スーペルピッポ率いるベネベントと激突
2020年は日本だけでなく、世界中が暗い空気に包まれてしまった。新型コロナウイルスが目に見えないところで猛威を振るい続け、我々から「普通の生活」を瞬く間に奪ったのである。
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サッカー界も例外ではない。世界各国リーグで無観客試合が基本となり、スタジアムから歓声などがすべて消えた。EURO(欧州選手権)なども延期を余儀なくされ、いくつかのクラブはギリギリでの経営を強いられることに。まさに、それまで当たり前だと思っていたことがわずか1年ですべてひっくり返ったのだ。
しかし、そんな暗いニュースの多かった2020年において、希望を見出したチームもあった。その代表格はミランだと言えるだろう。近年はチャンピオンズリーグ(CL)はおろかヨーロッパリーグ(EL)出場すらギリギリ、といった状態だったが、昨年行われたリーグ戦で敗れたのはわずか2回。2020/21シーズンは無敗を維持し首位で年明けを迎えるなど、名門クラブとしての輝きを取り戻しつつあるのだ。
そのミランにとって2021年最初のゲームとなったのが、かつて赤黒のユニフォームを身に纏い暴れたフィリッポ・インザーギ率いるベネベント戦。ホームチームは昇格組だが、すでにユベントスやラツィオといった力のあるクラブから勝ち点1を奪っているなど、意地を見せることができる。ミランにとっては侮れない相手だった。
ミランはお馴染みの4-2-3-1でスタート。ズラタン・イブラヒモビッチやイスマエル・ベナセルらは引き続き不在だったが、守備の要シモン・ケアーが戦列復帰したことは朗報だった。
試合への入りとしてはそこまで良くなかったが、ミランは15分にフランク・ケシエがPKを冷静に沈め先制に成功。あっという間にリードを奪った。
ところが、その後試合のペースを握ったのはベネベントだった。4-3-2-1でセットする同チームはミランに対しても引くことなく、恐れず前から積極的な守備を行う。全体をコンパクトに保ち、相手に自由を与えなかったのだ。
こうしてベネベントを前に苦しんだミランは、追い打ちをかけられるようにサンドロ・トナーリが一発退場。自陣でコントロールが乱れ、アルトゥール・イオニツァに素早く寄せられたことで慌てて相手を蹴ってしまった。33分のことである。ミランは残り60分近くを、一人少ない状況で戦わなければならなくなった。
体力は限界も必死で耐える
10人になったミランだったが、後半開始早々の49分に追加点を奪うことができた。カウンターからラファエル・レオンが抜け出し、GKロレンツォ・モンティポが飛び出した隙を見逃さずゴール右隅へシュートを流し込んでいる。ステファノ・ピオーリ監督が喜びを爆発させた通り、この1点はかなり貴重だった。
その後のミランは11人で戦うベネベントの猛攻を耐えるという時間を過ごしていた。試合中「ボールを速く動かせ」というインザーギ監督の指示があった通り、ベネベントイレブンはテンポよくパスを回して相手を揺さぶり、着実にゴールへ迫った。ミランはGKジャンルイジ・ドンナルンマの好セーブもあって何とか失点を免れていたが、ギリギリでの戦いぶりだった。
ボールを速く動かすベネベントに対し、一人少ないミラン側は時間が経過するとともに選手個々がかなりの体力を削ぎ落とされていた。ピオーリ監督は交代枠を使いながら流れを少しでも変えようとしたが、ベネベントの勢いは止まらない。ミランは後半だけで、実に19本ものシュートを浴びたのである。
それでも、「私たちが試合に勝つことができるのは質の高い選手がいるからだが、それだけではなく、すべての選手が努力してすべてを出し切っているから。彼らは技術的に優れていても走らなければならないことを知っている」と試合後にピオーリ監督が話した通り、ミランの選手は最後まで良く足を動かし、2-0のままピッチを去ることができた。
試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、レオンはしゃがみ込み、ケシエは膝に手をついた。一人少ない中、リズムの良いパスで揺さぶってくるベネベントに食らい付く。体力はほぼ限界に近い状態だったと言っても過言ではないが、こうしたゲームを乗り切る強さこそが、今のミランを象徴している。
一方で黒星を喫したインザーギ監督は試合後に「私の考えでは、ヨーロッパで最高のGKであるドンナルンマを相手にしていたし、チームは全力を尽くしてくれたと思う。あんなに良いパフォーマンスをした後ではまた違った結果を期待していただけに、残念だよ」と話す。
また、続けて「我々はセリエAにやって来たばかりなので、このようなナイーブなゴールを許すことは我々が成熟するのに役立つはずだ。ミランにあのような2ゴールを与える余裕はない。文句は言えない。ベネベントは素晴らしい試合をしたし、それを誇りに思うべきだ」とコメントを残した。
頼れる男が復帰
インザーギ監督の言葉通り、ベネベントは素晴らしい試合を行った。合計シュート数は25本、支配率も60%とミランを大きく上回っている。もちろんトナーリの退場がなければこうした数字が残る可能性は低かったと言えるが、いずれにしても相手を大いに苦しめていたのは事実だ。
そんなベネベントに対し、ミランは2-0で勝利を収めた。要因はやはりホームチームの猛攻を耐えたところにあるだろう。守護神ドンナルンマの好セーブや最後まで走り続けたケシエらの献身性。どれか一つでも欠けていれば、2点のリードは水の泡となっていたかもしれない。
そんなベネベント戦でひと際輝きを放っていたのは、この日が復帰後初のゲームとなったシモン・ケアーである。
デンマーク代表のベテランDFは、対峙したジャンルカ・ラパドゥーラやジャンルカ・カプラーリらにほとんど決定的な仕事を与えることはなかった。対人守備ではほぼ相手を上回っており、スピード不足を補うポジショニングの良さから発揮されるシュートブロックやインターセプトなどはこの日も抜群に冴えていた。
ダビデ・カラブリアやアレッシオ・ロマニョーリのカバーリングも大きなミスを犯すことなく冷静にこなし、とにかくギリギリの場面で身体を張ってくれるのでチーム全体に安心感を与えられる。キャプテンはロマニョーリだが、このベテランDFも声を張り上げてチームを鼓舞するなど、最終ラインを引き締めた。
データサイト『Who Scored』によるレーティングは「7.8」でドンナルンマ、レオンに次ぐチーム内3位の数字。パス成功率89%、キーパス1本、タックル成功数3回&インターセプト2回(ともにチームトップの成績)と十分な結果を残している。
ケアーが欠場したリーグ戦5試合でミランは実に8失点を喫した。しかし、同選手が戻ってきた今節は第9節フィオレンティーナ戦以来のクリーンシートを達成(ちなみにケアーはフィオレンティーナ戦後に戦線離脱)。この男の存在感の大きさは、こうした成績からも明らかと言えるだろう。
次節は運命のユベントス戦。トナーリの欠場は確定で、イブラヒモビッチやベナセルも復帰できるかわからない。ケアーには再びMOM級の活躍が求められることになりそうだ。
(文:小澤祐作)
【了】