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インテルに成す術なく完敗
ユベントスを率いるアンドレア・ピルロ監督は、セリエA第18節インテル戦の前日会見で「明日勝てれば勝ち点3以上の大きな勢いが得られるだろう。多くの注目が集まるし、私たちは非常に集中している」と話していた。しかし、サン・シーロでは成す術なく完敗。結果論にはなってしまうが、勝ち点3以上のものを得るどころか、多くのものを失うことになった。
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「最初から我々の姿勢は全て間違っていた。このようなゲームで決意を欠けば、困難になる。我々は引きすぎて、インテルの攻撃を恐れ過ぎていた」。
インテル戦後のピルロ監督のコメントである。確かに、ユベントスはインテルをリスペクトし過ぎていた。だからこそ90分間の中でほとんどペースを握れず、2点を奪われ、今季リーグ戦2度目の無得点に終わってしまったのだ。
ユベントスはこの試合でも可変システムを採用していた。攻撃時は3-5-2だが、守備時は左ウイングバックが一列落ちて4-4-2になるというものだ。
アルバロ・モラタとクリスティアーノ・ロナウドという2トップに、フェデリコ・キエーザという突破に長ける選手がいるユベントスの攻撃力はもちろん低くない。しかし、この日に関してはその攻撃力は影を潜めた。3-5-2システムで挑んだインテルの組織的かつ強度の高い守備にハマり、チャンスらしいチャンスを作り出せなかったのだ。
ユベントスは最終ラインでこそある程度ボールを保持できたが、そこから脱するのに相当苦労した。中盤センター3枚(ロドリゴ・ベンタンクール、アドリアン・ラビオ、アーロン・ラムジー)はインテルの中盤センター3枚(アルトゥーロ・ビダル、マルセロ・ブロゾビッチ、ニコロ・バレッラ)にかなり警戒され続け、パスを受けても素早く寄せられ前に進めず。WBにも同様のことが起きていた。
ユベントスはインテルの精度の高い守備に対し“素直”になってしまった。すぐボールを後ろへ戻し、組み立てのやり直しを図る。ただ、そうなると当然インテルは全体のラインを上げ、陣形を整えてくる。ユベントスは結局敵陣深くに侵入することが難しくなり、途中でエラーが起きてボールが相手へ、ということが少なくなかった。
何度か相手の中盤をつり出したことで生まれたスペースを突き、サイド攻撃へ展開し、クロスを放り込むというシーンはあった。もちろん、クロスを上げることは崩しのオプションとして有りだ。しかし、ユベントスにとって問題だったのは、「一辺倒」になってしまったこと。これでは崩すことが難しくなる。この日の相手はインテルなので尚更だ。
インテルの守備を前にモラタはフラストレーションを溜め込み、C・ロナウドはペナルティーエリア外から強引にシュート。ユベントスにはほとんど得点の気配がなかった。C・ロナウド以外の選手がシュート1本に終わっていることからも、いかにユベントスが苦戦したかが分かるだろう。
個の戦いで負けた
一方でユベントスの守備はほとんど機能していなかった。インテルが連動して素早いアプローチを見せている中、アウェイチームのプレスは個人でのものが多く、お世辞にも「組織的」とは言えなかったのだ。
そしてユベントスにとって最悪だったのは、組織だけでなく「個の勝負」でもインテルに負けてしまったことである。
ユベントスの中盤センター3枚のベンタンクール、ラムジー、ラビオはそれぞれ2回ずつドリブル突破を許しているというデータが出ている。先述した通り同チームのプレスは“単体”でのものが多いので、中央で一枚剥がされると必然的に大きなスペースを与えピンチを招きやすくなる。それが計6回あったということは、それだけ多くのチャンスを相手に許していたということになる。
インテルのビダルはこの日、計4回もドリブル突破されている。しかし、そこまで大きな問題とならなかったのは、チームとしてカバーできていたから。とくに、アレッサンドロ・バストーニの危機管理は冴えていた。ユベントスにはこのように「個」をチームとして支える意識が足りていなかったのだ。
個で後手を踏んだのは中盤だけではない。
この日左サイドに入ったジャンルカ・フラボッタはピルロ監督が信頼を寄せる若手選手の一人だ。しかし、同選手はまだ発展途上中。緊張感漂う大一番で、ドルトムントで大きな自信をつけたアシュラフ・ハキミと対峙することは簡単ではなかった。
12分の失点シーンは、フラボッタがハキミに突破を許し、中央へ侵入されたことが一つの原因となった。それにより大外のバレッラがフリーとなり、クロスを上げられる。最後はビダルに頭で押し込まれてしまった。
その他の場面でも、フラボッタがハキミに手を焼くシーンはいくつもあった。前者も懸命に食らい付いてはいたものの、やはり経験値やそもそものアスリート能力でモロッコ代表戦士を上回ることは難しかった。
そしてユベントスはインテルのエースであるロメル・ルカクにも苦労した。
ベルギー代表FWのマークを担当したのは経験豊富なジョルジョ・キエッリーニだったが、同選手でもルカクを止めることは容易ではなかった。ポストプレーをさせないよう強くプレッシャーを与えたが、ルカクはそれをうまく利用して前を向く。キエッリーニは必死になるあまり、ファウルぎりぎりで対応することも多々あった(主審によってはもっと多くのファウルを取られていたかも…)。
2失点目はルカクの動きに付いていったキエッリーニが空けたスペースをフラボッタがカバーしきれず、バレッラに走り込まれたことで招いた。ルカクはドリブル突破数5回を誇るなどボールを持った状態でも脅威だったが、オフ・ザ・ボールでも結果的に違いを生んだことになる。キエッリーニとの勝負を、少し異なる形で制したと言えるだろう。
厄介だった23番
だがユベントスにとって最も厄介だったのはルカクでもハキミでもなく、バレッラだったのかもしれない。
イタリア代表MFは結果的に1得点1アシストを記録と勝利の立役者となった。1点目はハキミがフラボッタを引き付けたことで生まれたスペースを突き、クロスでビダルの得点をお膳立て。2点目はルカクが作ったエリアに素早くランニングし、GKヴォイチェフ・シュチェスニーを無力化するシュートを叩き込んでいる。
小柄な体に搭載された豊富なスタミナを駆使して危険なエリアへ効果的に走り込むことができるのはバレッラの大きな強み。上記した二つのシーンでは、そのストロングポイントを最大限に発揮したと言えるだろう。ユベントスは、このバレッラを監視することを怠ってしまったのが大きな痛手だった。
また、バレッラは非凡なフィジカルと走力を武器に対峙したラビオらを上回り続け、ドリブル突破数はチーム内2位となる3回を記録している。そしてキーパス3本という数字も残しており、守備でも最後まで身体を張っていた。ユベントスにとっては悪魔のような存在だったと言える。
インテルの守備に苦戦し、自分たちのディフェンスはチームとして機能せず。個の勝負でも負け続け、ピルロ監督のコメント通り「引きすぎた」ことでライン間に大きなスペースが生まれ、そこをバレッラらに突かれてはピンチを招く。ユベントスはまさに何もできなかった。
この1試合でスクデットの行方が決まるわけではない。シーズンはまだまだ続く。しかし、確かなのはユベントスの10連覇への道のりはさらに険しくなったということだ。
(文:小澤祐作)
【了】