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35歳のモドリッチが圧倒的。衰え知らずの質と量、驚異のベテラン10番がレアルの復調をけん引【分析コラム】

ラ・リーガ第14節が現地20日に行われ、レアル・マドリードは乾貴士と武藤嘉紀が先発したエイバルを3-1で下した。相手の積極的なプレッシングを巧みにかわして試合を支配したマドリーにおいて、際立っていたのはベテラン勢のパフォーマンスだ。中でもルカ・モドリッチの充実ぶりには目を見張る。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

エイバル下し公式戦5連勝

ルカ・モドリッチ
【写真:Getty Images】

 ようやくレアル・マドリードが本来の力を取り戻しつつある。

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 今季は開幕から低調なパフォーマンスが続いていた。ラ・リーガでは下位のバレンシアやアラベス、昇格組のカディスにも敗れ、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)ではシャフタール・ドネツクに2敗。一時はジネディーヌ・ジダン監督の解任も噂されたほどだった。

 ところが今月初旬にセビージャを下してから、CLのボルシアMG戦を挟んで、アトレティコ・マドリード、アスレティック・ビルバオと難敵を次々に破って公式戦4連勝。そして現地20日に行われたエイバル戦にも3-1で勝利し、連勝を「5」に伸ばした。

 消化試合数に違いはあるものの、勝ち点で首位アトレティコと並び、再び優勝戦線に舞い戻っている。今のままの状態が続けば、マドリード勢の2クラブが今後も優勝争いを引っ張っていくことになるはずだ。

 結局、この劇的な復調において大きな役割を果たしたのは長年マドリーを象徴してきたベテラン選手たちだった。ジダン監督はここのところスタメンをほとんど固定していて、トニ・クロースやルカ・モドリッチ、ダニ・カルバハル、カゼミーロ、そして負傷から戻ってきたカリム・ベンゼマとセルヒオ・ラモスが引き続き中心を担っている。

 単に世代交代の失敗としてネガティヴな印象を持つ者もいるかもしれないが、彼らはその必要性を感じさせないほど高いレベルのクオリティを維持している。セルヒオ・ラモスやベンゼマに至っては、今が全盛期と言わんばかりの躍動ぶりだ。

 さらに際立っているのは、9月に35歳となったモドリッチの充実ぶりだ。11月上旬から公式戦10試合連続先発出場中で、うち7試合がフル出場。CLでもラ・リーガでも、週2試合の過密日程を感じさせないほどのハイパフォーマンスで中盤に君臨している。

 エイバル戦でも先発起用され、72分までピッチに立った。今月に入って最も短いプレータイムだったが、存在感は圧倒的だ。

衰え知らずの35歳

 まず開始6分にマドリーが先制した場面では、効果的なフリーランニングが光った。左サイドのロドリゴにボールを渡したモドリッチは、そのままエイバルのディフェンスラインの背後に向かって、縦にスプリントをかけた。

 そうすることで相手ディフェンスを1人引き連れていき、ロドリゴがドリブルでカットインしていくスペースを作り出したのである。大先輩からお膳立てを受けた19歳のブラジル代表MFは、エイバルのセンターバックの頭を絶妙に越すループパスでベンゼマのゴールをアシストした。

 見逃されがちだが、モドリッチのフリーランニングがなければベンゼマの先制点も、ロドリゴの華麗なアシストも生まれていなかったかもしれない。ボールを持たない状態での地味な動きが確実にエイバルの守備陣形にほころびを生んだ。

 13分にはモドリッチ自らゴールネットを揺らした。マドリーは右サイド深くに侵入し、一度は失いかけたボールにベンゼマとルーカス・バスケスが厳しく寄せて再奪取。そしてベンゼマがドリブルでえぐり、マイナス方向にラストパス。最後はペナルティエリア手前から、モドリッチが右足を振り抜いて相手の密集を射抜く強烈な追加点を突き刺した。

 味方が右サイドでチャンスメイクする際、35歳のクロアチア代表MFは中盤からゆったりとジョギングくらいのスピードで上がってきていた。自陣深くまで侵入されたエイバルのディフェンスはゴール前に集結しており、忍者のように虎視眈々と好機をうかがっていたモドリッチは完全フリーに。

 あえてゴール前に突っ込むことなく、ペナルティエリアに入らず自分の前に余裕を持ってシュートを打つためのスペースを空けて待っていた。チャンスの匂いを嗅ぎ取る最高のポジショニングで、正確にゴールネットを射抜いた。

 ボールを持たない時に動き続ければ、当然運動量は増える。だが、モドリッチは労を惜しまない。常に最も効果的にボールを前進させられる場所を見つけるため全方位に気を配り、フリーの状態を作るため細かくポジションを修正し続ける。時にはスプリントをかけて味方が輝くためのスペースを作ることもいとわず、守備に移れば前線からのプレッシングについていき、球際でも体を張る。

エロすぎた絶妙スルーパス

ルカ・モドリッチ
【写真:Getty Images】

 細身で色白なのもあって弱々しい印象を抱かれることもあるが、そんなことは一切ない。ピッチに立てば常に力強く、テクニックもプレービジョンも35歳にして衰え知らずだ。むしろプレーぶりからは若々しさすら感じる。

 シュートにはつながらなかったものの、エイバル戦の9分には思わずため息が出てしまうような美しいスルーパスも披露した。ペナルティエリア手前の左サイド寄りにいたモドリッチが、右サイドの広大なスペースに走っていたルーカス・バスケスに展開した1本のパスにはエロスすら感じた。

 ただのパスではない。ルーカス・バスケスの走るスピードを殺さぬ絶妙な急速で、しかもゴールラインをギリギリ割らないよう右足アウトサイドでちょうどいい回転をかけ、走りこんでくるところにピタリと合わせたのである。そこに通すのか! という驚きとともに、計り知れない技術レベルの高さには感服する他ない。

 そんなモドリッチも、実は今季末でマドリーとの契約が満了を迎える。

 世界最高峰のクラブでは、常に世界最高峰の競争があり、世界最高峰の選手が次々と門を叩きにやってくる。少しでもパフォーマンスを落とし、その場にふさわしくないと判断されれば移籍に追いやられてしまう激烈に厳しい環境だ。ベテラン選手とて例外ではなく、衰えが感じられるようになるとすぐに居場所がなくなってしまう。

 ところがモドリッチはどうか。35歳になってもマドリーの背番号10としてふわさしいクオリティを維持し、チームをけん引する柱の1人であり続けている。クラブも契約延長をオファーして、36歳になる来季も“白い巨人”の一員としてプレーし続けることが濃厚な情勢だ。

 チ本人も「マドリーでキャリアを終えたくない選手はいるのか? 自分だけではどうにもできないことも多くあるけれど、ここでプレーを続ける以上に僕を幸せにすることはない」と述べていて、マドリーでの引退を望む考えを明かしている。

 モドリッチだけでなくエイバル戦で1得点2アシストを記録して全得点に関与したベンゼマも33歳にして圧倒的な存在感を放っている。キャプテンのセルヒオ・ラモスも不在時に影響力の大きさを痛感させられた。クロースも健在で、29歳になったルーカス・バスケスは右サイドバックの新境地を開拓してハードワーカーとして再評価され始めている。

 衰え知らずの10番をはじめ、今のマドリーを引っ張っているのは間違いなくベテラン選手たちだ。近い将来、世代交代が必要になってくるのは間違いないのだが、30代になってもパフォーマンス低下の気配すらない彼らを見ていると常識を疑い始めてしまう。老いと衰えとは一体何なのだろうか…と。

(文:舩木渉)

【了】

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