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PSG、トゥヘルはなぜ解任されたのか。戦績は歴代トップクラスも…独特なカルチャーの中で味わった苦労

パリ・サンジェルマン(PSG)は29日、トーマス・トゥヘル監督と契約終了したことを正式に発表した。後任はマウリシオ・ポチェッティーノが有力と言われている。リーグ・アン連覇、昨季はチャンピオンズリーグ(CL)決勝進出という素晴らしい成績を残していたトゥヘル監督だが、一体なぜこのタイミングで解任されてしまったのだろうか。(文:小川由紀子【フランス】)

text by 小川由紀子 photo by Getty Images

4-0快勝後に解任報道

トーマス・トゥヘル
【写真:Getty Images】

 パリ・サンジェルマン(PSG)のトーマス・トゥヘル監督が電撃解任された。

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 ニュースが出たのは、年内のリーグ・アン最終戦を終え、国全体がクリスマスモードに入っていた24日。しかもこの最終戦でPSGはストラスブールに4-0で快勝していたから、このタイミングでの解任報道は寝耳に水だった。

 もちろん、トゥヘル本人にとっても青天の霹靂だったことだろう。

 トゥヘルは本拠地パルク・デ・プランスでのストラスブール戦の後、「長く厳しいシーズンの後でのこの結果とパフォーマンスに満足している。とにかく体をしっかり休めてまたリズムを取り戻して始動する」と、年明けへの展望も絡めてコメントしていた。そこには当然、解任の気配など微塵もない。

 レキップ紙が内部情報をもとに報じた内容によれば、この会見のあとレオナルドがトゥヘルを呼び出し、「クラブの決定事項である」として即時解任を告げた。2人は小一時間ほど話し合っていたそうだが、その後トゥヘルは身辺整理をすべく、闇夜の中、ドイツ人スタッフたちとパリ郊外のトレーニング場まで車を走らせたという。

 クラブの公式HPではまだ発表されていないが、これは現在契約解除の話し合い中であるためで、条件面が確認され次第、正式に発表される見込みだ(※29日に解任を正式発表)。2021年6月までだった契約を打ち切ったことでクラブ側がトゥヘルに支払う違約金は、700万ユーロ(約8億円)相当になると言われている。

 解任のニュースが出て間もなく、キリアン・ムバッペは自らのインスタグラムにトゥヘルと抱き合っている写真をアップし、「悲しいけれど、これがフットボール界の慣いだ。けれどあなたのここでの功績は忘れません。このクラブの歴史にすばらしい一節を残してくれました。ありがとう、コーチ」とメッセージも添えていたが、正式発表前だったからかこの投稿は現在は削除されている。

トゥヘルがドイツメディアに語ったことは?

“トゥヘルの近しい人物”の証言によれば、トゥへルはレオナルドから、「なにか決定的なことがあったわけではないが、これまであったことの積み重ねから、袂を別つ時がきたとクラブは判断した」と告げられたという。

 たしかに、今シーズンに入ってから、『トゥヘル解任説』はくすぶっていた。

 そこに、最後の決め手となる一滴の油を注いだと言われているのは、ストラスブール戦の日に報じられた、トゥへルのドイツメディア『Sport1』とのインタビューだ。出回ったフランス語訳の一部抜粋によれば、トゥヘルが話したのは、次のような内容だ。

「チャンピオンズリーグ(CL)優勝まであと1試合のところまで達したにもかかわらず、パフォーマンスを称賛されるわけでもないし、どうしたって人々を納得させることができない。それは非常に悲しいし、辛い」

「(アンヘル・)ディ・マリアやムバッペ、ネイマールらがいれば勝って当然だと思われ、彼らの真摯な取り組みは一向に評価されない」

「PSGのようなビッグクラブでは、チームに関すること以外の影響が多々あり、それに対応していくのは大きなチャレンジである」

「自分はただコーチ業に専念したいが、今シーズンの前半戦を振り返ると、自分は監督か? それともスポーツ相の役人なのか? と自問してしまうことがある」

 クラブ批判というよりは率直な愚痴、といった感じだが、「まあごもっとも」という内容である。

 しかしこの取材内容にはトゥヘルが許可していないものも含まれ、フランス語の解釈にも誤りがあり、とりわけ「お役人~」の下りはドイツ流のジョークであって、彼が意図したことは違う、とトゥヘルは弁明している。

 この発言で彼のクビが決まったわけではないだろうが、クラブ側にとって、引き金を引くタイミングにはなったかもしれない。

申し分ない戦績

 これまでの2年半の任期では、全コンペティション合わせて127戦を率いて95勝13分19敗。リーグ優勝2回(2018/19、2019/20)を含む6つのトロフィーを獲得し、昨シーズンはCLでクラブ史上最高位の準優勝。リーグ・アンでの勝率75.6%はクラブ史上ベスト記録と、これまでの戦績を見れば、トゥヘルはむしろ歴代でトップクラスの監督だった。

 しかし今シーズンの前半戦は不安定で、開幕初戦から2連敗など敗戦も多く、リヨンとリールに1点差で3位で前半戦(今季は17節まで)を終了。とくに12月は、リヨン(0-1)とリール(0-0)との直接対決で立て続けに勝ち点を失った。

 CLでも後半は持ち直してグループ首位で終えたが、初戦でマンチェスター・ユナイテッドにホームで敗れ(1-2)、RBライプツィヒにも黒星を喫している。

 たんに成績が悪化していただけでなく、この前半戦は、チーム全体の雰囲気が重かった。

 8月のCL『ファイナル8』のあと、十分な休みもなく新シーズンが始動したことで、選手たちの心身の疲労が蓄積していたことがその大きな要因。主力にけが人も続出していた。

 オフの移籍市場でも希望を十分に聞き入れられず、トゥヘルもフラストレーションを抱えていた。それでもなんとか結果を出そうと奮闘しても、負ければ当然ながら責められ、勝ったら勝ったで「こんな内容の試合で…」と批判された。

開幕数ヶ月でトゥヘルは変わった

 シーズン開幕当初の彼は明るかった。

 バイエルン・ミュンヘンに負けたとはいえ、CL決勝進出は大きな成果だったし、『ファイナル8』での激闘を経てチームが熟成したことを実感し、その良い流れが新シーズンも継続することに期待していたからだ。

 しかし開幕からの数ヶ月で、トゥヘルの表情や発言はどんどん変わっていった。

 11月ごろだったか、ある日の会見でトゥヘルは「選手たちは心身ともにギリギリの状態にいる。それでもなんとか結果を出さねば、と必死に戦っているのに、勝っても内容が悪いと批判される。一体どうすれば満足してもらえるんですか?」と訴えた。マスク越しだったことで語気は和らいだが、明らかに苛立ちを感じている様子だった。

 それでも来年6月までの任期はまっとうするつもりだっただろうが、クラブ側は、トゥヘルとの溝は修復不能なところまで達していると感じていた。それに、いまのチームの重たい雰囲気を、新風を入れることで変えたい思いもあった。そこで後任候補の筆頭だったマウリシオ・ポチェッティーノとの交渉が成立したタイミングで解任を決めた、というのが今回の電撃解任の筋書きだろう。

 2月にはバルセロナと対戦するCLの決勝ラウンドも控えている。冬の移籍市場の前に新指揮官を迎えて、さっそく新しいチーム作りを開始したい思惑もあるはずだ。

ファンの反応は?

マウリシオ・ポチェッティーノ
【写真:Getty Images】

 ドイツ時代にも、トゥヘルはマインツやボルシア・ドルトムントで契約満了前に離職していることから、ドイツメディアは、「彼の性格から言って、PSGでこのような結果になったことに驚きはない」と報じていた。

 ただ、2018年夏にトゥヘルが着任したあと、チームの雰囲気は確実に明るくなり、やる気を取り戻した選手も多かった。ネイマールらスター軍団をうまくコントロールできていたし、昨シーズンのCL決勝進出は、彼だから実現できた、とも思う。

 この解任報道を受けての現地メディアでのアンケートを見ると、賛成票と反対票が半々くらい。周りにいるPSGファンに聞いても、「トゥヘルは良い監督だったと思うが、違う風を入れるのもいいのでは」という声が多い。トゥヘルがどうだというより、ポチェッティーノへの期待が先行しているといった感じだ。

 監督業はそもそも大変だが、PSGの指揮官にはさらに特殊な難しさがあるように感じる。もともとPSGは毛色が違うサッカークラブだし、カタール傘下になってからは、さらに独特のカルチャーがある。

 なによりPSGでは、一般的な評価・期待度と、クラブをとりまく者たちのそれとの差が非常に大きい。前述のドイツメディアとのインタビューでトゥヘルは、クラブ側の「要求があまりにも厳しい」ともらしたとのことだが、それは事実だ。

 2001年から2シーズン、選手としてPSGに在籍していたポチェッティーノには、ファンやメディア、クラブ関係者からの信頼、それにフランスリーグを知っているという点で大きなアドバンテージがあるが、彼も早晩、この独特のPSGカルチャーには対面することになる。まず、最初の試練はバルセロナ戦。PSGの黒歴史を変えられるかに期待したい。

(文:小川由紀子【フランス】)

【了】

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