フットボールチャンネル

そのファン・ダイクの驚異的な凄さとは? 守備で発揮する圧倒的な支配力【ファン・ダイクの取扱説明書・後編】

クロップの代名詞だった激烈なプレッシングにも変化が生じ、もはやアイデンティティの主要部分ではなくなっている。より効率的な形で試合のリズムをコントロールしようとしている最新のクロップ戦術を赤裸々にする12/14発売の『組織的カオスフットボール教典』から、フィルジル・ファン・ダイクの取扱説明書を一部抜粋して前後編で公開する。今回は後編。(文:リー・スコット)

text by リー・スコット photo by Getty Images

ファン・ダイクが持つ圧巻の守備能力

図42_fch
図42

 もちろん、ファン・ダイクが守備フェーズにおいて発揮するパフォーマンスについても考えてみなければならない。2019/20シーズンのトッテナム・ホットスパー戦で生まれた状況から、特に重要な瞬間を図42に示している。

【今シーズンのリバプールはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】


 攻撃に転じたスパーズが右側のハーフスペースでボールを持った時点では、まだリバプールが状況をコントロールすることができているかに見えた。だが、ボールに対応していたDFが足を滑らせてしまい、ボール保持者は突然のようにゴールに向けて抜け出すことができる状況となった。

 こういう状況でこそ、ファン・ダイクがチームにもたらしてくれる守備の支配力がどのようなものであるかがよくわかる。ここでファン・ダイクは、ボールを持ってゴールへ向かおうとする選手と、自身の背後からそのボール保持者のサポートに向かおうとする選手に対して突然1対2の状況に置かれたことになる。

 だが、驚異的な守備能力を持つファン・ダイクはボール保持者に対して距離を詰めつつ、サポートの選手に対しても背後でカバーし続けることができる。スパーズの選手がペナルティーエリア内へ入り込む頃には、ファン・ダイクはボールを奪いにいけるポジションに位置しており、1対1を制したところから逆に速攻を繰り出していく。

 守備フェーズにおいて非常に強力な存在であるファン・ダイクは、DFラインとゴールの間に存在する自身の背後のスペースも含めて、ピッチ上の広大なエリアをコントロールすることができる。サイドに開いたポジションであれ、中央に残ってパスコースを切る形であれ、守備陣のチームメイトをサポートする形であれ、攻撃から守備への切り替えに難なく対応可能だ。

ファン・ダイクの驚異的スピード

図43_fch
図43

 図43では、ファン・ダイクが自陣のゴール方向に戻りつつ、複数の相手選手に対応して守らなければならない状況の例を示している。

 相手チームはCBのところでボールを奪い返し、リバプールのCFと右サイドのFWからカウンタープレッシングを受けながらも、素早いパスで逃れることに成功した。すでに以前の章でも述べてきたように、リバプールがボールを保持している際には高いDFラインを敷いて前方のエリアへ移動する傾向があるため、守備陣の背後に空けてしまうスペースがひとつの弱点となる。

 この例では相手チームがそのスペースを素早く突いていくことを狙い、ロングボールの落下するゾーンに2人の選手が走り込んでいこうとする。だが、相手のアタッカー陣にとって不運なのは、ファン・ダイクには驚異的なスピードがあることだ。戻ってきたファン・ダイクは、孤立した状況で攻撃選手2人と対峙しながらも、先にボールに到達して窮地を逃れることができる。

 このように相手チームの攻撃陣が突然のオーバーロードを生み出した状況でも守り切ることができるファン・ダイクの能力は、リバプールが左SBを非常に高い位置に上げることを可能としている重要な理由のひとつだ。ファン・ダイクが不在で、例えばデヤン・ロヴレンなどがメンバーに入った場合は状況が異なり、リバプールはそれに応じて守備のシステムを調整する必要が出てくる。ファン・ダイクがいてこそ、攻撃の選択肢をフル活用することが可能となる。

(文:リー・スコット)

20201212_kanzen_kanzen

『組織的カオスフットボール教典 ユルゲン・クロップが企てる攪乱と破壊』


定価:本体2000円+税

<書籍概要>
英国の著名なアナリストであるリー・スコットがペップ・グアルディオラの戦術を解読した『ポジショナルフットボール教典』に続く第二弾は、ユルゲン・クロップがリバプールに落とし込んだ意図的にカオスを作り上げる『組織的カオスフットボール』が標的である。
現在のリバプールはクロップがイングランドにやって来た当初に導入していた「カオス的」なアプローチとは一線を画す。
今やリバプールがボールを保持している局面で用いる全体構造については「カオス」と表現するよりも、「組織的カオス」と呼ぶほうがおそらく適切だろう。
また、クロップの代名詞だった激烈なプレッシングにも変化が生じ、もはやアイデンティティの主要部分ではなくなっている。
より効率的な形で試合のリズムをコントロールしようとしている最新のクロップ戦術が本書で赤裸々になる。

詳細はこちらから

【了】

KANZENからのお知らせ

scroll top
error: Content is protected !!