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薄氷を踏むような勝利
リーグ戦で出場機会を得られていない選手たちがプレーする試合がそううまくいくはずもない。ユナイテッドは3日前に行われたマンチェスター・シティとのリーグカップから9人を変更した。リーグ戦で出場のないジェシー・リンガード、公式戦直近6試合でプレーしていないフアン・マタらが先発に名を連ねている。
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「試合のスタートからうまくいくとは思っていなかった。実際に一緒にプレーすることの少ないチームで、彼らはしばらくの間プレーしていなかった。ゲームに出ることで成長することを期待していたからね」
しかし、オーレ・グンナー・スールシャール監督の予想に反し、立ち上がりからユナイテッドが攻め立てた。ダニエル・ジェームズが左サイドから積極的な仕掛けを見せ、トップ下のリンガードや右サイドのマタもそれに関わって攻撃に厚みを見せた。
5分にCKを得ると、アウトスイングで蹴られたマタのキックを、スコット・マクトミネイが相手選手のマークを振り切って決めた。
ユナイテッドは20分までに9本のシュートを記録したが、その後は攻め手を欠いた。ビルドアップのミスからカウンターを浴びる機会が多く、ワトフォードには90分で18本のシュートを許している。
薄氷を踏む思いで掴んだ勝利だった。快勝ではなかったが、多くの主力を休ませて最低限の結果をもたらしたと言えるだろう。3日前のリーグカップ敗退のショックを引きずらず、ユナイテッドは順当に3回戦突破を決めた。
マンUとスコットランド人
マンチェスター・ユナイテッドはスコットランドとの縁が深い。リーグ優勝を達成した監督は3人しかいないが、そのうち2人はスコットランド人。サー・マット・バスビーは50年代から60年代にかけて5度。サー・アレックス・ファーガソンは27シーズンで13度のリーグ優勝に輝いている。
戦後まもなく、多額の負債を抱えるクラブにバスビーは監督としてやってきた。若手選手を積極的に抜擢して攻撃的なチームを作り、51/52シーズンに41年ぶりとなるリーグ優勝を達成。指揮官によって抜擢された若手はバスビー・ベイブスと呼ばれた。
ファーガソンが指揮を執った27年の間、チームは何度か世代交代をしている。クラブ史上初のトレブル(3冠)を達成したのは98/99シーズンだったが、そのころの主力を担っていたのも若い選手たちである。ギャリー・ネビル、デイビッド・ベッカム、ライアン・ギグス、ポール・スコールズ。彼らは「ファギーの雛鳥」と呼ばれている。
データサイト『transfermarkt』によれば、ユナイテッドではこれまで50人のスコットランド人がプレーしたという。イングランド人以外では最多である。往年のユナイテッドを支えたパディ・クレランドやルー・マッカリはユナイテッドで400試合以上に出場。クラブ創設以来、ユナイテッドでは常にスコットランド人が在籍していた。
リーダー誕生
今季のマクトミネイはファーストチョイスとして起用されている。指揮官は「中盤で発揮してくれるフィジカル的な要素と、リーダーシップは非常に重要だ」とマクトミネイの類まれなる資質を高く評価する。
このワトフォード戦でマクトミネイは初めてキャプテンマークを巻いている。「彼はいつもチームを引っ張っているので、彼を(キャプテンとして)テストしたかった」と指揮官は意図を説明した。
開始早々に先制ゴールを決め、90分間走り続けた。細かいミスはあったが、キャプテン初陣としては上々の結果だった。アームバンドを巻く選手としては、勝利こそが最大にして唯一の成果である。「スコットは、マンチェスター・ユナイテッドのDNAを持っている」と指揮官はマクトミネイを称えた。
「船頭多くして船山に上る」ということわざがあるが、船頭は指示を出す役割のことであって、実際にプレーするリーダーとは異なる。チームにリーダーは何人いてもいい。リバプールには優れたキャプテンシーを持つジョーダン・ヘンダーソンがいるが、ジェームズ・ミルナーというフォロワーシップを発揮するリーダーもいる。アンドリュー・ロバートソンやフィルジル・ファン・ダイクもピッチ上でリーダーシップを発揮している。
序盤戦のユナイテッドはリーグで中位を彷徨い、UEFAチャンピオンズリーグでも決勝トーナメントに進めず。11月のアーセナル戦に敗れた直後、クラブOBのロイ・キーンは「リーダーがいない」と嘆いた。しかし、苦しい時期を乗り越えたユナイテッドはリーグ戦の無敗記録を10にまで伸ばし、1試合消化が少ない状況でリバプールと勝ち点で並んでいる。
リーダーを常にピッチに立たせたいと指揮官が考えるのは自然だ。多くの主力を休ませたこの試合でマクトミネイを起用したことに、彼のリーダーとしてのポテンシャルを感じた。
(文:加藤健一)
【了】