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メッシが笑っている
最近、リオネル・メッシが笑顔でフットボールに興じている。
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昨年夏の移籍騒動があってからというもの、特にシーズン序盤はムスッとした表情で淡々とプレーしていた。試合に出ていても楽しそうではなく、チームとしても個人としても結果が出ていなかった。
ところが11月になってゴールを決め始め、この1ヶ月ほどは往時の躍動感を取り戻した印象がある。現地6日に行われたラ・リーガ第2節の延期分、アスレティック・ビルバオ戦でも2得点を挙げてバルセロナを勝利に導くと、メッシは得点ランキングでもトップタイに躍り出た。
一時は中位に低迷していたチームも3位まで順位を上げ、ようやく優勝戦線にカムバック。気持ち良さそうにプレーするメッシの復調とともにロナルド・クーマン体制も軌道に乗りつつある。
いったい何が背番号10の大エースを変えたのか。
大きな要因は、新たな相棒となりうる存在を発見したことにありそうだ。バルセロナにとって攻撃面では今季ベストゲームとも言える内容で3-2の勝利を飾ったビルバオ戦でも、2人のコンビネーションは冴え渡っていた。
メッシとペドリは、一緒にプレーし始めてから約半年にもかかわらず、言葉を交わさずとも違いに通じ合う関係を築いている。まさに阿吽の呼吸と表現するのがふさわしいだろう。
ヒールパスを繰り出す瞬間
象徴的だったのは1-1で迎えたビルバオ戦の38分、メッシの1点目の場面だ。
センターライン付近でジョルディ・アルバからの横パスを受け取ったメッシは、すぐさま前を向き、ディフェンスラインと駆け引きして飛び出そうとしていた左前方のペドリに鋭い縦パスをつける。
ペナルティエリア左手前でボールを受けたペドリは、後ろ方向にコントロールして一瞬のタメを作ると、後ろから猛然と追い越してきたメッシにヒールパスを通す。最後は絶好調の背番号10が、意表を突かれてポジションを外したGKをあざ笑うかのように、空いたコースへシュートを流し込んだ。
見事な連係である。リスクが高そうに見えるヒールパスも、18歳のインテリオールは通る確信があって蹴っていた。ボールを持った際にゴールと正対せず、半身で内側を向いていたペドリは間接視野で自分の右側からメッシが背後へ抜け出していく動きを捉えていた。
そして追い越すスピードを殺さない絶妙なタイミングで冷静にヒールパスを出したのである。ジョルディ・アルバの横パスが転がる間に、一度前方に抜け出しかけたのをキャンセルして相手右センターバックの足が届かないところにとどまり、再びディフェンスラインの裏を狙う動きに切り替えた。。メッシの縦パスを引き出すアクションからアシストまでの流れは完璧と言う他ない。
昨年12月末のバジャドリー戦でも、ペドリのヒールパスからメッシのゴールという似たような流れがあった。シンプルで無駄のないプレーに徹するタイプのペドリが、一見するとリスクが大きく不確実性の高そうなパスを選択するのはメッシとお互いの考えがシンクロした瞬間だからこそだ。
バルサ加入が決まった時には「メッシと会うのは緊張する」と語っていた青年が、18歳になったばかりにも関わらず、そのメッシと最良の関係性を築いている。プレーの感覚が絶妙にマッチするペドリという相棒を見つけ、メッシ自身も再びフットボールをプレーすることに喜びを感じているに違いない。
未来は変わらず不安定だが…
「レオ(メッシの愛称)が決めた(38分の)最初のゴールは超高速だった。彼は僕の後ろに周り、僕に向かって叫んだ。さもなければ僕のプレーは彼とタイミングが合わなかっただろう。そして、幸いにもGKが前に出ていてうまくいったよ」
ペドリは自身のアシストの場面をこのように振り返った。「これまでの人生で一度も決めたことがなかったと思う」と語るヘディングでのゴールも奪い、会心の1得点1アシスト。それでも「自分のパフォーマンス、そして勝てたことでさらに嬉しい。シーズンは長いから、トップを目指して戦い続ける」と謙虚な姿勢は変わらない。
バルサを率いるロナルド・クーマン監督も今季リーグ戦全試合出場で主力に定着した18歳に対し、「若いにもかかわらず、とても成熟していることを示している」と賛辞を惜しまない。チームとメッシの復調を引き出したのは、アントワーヌ・グリーズマンでもフィリッペ・コウチーニョでもなく、18歳のペドリだった。
とはいえ今後もしばらくは将来が不透明で、不安定なまま戦い続けなければならない。バルサでは1月24日に新会長選挙が控えており、その結果しだいでメッシ自身の未来も大きく変わっていくことだろう。
彼自身は会長選挙の投票に赴くかも、誰を支持するのかも表明していない。候補者たちの掲げるビジョンや当選後の見通しを分析する記事も多数出ているが、決してメッシにとって前向きな計画ばかりではないのも確かだ。
バルサの財政は厳しく、今季末で契約満了を迎えるメッシに来季以降もこれまでと同水準の報酬を保証できないとの見方も強い。それゆえに歴史を築いてきた大エースと袂を別つことを掲げる新会長候補もいる。
選挙の結果によってはメッシが再びクラブに失望し、ピッチ上におけるペドリとの関係性にヒビが入ってしまうことも最悪の可能性として考えられなくはない。契約満了までの残り半年間、また笑顔を失ったままプレーする姿を見なくてはならないかもしれない。
だが、日進月歩の成長を遂げるペドリには最高の手本となるメッシの存在が不可欠。2人の連係を深めていくことが、バルサの未来を創っていくことにもつながる。アンドレス・イニエスタやミカエル・ラウドルップに憧れ、彼らに特徴を色濃く受け継ぐ18歳の青年が、メッシとバルサを救済する希望の星だ。
(文:舩木渉)
【了】