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リーグ戦最下位。当然の監督解任
「私は自分の将来ではなく、敗北のことを心配している。私にできるのは起こっている事象に対する解決策を探すことだけだ」
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現地11日に行われたラ・リーガ第18節のベティス戦に0-2で敗れた後、ウエスカのミチェル監督が述べた言葉だ。
しかし、その指揮官は直後に解任された。「私は仕事を続け、解決策を探し続ける」と3連敗にも気丈に振る舞っていたが、極度の成績不振にクラブも動かざるを得なかったのだろう。
今季2部から1部へ昇格してきたウエスカはリーグ戦を約半分の18試合終えた段階で1勝9分8敗で最下位、勝ち点12の獲得にとどまっている。残留ラインが例年通り35ポイントから40ポイント前後になるとすると、後半戦で20ポイント以上の上積みが必要になる。
フロントもギリギリまで粘っただろうが、浮上のきっかけが見えない状況にしびれを切らし、厳しい決断を下した。現時点で残留圏内の17位までは6ポイント差。逆転残留への芽を残し、希望を抱いたまま巻き返しを図るには、おそらく最後のタイミングでもあった。
2019年夏にウエスカの指揮権を託されたミチェルは、1シーズンで1部昇格を達成。在任1年半で公式戦64試合を率いて24勝16分23敗という成績を残し、職を解かれることとなった。
今季のウエスカは明らかな課題を晒したまま、ミチェルの言う「解決策」を見出せないまま進んできた。ベティス戦は現状を象徴するようなゲームだったと言える。
ポゼッションをベースとした攻撃を構築するが、ハーフウェーラインを越えるところまでボールを保持できても有効な形でゴール前に侵入できない。崩しに迫力がなく、得点力不足に喘いだ。
リーグ戦におけるボール支配率の平均は49.0%で、ラ・リーガ1部のなかでは12位につける。1試合平均のシュート数も10.4本で全体の11位だ。ところが奪ったゴールは14個しかなく、これはエルチェと並んで最下位タイとなっている。
ウエスカが抱える攻守の課題
昨季は2部で12得点を奪った日本代表FW岡崎慎司も、1部ではわずかに1得点。攻守において彼の強みがチーム力に還元される場面は数多くあったが、肝心のゴール前では高い壁に阻まれていた。
他のアタッカーたちも軒並み苦しみ、チーム内得点王のラファ・ミルも3得点のみ。複数得点を奪っているのは他にハビエル・オンティベロスとサンドロ・ラミレスの2人しかいないが、彼らも2得点ずつにとどまっている。
中盤まで安定してボールを運ぶことができても、崩しになるとサイドを打開してのクロスくらいしかオプションがなく、明らかに確実性を欠いていた。これでは対戦相手の脅威になるどころか、むしろ安心感さえ与えてしまう。
守備でも同じ弱点をずっと克服できないままだった。それはセットプレーからの失点の多さである。
ウエスカは今季、リーグで2番目に多い28失点を喫している。うちセットプレーからの失点は8つにのぼり、これはリーグ内最多。PKによる失点も4つあり、動かないボールを蹴るシチュエーションから12個ものゴールを失っている。もちろんこれもラ・リーガで最も多い数字だ。
自分たちのミスが絡んでペナルティエリアの中や周辺でファウルを犯してしまう場面の多さも課題だったが、それ以上に痛かったのがリーグ最多の5失点を喫しているコーナーキック守備の脆さだった。やはり流れに関係なく得点チャンスとなるセットプレーを与える回数は、少ないに越したことはない。
直接ではなかったが、ベティス戦の1失点目もコーナーキックの流れから生まれた。相手にこぼれ球を拾われ、左サイドをあっさり攻略されると、エメルソンのクロスからアイッサ・マンディのヘディングシュートでフィニッシュ。
コーナーキックの守備時はマンツーマンでマークについていたはずが、二次攻撃につながったところでウエスカの選手たちの足が止まり、ニアサイドに飛び込んできたマンディに自由を与えてしまった。
そして、後半アディショナルタイムにはカウンターを食らって2失点目を喫する。ベティスはすでに退場者を出していたにもかかわらず、ウエスカは自陣で数的不利な状況を作られ、最後はゴール前のディフェンスがアントニオ・サナブリアに対するマークを完全に見失っていた。
ミチェルの後任は…
ベンチスタートだった岡崎は79分から登場し、82分に背後からのタックルを受けてポール・アコクの退場を誘発。後半アディショナルタイムには惜しいシュートも放ったが、ミチェル監督を解任の危機から救うような活躍は見せられなかった。
理想を追い続けたがゆえに攻守に大きな課題を抱えたままのウエスカには、すでに新監督候補がいる。今月3日までアスレティック・ビルバオを率いていたガイスカ・ガリターノ氏の就任が濃厚と、スペイン紙『マルカ』などが報じているところだ。
チームのバランスを見失いつつある状況に、ガリターノ氏は適任だろう。2018年12月にビルバオのBチームからトップチームの監督に昇格した同氏は、エドゥアルド・ベリッソ政権で18位に低迷していた当時のチームを急浮上させた実績がある。
就任後の10試合で5勝4分1敗という好成績を残したビルバオは、24節終了時点で18位から11位まで順位を上げていた。一時はクラブ史上初となる2部降格の危機と叫ばれながらも、2018/19シーズンの最終順位は欧州カップ戦出場権獲得手前の8位まで到達した。
ガリターノ氏はビルバオで監督に就任した際、選手たちに極力シンプルな戦術を落とし込んでチームを立て直した。できるだけ布陣全体をコンパクトに保ちながら守備ブロックを作り、確実なチャレンジ&カバーを徹底してボールを奪う。そして攻撃時にはリスクを冒さず、できるだけ手数をかけずダイレクトにゴールへ向かっていくというものだ。
このタイミングでの監督交代というのもあって、1月の移籍市場でどれだけ効果的に動けるかは不透明になった。もともとはセンターバックやウィングの補強が噂されていたが、具体的な名前は挙がっておらず、新監督就任によって大幅なプラン変更や撤退も考えられる。
現有戦力を中心に立て直していかなければならないとなれば、できる限り現実的な戦い方で地道に勝ち点を拾い続けるしかない。そういう意味で、全員が帰陣してコンパクトに守り、速攻で相手ゴールに迫るシンプルな戦い方を徹底できるガリターノの手腕にかかる期待は大きい。
岡崎も新監督のもとで、新たな競争に挑まなければならない。これまでアタッカー陣は誰も目立った結果を残せておらず、全員が横一線からのリスタートになるだろう。新体制で百戦錬磨の日本代表ストライカーが救世主となれるか注目して見ていきたい。
(文:舩木渉)
【了】