就任10日でタイトル獲得
年明け早々の1月2日、噂どおり、トーマス・トゥヘルの後任としてマウリシオ・ ポチェッティーノがパリ・サンジェルマン(PSG)の監督に正式に就任した。
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5日にお披露目会見を行い、翌6日にはさっそくリーグ・アンのサンテティエンヌ戦というなんとも慌しい展開。ファン待望の初采配は1-1で引き分けたが、3日後、ホームでのスタッド・ブレスト戦には 3-0で勝利し、就任後初白星をあげた。
そして13日には、新型コロナウイルスの影響でイレギュラーな日程での開催となったトロフェ・デ・シャンピオン(前年度のリーグ戦とカップ戦勝者が対決 するいわゆるスーパーカップ)でマルセイユを2-1で下し、就任後10日にして、最初のトロフィーを手に入れた。
新監督が着任すれば、「いったいどんな変化をもたらしてくれるのか?」という期待感が高まるのが常。就任会見では
「(キリアン・)ムバッペはどう使うのか? トップか? サイドか?」
「(マルコ・)ヴェラッティをより攻撃的な位置で使うといったアイデアは?」
「どのようなフォーメーションを採用するつもりか?」
といった戦術に関する質問が浴びせられたが、髭を剃って小ざっぱりとした様子で登壇したポチェッティーノは、「まだ着任したばかりで、我々(自分とスタッフ)は、まずここでの色々なことを知り、馴染んでいく段階」であることを何度も繰り返した後、「現代のフットボールは、システムがどう、フォーメーションがどう、というものではもはやない。大事なのは、選手たちが自分の持ち味をもっとも活かせる使い方を見つけて、ピッチ上でそれを実現することだ」と持論を述べた。
「もっとも重要なのは…」
そしてさっそく、マルセイユ戦では、トップ下でヴェラッティを使うという新たな試みに挑んでいる。
これについては、元レキップ紙記者で現在はテレビ解説などご意見番的存在のピエール・メネーズ氏のように、「ヴェラッティには10番のポストでプレーする資質はない。もっと低い位置のほうが生きる」と批評した意見が多かった。
ヴェラッティに10番の素質がない、とは思わないが、彼の抜群の視野や、面白い展開の起点となれる才能がより生きるのは、より深めの位置だとは感じる。
試合後ポチェッティーノは、「彼の才能についてはいまさら語るまでもない。彼はピッチ上のどのポジションでもプレーでき、あらゆるシチュエーションに対応できる。オフ・ザ・ボールの時の動きも懸命にがんばっているし、ボールを持っている時にはキープできる」と評価し、「もっとも重要なのは、彼ら優秀な選手たちを使って、オプションや戦術の選択肢を広げることだ。戦力が揃ったときに、それぞれが最高のポジションで力を発揮できるように」と、現在はそのための模索の一環である、ともとれるコメントをしている。
『パリジャン紙』など地元メディアが期待を寄せているのは、前任者のもとで はムバッペとネイマールありきのチームだったが、ポチェッティーノのもとでは、本来あるべき姿であるチームプレーに戻るのでは、という点だ。
ポチェッティーノに合う選手は多い?
昨シーズンの前半は、ムベッペとネイマールにマウロ・イカルディとアンヘル・ディ・マリアを加えて『ファンタスティック・フォー』と呼ばれた時期もありながら、イカルディがコンディションを落として脱落するなど、指揮官の戦術的采配だけではない部分で苦労することも多かった。
ただ、偶然か意図的か、このタイミングで長らく負傷欠場していたイカルディがコンディションを上げてきたのはおもしろい。ブレスト戦では、65分からの出場で3ヶ月半ぶりにゴールをあげ、次のマルセイユ戦でも1得点1アシストと、毎試合のように得点していた昨シーズン前半のような勢いを感じさせる。
ポチェッティーノが着任後初めて選手たちと対面したときの映像では、彼と、 同じくアルゼンチン人のディ・マリアがやたらにうれしそうだった。同胞の大先輩が指揮官になったとなれば俄然やる気も出るのだろうが、彼らだけでなく、レアンドロ・パレデスもアルゼンチン人。
さらに、パブロ・サラビア、アンデル・エレーラ、フアン・ベルナト、セルヒオ・リコがスペイン人。そしてコスタリカ人のGKケイラー・ナバスと、現在のPSGはポチェッティーノと同じスペイン語を母国語とする選手が大多数を占めている。そしてネイマール、マルキーニョス、ラフィーニャのブラジル軍団も南米人だ。
というよりティロ・ケーラー、ユリアン・ドラクスラーのドイツ人2人と、セネガル人のイドリッサ・ゲイエ以外はほぼ全員ラテン人のチームである。普段の生活の中でも、ドイツ人とラテン人の発想、物事の捉え方、優先順位、価値観、といったものはこれほどまでに違うのかと実感することは多々あるから、その点では、前任者のトゥヘルよりも、ポチェッティーノのほうが、根っこのところでわかり合える、肌感覚的に合う、と感じる選手は多いことだろう。
ポチェッティーノの右腕であるミゲル・ダゴスティーノも、アルゼンチンで選 手としてプレーしていた時代からの盟友で、監督になってからもエスパニョー ル、サウサンプトン、トッテナムとずっと一緒にやってきた相棒だ。フランスでの経験が長く、流暢にフランス語を話すダゴスティーノが会見ではポチェッティーノの通訳を務めているが、メモもとらずに長セリフも的確に訳すダゴスティーノを見て「そうそう! まさに私が言いたかったとおりだ! やっぱり君はすごいな!」 と隣で絶賛するポチェッティーノの姿も微笑ましく、コーチングスタッフはまさに一枚岩、といったところだ。
着任後のつかみは上々。ここから加速なるか
マルセイユ戦では、「勝ちはしたが凡庸な内容」と厳しい評価だったが、メン タル的にも落ちていたチームに、新監督の到来でポジティブな刺激が加わった のはまちがいない。
ひとまず、着任後のつかみは上々といったところで、ポチェッティーノはさっ そくコロナ陽性反応で2週間ほど現場から離れることになってしまったが、着 任以来、睡眠時間3、4時間で対戦相手の分析作業に追われているというから、体調の問題がなければ、この間じっくり作業に打ち込むことだろう。
ここから今月いっぱいは、現在噂にあがっているデレ・アリの獲得が実現する か、今シーズンで契約切れとなるディ・マリア、ベルナト、ドラクスラーの契約延長交渉はどうなるかなど、移籍状況にも話題が集まりそうだ。
(文:小川由紀子【フランス】)
【了】