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ゲーゲンプレッシングとは何なのか? リバプールで変貌するクロップ戦術を知るための前提とは…【クロップ戦術の進化・前編】

クロップの代名詞だった激烈なプレッシングにも変化が生じ、もはやアイデンティティの主要部分ではなくなっている。より効率的な形で試合のリズムをコントロールしようとしている最新のクロップ戦術を赤裸々にする12/14発売の『組織的カオスフットボール教典』から、「ゲームメーカーとしてのプレッシング」を一部抜粋して前後編で公開する。今回は前編。(文:リー・スコット)

text by リー・スコット photo by Getty Images

イングランドを熱狂に包んだ「ゲーゲンプレッシング」

ユルゲン・クロップ
【写真:Getty Images】

 ユルゲン・クロップがイングランドへと渡ることを決断し、2015年にリバプールとの契約を交わした時、プレミアリーグは明らかな熱狂に包まれた。ボルシア・ドルトムントのクロップ体制は最終的にはやや低調な終わり方を迎えたとはいえ、彼は依然としてサッカー界で屈指の有能かつ好感の持てる指揮官の一人だと見なされていた。

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 その熱狂の中心にあったのは、クロップが、彼の代名詞として有名だった「ゲーゲンプレッシング」をイングランドに導入するという期待だった。だが、就任当初こそそのような兆候も見て取れたとはいえ、クロップは周囲の大半が予想していた以上に戦術面で適応力の高い監督であることを示しはじめた。

 これは何も、彼のチームが相手ボール時にアグレッシブなプレスを繰り出すことを好むスタイルを捨てたという意味ではない。むしろクロップは自身のゲームモデルのその部分を、イングランドに適応させるだけでなく、自らのチームの戦力や能力にも合わせて調整してきた。

 リバプールのプレッシング戦術がクロップ体制下で遂げてきた進化の詳細に立ち入り、2019/20シーズンを通してどのような戦いを見せてきたのかを分析する前に、まずは「ゲーゲンプレッシング」とはどのようなものであるかを正確に理解することが必要だろう。

 クロップが率いたドルトムントは、各地の幅広い移籍市場から賢く選手補強を行い、若さ溢れるメンバーで成功を収めはじめた。ドルトムントの攻撃面のゲームモデルにおいて最も重要なコンセプトは、縦へのパスの動きでカウンターアタックを繰り出し、素早い攻守の切り替えから攻撃に転じることだった。

そのため最初は、ドルトムントが守る際には深く引いてブロックを形成し、攻め上がってくる相手チームをおびき寄せた上で、相手が後方に空けたスペースを利用してカウンターを仕掛けようとしていた。

 だが、徐々に、これに加えたもうひとつのコンセプトとして、ドルトムントがボールを持っていない時に相手に積極的なプレスをかける戦い方も生まれてきた。特にこれは、ドルトムントがファイナルサードでボールを失った時に顕著だった。クロップはできる限り早くボールを奪い返すことを選手に指示しており、そういった状況ではさらに激しいプレッシングが仕掛けられるようになった。

 もちろんこのプレッシングスタイルは、ペップ・グアルディオラ体制のバルセロナがボールを持っていない際に見せていたプレーとも共通する部分があった。だが、ひとつの重要な違いがある。バルセロナの場合は1人、または多くとも2人の選手がボール保持者に寄せてプレスをかけつつ、他の選手は後退してコンパクトな守備陣形を敷いていた。

 だが、クロップ体制のドルトムントでは、プレスをかける選手がボールのあるエリアに殺到する。ドルトムントの選手4人が同時にボールに対して即座にプレッシャーをかけていくような光景を目にするのも珍しいことではなかった。

世界最高のゲームメイカーを上回るゲーゲンプレッシングの効力

 このプレッシングスタイルの背景にある考え方は比較的シンプルなものだ。相手チームの選手が守備的なポジションから攻撃の形へ移行しようと動いているところで、ピッチ上の非常に高い位置でボールを奪い返せば、チャンスを生み出してゴールを決められる可能性が高いとクロップは考えていた。

 この頃からクロップが言いはじめたのは、選手がプレスをかける上では、チームのゲームメーカーを務めるのと同じような意識を持ってほしいということだった。ある試合後の記者会見で「ゲーゲンプレッシング」がもたらす影響について論じる中で、クロップは次のように話していたこともあった。

「10番の役割の選手を、彼が天才的なパスを出せるようなポジションへ送り込むために必要になるパスの本数を考えてみるといい。ゲーゲンプレッシングなら、より相手ゴールに近い位置でボールを奪うことができる。そこから決定的なチャンスを生み出すまでには、わずか1本のパスでいい。ゲーゲンプレッシングが成功した状況に勝るゲームメーカーは世界中どこにも存在しない。だからこそ非常に重要なんだ」

 そしてクロップは、ゲーゲンプレッシングの偉大なる提唱者としてイングランドに乗り込んできた。相手がカウンターアタックによりピッチ上の前方のエリアへ攻め上がってくる前にプレスをかけることが主な狙いになるという意味で、英語では「カウンタープレッシング」という言葉に翻訳された。

 だが、はたしてリバプールは、これまでのクロップ体制を通してカウンタープレッシングのチームであり続けてきたと言えるのだろうか。

(文:リー・スコット)

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『組織的カオスフットボール教典 ユルゲン・クロップが企てる攪乱と破壊』


定価:本体2000円+税

<書籍概要>
英国の著名なアナリストであるリー・スコットがペップ・グアルディオラの戦術を解読した『ポジショナルフットボール教典』に続く第二弾は、ユルゲン・クロップがリバプールに落とし込んだ意図的にカオスを作り上げる『組織的カオスフットボール』が標的である。
現在のリバプールはクロップがイングランドにやって来た当初に導入していた「カオス的」なアプローチとは一線を画す。
今やリバプールがボールを保持している局面で用いる全体構造については「カオス」と表現するよりも、「組織的カオス」と呼ぶほうがおそらく適切だろう。
また、クロップの代名詞だった激烈なプレッシングにも変化が生じ、もはやアイデンティティの主要部分ではなくなっている。
より効率的な形で試合のリズムをコントロールしようとしている最新のクロップ戦術が本書で赤裸々になる。

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【了】

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