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マネとサラーはロッベンを超えた。リバプールのWGが得点を量産する理由とは?【クロップ流・偽ウイング(2)】

クロップの代名詞だった激烈なプレッシングにも変化が生じ、もはやアイデンティティの主要部分ではなくなっている。より効率的な形で試合のリズムをコントロールしようとしている最新のクロップ戦術を赤裸々にする12/14発売の『組織的カオスフットボール教典』から、リバプールにとって最も重要な役割であるウイングを分析した「偽ウイング」を一部抜粋して全3回で公開する。今回は第2回。(文:リー・スコット)

text by リー・スコット photo by Getty Images

「伝統的なCF」の役割をまっとうする両WG

リバプール
【写真:Getty Images】

 逆足のサイドアタッカーが起用される傾向が支配的となってきた理由はもうひとつある。攻撃的な傾向を強めてきたSBにスペースとチャンスを与えられるという点だ。内側へ移動する傾向の強いアタッカーをサイドに置くことで、相手のSBもその動きをカバーするため内側へ引きつけられることになる。これにより、SBが攻め上がり、守備ブロックの横幅を広げられるスペースが作り出される。

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 このタイプの動きは特に、深く引いてコンパクトな守備ブロックを形成しようとする相手と戦う上で極めて効果的なものとなった。インサイドへの動きにより中央のエリアで容易にオーバーロードを生み出すチャンスが作り出される一方で、SBの縦への動きにより横幅を広く使って相手の守備ブロックを迂回し、DFラインの裏へ入り込んでゴールチャンスを生み出すことができる。

 これは比較的一般的な戦い方のパターンとなり、採用するチームを見かけるのは珍しくなくなったが、リバプールはこのコンセプトをさらに一歩進めて洗練させた。WGが相手のペナルティーエリアの両端付近にポジションを取りつつ、「伝統的なCF」のような役割を務めるという形だ。これは事実上、ファイナルサードの選手の役割が入れ替えられたことを意味する。伝統的には、WGがチャンスを生み出し、CFはそれをフィニッシュに繋げるポジションを取ろうとしていた。

 だが、リバプールではこれが正反対となる。通常、ロベルト・フィルミーノが務めるCFのポジションの選手が深く引いてきてスペースを生み出そうとする一方で、WGの選手は中央へ移動してDFラインと対峙し、得点チャンスを作り出そうとする。そのチャンスがどこで生み出されるかを考えてみれば、この動きの有効性はさらに際立ってくる。マネとサラーが放つシュートの、そして得点の大部分は、ペナルティーエリアの横幅の範囲内から、さらに言えばペナルティーエリア内から生まれている。

マネとサラーがロッベンより得点を量産できる理由は?

 これを典型的な逆足のWGと比較するにあたって、再びロッベンを例にとってみよう。ロッベンはアウトサイドからカットインし、相手のDFラインに対して仕掛けていたが、そういった攻撃の動きに続くシュートの多くはペナルティーエリアのかなり外から、あるいは得点に繋がる可能性がより低い角度から放たれていた。

 その結果としてロッベンは、スーパーゴールを決められる選手ではあったが、ゴールを量産する選手ではなかったと言わざるを得ない。ロッベンのプレーのハイライト集は、ペナルティーエリア外の遠いエリアからGKの届かないコースへ曲げたシュートで溢れている。

 だが、マネとサラーの取るポジションは、高いゴール期待値を持つ得点チャンスの創出に繋げられる可能性がはるかに高いものとなっている。ゴール期待値というのはピッチ上の各エリアからのシュートが得点に繋がる可能性を評価することを目的とした指標だ。

 この指標を算出するモデルは、無数のゴールチャンスを比較することを目的として構築され、それぞれのシュートが得点に繋がる可能性の高さに基づいて0.01から1.00までの値が段階的に割り振られている。例えば前述のロッベンのシュートの場合であれば、得点に繋がる可能性のパーセンテージは低いということになる。マネやサラーが位置するポジションからのシュートは、得点チャンスのパーセンテージがはるかに高い。

 リバプールが補強戦略において先進的な指標やアルゴリズムを利用していることを考えれば、サラーやマネのように期待値の高いエリアからシュートを放つことができる選手を優先的に補強しようとしていることも驚くにはあたらないし、当然ながら彼らがそういった効果的な特性を最大限に発揮できるような構造の中で起用することも実行している。

(文:リー・スコット)

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定価:本体2000円+税

<書籍概要>
英国の著名なアナリストであるリー・スコットがペップ・グアルディオラの戦術を解読した『ポジショナルフットボール教典』に続く第二弾は、ユルゲン・クロップがリバプールに落とし込んだ意図的にカオスを作り上げる『組織的カオスフットボール』が標的である。
現在のリバプールはクロップがイングランドにやって来た当初に導入していた「カオス的」なアプローチとは一線を画す。
今やリバプールがボールを保持している局面で用いる全体構造については「カオス」と表現するよりも、「組織的カオス」と呼ぶほうがおそらく適切だろう。
また、クロップの代名詞だった激烈なプレッシングにも変化が生じ、もはやアイデンティティの主要部分ではなくなっている。
より効率的な形で試合のリズムをコントロールしようとしている最新のクロップ戦術が本書で赤裸々になる。

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【了】

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