている。アレッシオ・ロマニョーリとシモン・ケアーに続く控えセンターバックの選手層に不安を抱えていたため、23歳のイングランド代表DFは貴重な戦力となりそうだ。
マンジュキッチの加入も大歓迎
前線には昨年7月にカタールのアル・ドゥハイルを退団してフリーになっていた34歳のFWマリオ・マンジュキッチの加入が濃厚になっている。ユベントス時代にセリエAを3度、コッパ・イタリアを4度制している元クロアチア代表ストライカーも、豊富な経験と確かな実力でチームに貢献してくれるに違いない。
ただ、イブラヒモヴィッチとはポジションが重なる。マンジュキッチはユベントス時代にサイドで起用されたこともあったが、基本的には最前線で輝くタイプの選手。1トップを採用する現在のミランでは2人がライバルになることも考えられる。
というのは、どうやら外野の勝手な想像に過ぎないかもしれない。セリエAの首位を走るチームで得点源として君臨する“神”は、カリアリ戦後のインタビューで「俺はすごく嬉しいよ」とマンジュキッチの加入を歓迎した。
「だって、俺たちにとっては対戦相手を怖がらせる存在が2人に増えるってことじゃないか!」
ポジティブに考えれば、確かにその通りだ。1トップにイブラヒモヴィッチ、左右サイドにアンテ・レヴィッチとマンジュキッチ、トップ下にハカン・チャルハノールが並ぶ攻撃陣は想像しただけで迫力十分。さらに今季はラファエウ・レオンやイェンス・ピーター・ハウゲ、アレクシス・サーレマーケルス、ブラヒム・ディアスなど勢いある若手アタッカーたちも揃っている。
こんなにもワクワクするミランを見るのは何年ぶりだろうか。“神”の思うままに進んでいるようで少し怖くなってくるが、今後の展望を語るイブラヒモヴィッチは意外にも現実的だった。
「今のところ俺たちはうまくいっている。リーグ戦もだいたい半分が終わったところで、だんだんと難しい試合が増え始めてきた。非常に難しいシーズンになるだろう。だが、マンジュキッチとメイテが加わって、他に新加入選手がやってくるかはわからないが、監督にとってはローテーションのための選択肢が増えると思う」
ただの“ビッグマウス”ではない
後半戦はリーグ戦に加え、ヨーロッパリーグの決勝トーナメントやコッパ・イタリアも並行して戦うことになる。これまで以上に過密な日程をこなすうえでイブラヒモヴィッチの活躍も重要だが、常にチームとして高いレベルを維持することも同時に求められる。
緑の芝の上に帰ってきた“神”は、しっかりと足もとを見つめながら、再びスクデットを獲得する日のことを頭の中に思い描いているのだろう。『ベンジャミン・バトン』の世界に生きているようで、実は自分の現在地を最もよく理解しているのはイブラヒモヴィッチ自身なのである。
おそらく週2試合のペースでピッチに立ち続けることが難しいのも十分にわかっている。だからこそ、出場した試合でしっかりと結果を残してチームを勝利に導き、自信を与え続けるのがリーダーとしての役目だということも意識しているがゆえの“ビッグマウス”だろう。
伊紙『コリエレ・デッロ・スポルト』のインタビューでは「フィーリングがいい限りプレーを続けるつもりだ」と今季末で満了を迎える契約の延長もほのめかしていた。最近は「ミラン復帰が俺を変えた」とまで言っている。とにかくやる気に満ち溢れているイブラヒモヴィッチは、39歳にしてスクデット獲得の中心を担い、セリエA得点王の個人タイトルまで手にしそうな勢いだ。
「ここにいる若者たちは俺をやる気にさせてくれる。彼らは俺に勝負を挑み、俺をもっと走らせようとしてくる。俺は絶対に諦めない」
極度の負けず嫌いながら常に貪欲な努力家で、根っからの自信家でもあり、驚異的なパワーとテクニックを備えた不老の肉体を持ち、圧倒的なカリスマ性で頂点に君臨する。
さすがズラタン。我々にはできないことを平然とやってのけるところに痺れ、憧れる。人知を超越した“神”のごときストライカー、ズラタン・イブラヒモヴィッチを信じてみようじゃないか。
(文:舩木渉)
【了】