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男泣きの指揮官
タイプアップを知らせる長いホイッスルを聞いた指揮官は、身体を震わせながら膝からピッチに崩れ落ちた。「今なら(監督を)引退できるね」。サウサンプトンを率いるラルフ・ハーゼンヒュットル監督は笑いながら試合を振り返った。もちろんこれは冗談だが、プレミアリーグ王者から奪った勝利が持つ価値は、勝ち点3以上の重みがあった。
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「これこそがまさに私たちがやるべき方法で、他に代替手段はない」と指揮官が語る。リバプール撃破のために特別なプランを用意したわけではなく、サウサンプトンらしい戦いで勝利を収めた。
先制点は得意のセットプレーから。アームバンドを巻くジェームズ・ウォード=プラウズがキッカーを務める。今季すでに直接FKを3本決めているウォード=プラウズは意表を突く形で浮き球のパスを送ると、ダニー・イングスがこれに反応。エースの技ありのループシュートで、2分にサウサンプトンが先制した。
サウサンプトンは4-2-2-2の布陣で攻守に上下動を繰り返す。逆サイドの選手が極端に絞る形で数的優位を作り、リバプールから自由を奪った。
後半に入るとサウサンプトンは自陣に牙城を築いた。ボール保持率は30%を切ったが、2トップも含めた11人全員が最後までディフェンスへの集中力を切らさず、4試合ぶりに奪った得点を守り切った。3試合得点がなく、4試合勝利から見放されていたが、リーグで4番目に少ない失点数をマークするサウサンプトンの粘り強さが勝った。
停滞するリバプールの攻撃陣
リバプールは3戦連続で勝ち点3を得ることができなかった。トッテナムとの首位攻防戦を制し、クリスタル・パレス戦で7点を奪って大勝したまでは良かった。しかし、クリスマス明けのウェストブロム戦は試合終盤の同点ゴールで追いつかれ、年末のニューカッスル戦はゴールレスドロー。そしてサウサンプトン戦では13戦ぶりに土をつけられた。
悪質なタックルを受けて膝を負傷して以来、チアゴ・アルカンタラは初めて先発復帰を果たしている。中盤の底に入り、相手のブロックを長短のパスで懸命に動かそうとした。データサイト『Whoscored.com』の集計では17本のロングパスを成功させて揺さぶっている。チアゴは機転を利かせたプレーでリズムを生み出していたが、チームは得点を挙げられなかった。
チアゴのパスの受け手となったのは主に3トップと両サイドバックだったが、チームはアタッキングサードでのクオリティを欠いていた。3トップは3人合わせて9本のシュートを放ったが、枠内に飛んだのは75分のサディオ・マネのシュートのみ。チーム全体でも試合を通じて枠内シュートはこの1本のみに終わった。
高精度を誇るサイドバックからのボール供給もこの日は影を潜めた。トレント・アレクサンダー=アーノルドのパス成功率は61.1%に留まり、77分にジェームズ・ミルナーと交代。相手の素早い寄せに苦しみ、ロングパスは18本中7本しか通すことができなかった。
南野拓実は3戦連続出場なし
3トップの勤続疲労は否めない。ロベルト・フィルミーノはここまでプレミアリーグ17試合すべてに先発。マネも7試合連続で先発しており、モハメド・サラーも直近8試合中7試合に先発している。
12月に入ってから唯一3人が揃わなかったのはクリスタル・パレス戦で、この試合には南野拓実が先発。3分にプレミアリーグ初ゴールを決めると、その後はゴールラッシュとなった。
大量得点の足掛かりとなるゴールを決めた南野は評価を高めたはずだったが、その後は3試合連続で出番なし。この試合では中盤の一角に膝の負傷から先月復帰したばかりのアレックス・オックスレイド=チェンバレンを起用した。この試合が復帰後初先発となったが、試合に絡めず。パス成功率はワーストの60.7%で、56分にベンチに下がっている。
ジェルダン・シャキリがオックスレイド=チェンバレンに代わって入ったが、流れを変えることはできなかった。相手の守備ブロックの前でボールを捌き、フィニッシュにつながるパスを2本供給したが、ゴールを演出することはできなかった。
競争は正念場
リバプールはフィルジル・ファン・ダイク、ジョー・ゴメス、ジョエル・マティプと本職の主戦センターバック全員を欠いている。ファビーニョに加えてジョーダン・ヘンダーソンもセンターバックで起用せざるを得ない状況で、そのしわ寄せは中盤にも及ぶ。19歳のカーティス・ジョーンズが台頭しているが、南野が中盤で起用されたのもそういったチーム事情が影響している。
チームの視点で見れば、スカッドの層は厚ければ厚いほどいい。オックスレイド=チェンバレンとシャキリをここ数試合で優先的に起用しているのは、復帰後のコンディションを見極める意味合いが強く、後半戦を睨んでのものだろう。少なくとも、南野自身のパフォーマンスに問題があるとは言い難い。
一方で3トップの交代カードとして信頼を得られていないのは事実だろう。ディオゴ・ジョッタの離脱が続くこともあり、フィルミーノ、マネ、サラーは出ずっぱりの状況が続いている。
南野を含めた控え選手たちに与えられるチャンスは限られているが、チャンスは間もなくやってくる。チームは中3日でFAカップのアストン・ヴィラ戦を戦い、約1週間の休息を挟んでマンチェスター・ユナイテッドとの首位攻防戦を迎える。
アストン・ヴィラは10月に2-7という屈辱的な大敗を喫した因縁の相手。ただ、ここまでの過密日程とユルゲン・クロップ監督のカップ戦での起用法を考えれば、大幅なターンオーバーが敷かれる可能性が高い。
2021年は南野にとってどのような1年になるか。それを占う意味でも次戦は重要となるだろう。怪我から復帰したシャキリとオックスレイド=チェンバレン、そして加入からちょうど1年が経った南野にとっては生き残りをかけたサバイバルの試合となる。
(文:加藤健一)
【了】